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エリュシオン - Ēlysion - ,オリンポス・夏の日の夢編  作者: Torie Aki
第一節・夢へのいざない
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003 一つの影とエリス

第三章 一つの影とエリス


「どうやら、〝もう一つの影〟がやって来たようね」とエリスが言った。

「ああ、彼は今までも幾度となく、世界を渡ってこの世界に来ている。今日こそ彼との接触をはかる時だ」と一つの影は言った。

「それで、今日は上手くいくのかしら?」

「ああ、準備は出来ている。彼はあの森を通ってこの世界に来る。そして、あの森の道を通り、国を分かつリベル川を渡ってこの国に来る。あとはこの影の城へと誘い出すだけだ」と一つの影は言った。

「その〝もう一つの影〟とはいったいどういった存在なのかしら?」

「さあ、詳しいことは私にもわからない。しかし、影としての存在であるがゆえに、この私と同じ存在であることは確かであろう。そして、上手くいけば彼を使って、この世界の理を変えることができるかもしれない」

 一つの影はそう言うと、そびえる影の城の中から地上を眺めた。一つの影の眼下には影の国の夜景が広がっていた。碁盤目上に並んだ市街は眩しい光を放ち、車やビルの光がせわしなく夜の闇を照らしていた。

 一つの影と呼ばれたその存在は、白く無造作な髪形をしており、顔には幾つかのしわが刻まれていた。しかし、その年齢を判別することは難しく、むしろ少年のように若い顔立ちをしていた。そして、その白髪からは真紅の赤い目を覗かせていた。

エリスという少女は一つの影のそばにいた。ウェーブのかかった金髪の髪に青い瞳。そして、黒と赤を基調とした派手目のドレスを着飾っていた。

そして、一つの影の右手には赤黒い液体が入った杯があり、その中には〝もう一つの影〟の姿が写し出されていた。


「影王様!今回はモノポックルやグリーミーは使うのですか?」と仮面商人が言った。

「仮面商人か。…そうだな、いや、今回はモノポックルもグリーミーも使わん。〝もう一つの影〟もまた私やモノポックルと同じ影の存在であるからな。それに今は彼に危害を加えるわけにはいかん」と一つの影は言った。

 仮面商人と呼ばれた者は、どこかの少数民族が身に付けるような仮面を顔に付け、体を大きな黒いマントのようなもので覆っていた。そして、そのマントの下には沢山の仮面が収納されており、それは彼が動く度に、カラカラカラ…、という音を鳴らしていった。身長はエリスと呼ばれた少女のそれよりも低く、一メートル半ぐらいの小柄な体型をしていた。

「シシシシ…。わかりました、影王様。今回は私めは何もしなくてよい、という事で」

「そうだ。今回は私が彼にここに来るように道中に誘導を施した。何も問題がなければ、彼はここに連れて来ることができるだろう」


「影帝様。〝もう一つの影〟とやらが何者かの手によって、連れ去られたようですよ」と児人頭ポージントウがやって来て、突然そう言った。

「何!児人頭、それは本当か?」と一つの影は言った。

「はい。わたくしが見張っていた時に、何者かの機械によって〝もう一つの影〟は瞬時に何処かへと移動させられた様ですよ」と児人頭が言った。

 一つの影は杯の中を覗き込んだあと、思わずその杯を床に投げつけた。そして、非常に困惑した様子で辺りをうろついていた。

「失敗しましたね」とエリスが言った。

「…まあ、よい。次にまた彼をこの世界に呼び寄せればいいだけだ。そして今度は彼を影としてではなく、彼の現実の身体と一緒にな。打つ手は幾らでもある。仮面商人、彼を移動させた人物がまだ近くにいる筈だ。後を追え。モノポックルも何体か使ってよい」と一つの影が言った。

「シシシシ…。わかりました、影王様。この私めにお任せを」

 仮面商人はそう言って、影の国の闇夜の中へと消え去っていった。後には仮面商人のマントの下の仮面がぶつかり合って鳴る、カラカラカラ…という音だけを残していった。

「誰かが私の邪魔をしているな。この影の国に潜んでいる何者かの仕業であることは確かだ。まあ、いい。この私に楯突こうものなら、相手をしてくれよう。計画はこれからだ」と一つの影は言った。

「そうね、計画は実行されなければならないわ。私はもうこの世界は見飽きてしまったもの。早く違う世界に行ってみたいわ」とエリスは言った。

「そうだ、エリス。その時はもうすぐだ」と一つの影は笑って言った。

「そうね、シャドー。私も楽しみだわ。アハハハハ……!」とエリスの高笑いが影の城の中に響き渡った。

 影の城は影帝国のやや西の中心部にあり、影の城を中心にして多くのビルが取り囲うように林立していた。そして、闇夜の奥深い暗闇の中を高層ビルのライトや道路に面した外灯が照らし出していた。それでも、影の国にはうごめく広大な〝闇〟がその地を支配していた。影の国での人工的な眩しい光とそれを包み込む広大な〝闇〟は、夜空を照らす星々や月の力を奪っていった。影の国からこの世界を揺るがす巨大な〝何か〟が始まろうとしていた。



 カンカンカン……。地下道を駆けていく二人の足音が鳴り響いた。

「ミツル、俺達の後を付けてくるものはいないか?」とジュンは走りながら言った。

「そうだね。今はたぶん大丈夫だよ、兄さん。でもどうかな?奴らは僕達の妨害に気付いている筈だ。追撃してくるのは間違いないね」とミツルは言った。

「すると、俺達の妨害は上手く成功したのか?」とジュンが言った。

「ああ、〝もう一つの影〟は今頃、父さん達の所にいると思うし、今回の作戦は成功だね」

「そうか、後は俺達が追撃をかわし、上手く逃げ去るだけだな」

「うん、あともう少し行けば地上に出て車に乗るだけだね」

「そうだ、手抜かりの無いようにな」

 二人の男は駆け足でその場を去って行った。そして、地上に上がり、停めてあった車に乗り込み、エンジンを掛け、影の国を後にした。しかし、遥か遠目からその様子を仮面商人は見つめていた。そして、その先には仮面商人の手による幾つかの影が二人の男のあとを追っていた。


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