心臓を捧げるに足る世界
昔々のお話です。
遠い世界のお話です。
あるところに、自分の心臓と引き換えに一つだけ願いを叶えることができる女の子がいました。
女の子はその力に目をつけた悪い王様に捕らわれ、心臓を奪うため処刑されることになりました。
女の子は逃げ出すために心臓を使うわけにもいかず、大人しく王様に殺されることにしました。
処刑の日、いよいよ胸を切り裂かれるというところに、とある国の勇者がやってきました。
勇者は悪い王様の噂を聞き付け、女の子を助けに来たのです。
王様を倒し女の子を救った勇者でしたが、お城の兵士から受けた傷で今にも死んでしまいそうでした。
女の子は勇者を救うために心臓を使おうとしましたが、
「私に心臓を使ってはいけない。色んなところを見て回り、本当に叶えたい願いを見つけたときに使いなさい」
と言い残し、勇者は死んでしまいました。
女の子は悲しみました。
しかし勇者の言いつけ通り世界中を見て回ることにしました。
女の子は大きな都市に行きました。
そこではたくさんの人が幸せそうに生活していました。
女の子はお腹が空いてしまい、道行く人たちにパンを恵んでくれないかと頼みました。
しかし誰も止まってくれません。
いよいよ動けなくなった女の子の前に、小さなパンが差し出されました。
差し出してくれたのは女の子より少しだけ大きい男の子でした。
男の子は両親が居なくて一人で路地裏で貧しく暮らしていました。
女の子は男の子が幸せに暮らすために心臓を使おうかと思いました。
しかし男の子は、
「僕よりも貧しくて苦しんでいる人がたくさんいるんだ。使うなら僕よりもその人たちのために使ってあげて」
と言いました。
女の子はすぐに答えが出せず、しばらく考えてみることにしました。
翌日、男の子の住む路地へ行くと男の子が死んでいました。
町に住む子供達が、男の子が貯めていたお金を横取りするために殺したのでした。
女の子は悲しみました。
しかし男の子の言葉を思いだし、苦しんでいる人たちを探すため世界中を見て回ることにしました。
その後女の子は様々なものを見ました。
神様のために殺し合う人。
偉くなるために周りの国を攻撃しつづける国。
苦しい生活のなかで自分の子供を殺したお母さん。
世界中を見て回った女の子は、いよいよ願いを決めました。
「私の願いはこの世界を終わらせること。綺麗さっぱり終わらせること」
そして女の子は心臓を引き換えに願いを叶えました。
世界にあったものは全て消え去りました。
憎しみも、悲しみも、喜びも、全て、全て消え去りました。
最後に何も無くなった世界を見て、女の子は満足して死にました。
昔々のお話です。
遠い世界のお話です。
個人的にはハッピーエンドです。
女の子は満足して死にましたから。