嵐の山荘
のんびりおしゃべりをしながら歩いていると、急に天候が悪くなった。
作り物じみた灰色の雲が猛スピードで空を覆う。
昼過ぎとは思えないほど薄暗くなり、自分の足元さえもはっきりしなくなる。
サークルの先輩が所有するロッジは山の中腹にある。
急ぎ足で向かうが、そこへたどり着くまでにさらに暗くなり、雨が降り始める。
あっという間にどしゃ降りになり、私たちは目指すロッジへ駆け込んだ。
「これは外には出られないね」
「天気が回復するまではここでじっとしているしかないな」
「まずは着替えないと」
濡れてしまった服を着替えて、もう一度集まる。
頑丈さだけが取り柄という雰囲気の古ぼけたストーブに火を入れ、それを囲む。
湿った肌が乾いてくると、窓の外に比べてはるかに過ごしやすい場所にいる安心感からか、あいにくの悪天候もこの日のために用意されたイベントのように思えて、どこか高揚した気分になってくる。
「ミステリー小説の冒頭みたいな雰囲気だね」
私はつぶやき、すぐに、また空気の読めないことを言ってしまったかと不安になる。
メンバーは大げさなほどの笑顔で、
「本当だ」
「こういうの読んだことがある」
「登場人物になった気分だね」
と盛り上がっていた。
ほっとした私が、
「じゃあ一番最初に殺されるのは誰だろうね」
と言った瞬間、誰もしゃべらなくなった。
沈黙の意味がわからなくて、周囲を見回す。
誰もが互いをうかがうように、視線をさ迷わせていた。