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Never Garden < 三芒星編 >  作者: RONTAISHAN
第一話「 シルエット 」
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シルエット

挿絵(By みてみん)






     The Sounds may be heard in your mind at this scene.

     [ So Small - Thomas Bergersen ] 

 


 黒く切り抜かれた美しいシルエット、山頂に佇む四つの影。

 遮るものの何一つない、荒野の星空。




「どうして、星はあんなに輝いているの?」 

 瞳におさまりきらない満天の星々が輝き、長い髪がその光を受け漆黒の輝きを放っている。あどけなさを残しながらも、長いまつ毛の綺麗な目元に女性らしい美しさが宿り始めていた。


「宇宙には、たえず新しいチッタが生まれている」

「その一滴が波紋のようにひろがり、星に出会うと瞬きをする」

 フードで顔を覆った小柄な男は答えた。

「もし、きらめきがなくなったらどうなるの?」

「結晶化した時のない凍った(そら)になる。美しさはうつろいの中にあるんだよ。サリー」


 そこにいるのに、あちらこちらから響く不思議な声。

 もう慣れたから、気にしないけど、この幻想的な今の瞬間にぴったり。


 素敵なカマラの声を聞きながら、サリーには星がこのまま固まって宝石になっても、天空の美しさに変わりはないように思えた。

 

 見渡す限り、多様な廃棄物が広がる ― 文明のあり様を露呈した広大な(ごみ)集積場。子供たちは注射針やガラス片の突き出た山を裸足で登り、再生可能なゴミを拾い集め、売り、わずかな日銭で日々をしのいだ。



 遠くの彼⽅、鯨の親子がお互いを呼び合っている。唄声が砕ける波しぶきを舞い上げ、一日が終わりを迎える夕闇に吹く風と混じる。子供たちは時折、ごみ山の頂にやってきた。洗い流しきれない気持ちを、潮風が吹き抜けていく。


 海風にのった花びらがニーロのちいさな膝に乗ったぬいぐるみの鼻先に舞い降りると、サリーはそれをつかんで、彼女の鼻先にちょこんとのせてみた。寄り目になったニーロに吹き飛ばされ、ひらひら舞い上がり、白い蝶のようにマークの手のひらに落ち着いた。


「出発しよう」


 強い意志を言葉に込め、花びらを握りしめるとマークは立ち上がった。


「どこかに行っちゃうの?」


 サリーが心配そうにマークを見上げる。


 彼にあてなどない。海のため息が昼間のむせ返る悪臭を洗い流すこの時でさえ、癒える気持ちは何一つなく、祈る願いもない現実が胸に充満している。この地では見かけることのない異国の風貌をもつこの少年は、厳しい眼差しを黒い水平線に向けていた。


 その横顔の向こう側、夜空の異変にサリーは気づいた。星座をつむぐ星が欠けている。目を凝らすサリーがまばたきする間にまた一つ、星が消えた。次の一瞬、いぶし銀の鈍い光が黒い輪郭を映し出すと、思わずサリーはすらりとした指を突き出した。

「あ!」

 ちがうわ。星が消えているんじゃない…天の川を横切る、、うっすら輝く…船⁉


 サリーの指先には、間違いなく楕円形の何かが浮いていた。

「ニーロ、起きろっ」

 マークの脚に頭を預け、うとうとまどろむニーロに呼びかける。

「あれが見えるか!」

 ぬいぐるみと同じようなあどけない表情をするニーロに寄り添い、夜空の一点をピタリと指す。


 ニーロが目をこすっていると、それは青白く光って、東の空へ少しだけ動きを早めた。するとマークはその輝きに引き寄せられるかのように、ふらつくニーロを左脇に抱え、右手にサリーの手をとって、いきなりごみ山を駆け降りていった。


 子供たちの後ろ姿に優しい眼差しを送るカマラ。しかし、すぐに目つきを変えた。


 山頂に立ち並ぶ人影がカマラを取り囲む。闇に溶けた男たちが放つ独特な気配は、立ち込める悪臭と何も変わらない。

 男が乱暴にカマラのフードを剥ぎ取る。両生類を思わせる鼻筋のない、のっぺりとした(つら)に二つの鼻腔。手のひらのない腕の先に伸びた長い三本の指。


「ダメだ。売りもんになんねぇー」


 吐き捨てるように言うと、左耳のつぶれた男はカマラの横にしゃがみ込み、じっとりと前方を見据え、くわえていたタバコを大きく吸い込む。


 月あかりに照らされ、斜面をかけ降りていく子供たち。

 濡れたように艶やかな光沢が、男の子の斜め後ろを小走りについていく少女の長い髪をすべり落ちる。


「ふー。ゆっくり、近づいてみるか、、」

 立ち上がると、ルタはカマラめがけてタバコを弾いた。


風が止んだ。無風状態の(なぎ)が、落ちたタバコの煙を垂直に立ち昇らせる。海陸風かいりくふうは、昼は海から陸へ、夜は陸から海へと風向を変える。間もなく、陸風が吹く。


「さてと、どんな格好で逃げてくれるかな~」


 必死な形相と滑稽な逃げ方を思い出し、男たちはニタニタとだらしなく顔を歪めた。

 簡単に仕留めても味気ない、追い風に音を乗せて、少しずつ、、ゆっくり、と。

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