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異世界リクルート・四つ葉人材派遣会社  作者: デボラ
顧客ファイル1・ピーターバーグ共和国
9/17

ワッサルー子爵領の銀縁眼鏡

異世界の言語は書けません

「どうも,コンタドールです.よろしく」


玲於奈は,そういってにこやかに話しかけてくる銀縁眼鏡を見ながら複雑な表情を隠せていない自分を自覚していた.というより,隣にいる理恵がもっとすごい表情をしているから,自分も少なからずそうなのだろう,と判断しただけだが.


「ええと,野々井と申します.コンタドールさん,あれ,畠中さんとはご親戚か何かですか」


理恵も黙ってこそいるが,その表情は「気になります」という意思を隠してすらいない.


「ははは,いえ,違いますよ.もちろん畠中さんのことは存じ上げていますし,彼と何度もミーティングをしましたが,それだけです.でも,お二人の気になっていることはわかります.この顔でしょう?」


コンタドールは,そういって自分の顔を指さす.


「この顔は,この応接室にかけられた魔法の効果なのです.畠中さんがおっしゃるには,あの四つ葉人材派遣さんと繋がっている部屋はいくつもある様ですが,そこの中では皆さんからみた異世界側の担当者,事務官ですか,の顔は自動的に畠中さんの顔に変化するようです」


野々井は,なんだそれ,という本音が喉まで出かかった.


「なんですか,それ」


一方で理恵は口に出していたが.


「ははは,不思議ですよねえ.まあ,この生真面目な紳士然とした見てくれは嫌いではないですから,気にしていませんけどね」


「僕らは複雑ですねえ.こっちの世界に来ても畠中さんとお会いするとは.もし二つの世界を繋ぐ道でお会いしたら,どちらがどちらかわからなくなりそうです」


玲於奈としては,そんな摩訶不思議な空間に迷い込みたくはないのだが.


「その心配はありませんよ.我々は彼と契約するときに,眼鏡は一種類しか使わないことを取り決めました.ですから,こちらは常にこの純銀眼鏡ですし,向こうはあの不思議な柄のもので変わりません」


「いや,そういうことではなくてですね・・・いえ,もういいです」


玲於奈は,このどこか飄々としたコンタドールという男と意思の疎通を試みることに無力感を禁じ得なかった.風貌は完全に畠中氏なのだが,言葉の端々に軽薄な印象が拭えないのだ.玲於奈は,理恵に小声で話しかける.


(なんかさ.僕は思うんだけど,彼もなかなかユニークだね.なんというか,かなり趣味がマイナだ)


(いえ,マイナというか,もうあれは変態です.というか,異世界に来ていてなんですが,異世界に行けることよりも異世界でも同じ顔を量産している畠中さんが一番の不思議生物ですよね)


(それはそうだね.ただ,このコンタドール氏は,この世界でかなり上位の人間だね.眼鏡をしている)


(あ,それ思いました.しかも純銀ということは,自前でしょうしね.ここにくる前にもらった資料では,こちらの世界ではそこまで視力矯正の概念が進んではいませんでした)


(例外は工芸品の職人とかだけど,あれはどちらかというと拡大鏡という使い方のようだった)


(つまりは,貴族階級の屋敷で働く家令あたりでしょうか・・・)


玲於奈と理恵がコソコソと話していると,そこにコンタドールが話しかけてくる.


「すみません,お話しし忘れていました.これも魔法の影響なのですが,この部屋では隠し事はできません.小声であっても聞こえてしまいます」


どうやら,しっかりと聞かれていたようだ.初対面にかかわらず,変態呼ばわりをしてしまった理恵は少し目をそらしている.そんな様子を見ながらコンタドール氏は口を開く.


「改めて自己紹介しましょう.ジルベルト・コンタドール・ワッサルーと申します.当代の子爵の双子の弟になります.兄には息子がいますので本家を次ぐわけではありませんが,一応,共和国議会から準男爵の称号と地位を頂いております.ここにいるのは,兄の考えに賛同して「転生人材活用事業」を進めようと考えているからです.お二人はこの事業の要であり試金石となるお方だと了解しています,くれぐれもよろしくお願いします」


そういって頭を下げたコンタドール氏,いや,準男爵を見ながら,玲於奈は先ほど抱いた疑問が氷解するのを感じた.この酔狂とも取れる「転生人材活用事業」などを行おうとする先進的かつ柔軟な考えを持つ貴族当人であれば,一般に普及しているとは言えない視力矯正を行おうとも考えるだろうし,そのフレームにわざわざ純銀を利用しようと考えても納得がいくのだ.また,こちらを現地担当者として,その立場を過不足なく見極めようとする態度にも好感が持てる.少なくとも,玲於奈はこのコンタドール準男爵をビジネス・パートナとして信頼する気持ちになっていた.


「へえぇ,変態お貴族様ですかぁ」


惜しむらくは,こちら現地担当者の一人が,コソコソ話ができないという先ほどの忠告を全く理解していない点であった.


ちなみに後で聞いたことであるが,各世界での畠中氏似の事務官たちの間では,メガネの特徴をコード・ネームとして利用しているようだ.コンタドール準男爵は,「銀縁」で通じるらしい.であるなら,本家の畠中氏はやはり「べっ甲」であろうか.玲於奈は「べっ甲係長」だの「銀縁係長」だの名付けた自身のネーミングセンスに近いものを感じ,なんとも言えない気持ちになった.

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