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エリュシオン - Ēlysion - ,オリンポス・夏の日の夢編  作者: Torie Aki
第一節・夢へのいざない
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010 影の襲撃

第十章 影の襲撃


「影が…、来る!」

ユリがそう言ったと同時に、後ろからジュンさんの大きな声が僕の耳に響いた。

「ふせろ!!」

 僕はとっさに隣にいたユリの手首を掴み、その場にしゃがみ込んだ。

「ダーン!!」とその場に大きな銃声が響いた。

「ギヤヤヤャャャャアアアーーーー!!」

 それと同時に、何かが割れる音と恐ろしい何かの叫び声が聞こえた。

「奴らだ!一体仕留めた!合計三体で、残り二体だ!」とジュンさんは僕たちの近くで叫んだ。

「オーケー!この暗闇の中、銃は危険だ。あとは、バットで仕留める!」とミツルさんは言い、ジュンさんに金属製のバットを手渡した。

「分かった!そっちを頼む!」とジュンさんは言った。

「二人とも下がっていて!」とミツルさんは僕たちに険しい表情で言った。

 僕は何も答えず、ユリの手首を掴んだまま、家のすぐ前まで下がっていった。よく目を凝らすと、遠くには何か仮面のようなものが闇の中に浮かんでいて、それはまるで影のように、ゆらゆらと不気味に動いているのが見えた。

「奴らは、影だ!おそらく君のことを狙っている!そこから動かないで!」とミツルさんは叫んだ。

 ジュンさんとミツルさんとの幾つかの合図のあと、僕たちの目の前では、真っ暗な暗闇の中、闇に浮かぶ仮面とジュンさんとミツルさんとの死闘が繰り広げられた。

 二人は黒い影のようなものに金属バットを振るい、何とも言えない生き物の断末魔のような叫びが聞こえた。

「こいつらはやはり、モノポックルだ!」とジュンさんは言った。

「うん、こいつらの狙いは石田ミノル君だ!」

「油断していた。こいつらは俺たちのあとを追ってここまで来たな!」

「兄さん!後ろ!」とミツルさんは叫んだ。

 ジュンさんの後ろにもう一体の影が襲い掛かろうとしていたが、素早い動きでジュンさんはそれをかわし、瞬時にその影に足蹴りを喰らわせた。

「これで、最後だ!」

 ジュンさんはそう叫び、背後から襲おうとしていた影に、金属バットを振り落とし、その影についている仮面の割れる音をともに粉々に砕けた。

「こっちだ!」

ジュンさんが影の仮面を割ったのに間髪を入れずに、ミツルさんがジュンさんの前にいた、もう一体の影に金属バットの打撃を加え、その影の仮面も粉々に砕け散った。

「グアアアァァァァーーーー!!」

恐ろしげな何かの叫び声とともに、宙に浮いていた粉々になった仮面が、地面に落ちた。仮面が付いていた影の体も、その叫び声とともに消失していった。

激しい戦闘のあと、どうやら影たちの動きは止まったようだった。


「どこだ!どこにいる!?こいつらを操っているやつがそばにいる筈だ!」とジュンさんが叫んだ。

「……!」

 僕はジュンさんのその言葉に驚いた。この影のような怪物を裏で操り、僕のことを狙っている人物がいるということだ。作蔵さんやミツルさんの言っていた〝一つの影〟という人物なのだろうか。

「近くにいるのはわかっているんだ!おとなしく出てこい!」とジュンさんは言い、腰に携えていた短銃を撃ち放った。

「ダーン!!」

 ジュンさんの威嚇射撃は少し先の大きな樹の枝を揺らし、ザワザワザワとカラスが飛び交い、樹々の葉を落とした。

「……、シシシシ…。荒っぽいですねえ……」と何者かがまるで嘲笑うかのように言った。

「お前は誰だ!?〝一つの影〟の手先か?なぜモノポックルを俺達に襲わせた!?」

「シシシシ…、モノポックルの名を知ってる者がいようとは、興味深いことですね…。あなたたちは私達の影帝国の住民ですかな?」と声の主は言った。

その声の主は、大きな樹の枝の上に佇んでいるようであり、二つの赤い目が闇の中に揺れ動いていた。

「いいから、俺の質問に答えろ!」とジュンさんは言い、二度目の威嚇射撃を放った。

「ダーン!!」

 ザワザワザワ…、とまた樹々の葉が揺れ、辺りは沈黙に静まり返った。それと同時にジュンさんは気付かれないように、その声の主との間合いを縮めていった。ミツルさんは僕たちに危険が及ばないように、手を伸ばし、僕たちのことを守っていてくれた。

「穏やかじゃないですねえ……、私の用があるのはその少年です。おとなしく引き渡してもらいましょうか?」

「お前はいったい何者だ!?どうしてこいつを狙う?」とジュンさんは銃を突き付けていった。

「やれやれ……、私の正体を明かすわけにはいきませんが、自己紹介はしましょう。私はとあるしがない仮面商人。あちこちの仮面を集め、生業としています」

「ふざけんな!お前はいったい〝一つの影〟とどういう関係だ?やつと何を企んでやがる?」とジュンさんは叫んだ。

「シシシシ…、まあそう怒らなくとも。影王様は私の今の主。恐れ多くも私は影王様に仕えている身でございます」

「影王?〝一つの影〟のことか!?奴と一緒に何をしようっていうんだ?」

ジュンさんは幾つかの問答とともに、確実にその仮面商人と名乗る者との距離を縮めていった。

「シシシシ…、それはどうしても言えませんねえ…。ただ、私達はその少年に用があるのですよ」とその仮面商人と名乗る者はあざ嗤うように言った。

「そんなことさせるか!」

 ジュンさんはそう言うや否や、三度目の銃撃をその者に放った。その銃身はその者の体の心臓の位置に打ち込まれた。

「シシシシ…、無駄ですよ…。そんなことしても」

 仮面商人と名乗る者は銃身をその身に喰らった瞬間、キラッと赤い目が光り、ザワッと身を包む黒いマントが広がって、その黒いマントの中に銃身は吸い込まれていった。

「シシシシ…、これはほんのお返しです」と仮面商人は言った。

「チューーン!!」

 ジュンさんの放った筈の銃身は、仮面商人のマントの中に吸い込まれ、一瞬の間を置いて、こちら側に跳ね返って来た。

「……!」

 銃身はジュンさんのもとに向かって跳ね返ってきたが、すんでのところでジュンさんはそれをかわした。

「お前、いったい何者だ?何をしやがった!?」とジュンさんは叫び、再び銃口を向けた。

「だから言ったでしょう?私はただのしがない仮面商人。しかし、あなた達にモノポックル達も壊されてしまったし、いささか分が悪いですね…。まあ〝もう一つの影〟の足取りは掴めましたし、今日はここらでお暇しましょう。さようなら、皆さん。また会いましょう。シシシシ…」

 仮面商人はそう告げ、黒い大きなマントを広げ、バサッと飛び去った。飛び上がった瞬間に一瞬その姿が見えたが、仮面商人もまたその顔に呪術的な奇妙な仮面を付け、その体は一メートル少しと子供のように小さな体躯だった。

 カラカラカラ…、仮面商人が飛び去り消えたあとには、まるで何かが軽くぶつかり合って鳴るような音が取り残されていた。そしてそれは、まるで仮面商人の嗤い声のようでもあった。」


「おい!お前らは大丈夫か?」とジュンさんは言った。

「ええ、僕はひとまず大丈夫です。でもユリは…」

 僕はそう言って、ユリの方に目を落としたが、ユリはしゃがみ込んだまま、茫然と何もない虚空の一点を見つめていた。

「おい、ユリ。大丈夫か?しっかりしろ」とジュンさんが声を掛け、ユリの肩を叩いた。

「…………」

 しかし、ユリはうつむいたまま、何も言わなかった。

「ユリ、大丈夫?どうかした?」とミツルさんは言った。

「……、サミシイ、サミシイ、カエリタイ、ってその影が言ってた…」とユリは呟くように言った。

「…………」

 僕とジュンさんとミツルさんの三人は、その言葉の意味をしばらく考えていた。


「みんな、大丈夫かな?怪我はないかな?」

 作蔵さんは家の戸を開け、外にいる僕たちに声を掛けた。

「ああ、大丈夫だ。俺達を襲おうとしたモノポックルは三体とも、すべて壊した。仮面商人とか名乗るやつがモノポックルを操っていたみたいだが、そいつもどこかに逃げたみたいだ」とジュンさんは言って、その場に落ちていた金属のバットを拾い、家の戸の横にカラン、と立て掛けた。

「そうか。ユリは大丈夫かな?」と作造さんは尋ねた。

「…………」

 やはりユリは押し黙ったまま、うつむいていた。

「取り敢えず、皆家にお入り。外は大丈夫だろう」と作蔵さんは言った。

 ジュンさんとミツルさんは頷き、辺りに散らばっていたモノポックルの仮面を拾い集めていた。

「ミノル君、ユリの様子はどうかね?」と作造さんは言った。

「はい、少し茫然としています。さっき、影が来ると言っていました」と僕は答えた。

「そうか、家に入って休みを取れば問題はないだろう。この子はそういうものを感じやすいんだ」

「感じやすい?」

「そう、霊感みたいなものだよ。モノポックルというのも一種の霊みたいなものだからな」と作蔵さんは言った。

「これで全部だ。仮面はすべて拾い集めた」とジュンさんは言った。

「うん、でもどうやらモノポックルの本体はこの仮面じゃないみたいだね…」とミツルさんは言い、ジュンさんとミツルさんは家の戸の前にやって来た。

「父さん、もう大丈夫だよ。ひとまずユリを家の中で休ませて」とミツルさんは言った。

「ああ、そうだね。モノポックルの悪い影の気に当てられないうちにな」と作蔵さんは言った。

「あの、モノポックルとは何ですか?影とは何ですか?なぜ僕は狙われているんですか?」と僕はそう言い、尋ねた。

 ジュンさんとミツルさん、作造さんの三人は一瞬、互いに顔を見合わせ、何かを考えているようであった。

「まあ、ミノル君、取り敢えず家にお入り。話はそこでしよう」と作造さんは言った。

 僕たちは黙ったまま、家の中へと入った。外は真っ暗な闇に包まれていた。辺りには、モノポックルと呼ばれる不気味な影の残した、暗い雰囲気が漂っていた。空には三日月が西の地平線に沈みそうになっていて、まるでそれは音のない闇の大地に飲み込まれていくようであった。


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