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新米召喚士を呼ぶ声  作者: 西上成隆
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プロローグ

ある晴れた日に少年は一本の木の下で草原という名のカーペットに座り本を読んでいた。

彼は本のページが風で飛ばないようにしっかりと抑えながら読書をしていると草原の緑と空の青色の中にポツンとクリーム色の髪が特徴的な少女が少年のいる木に向かって歩いてきた。少女は目にゴミが入らないようにしているのか目を少し閉じながら歩き木の所で読書をしている少年を見つけると飼い主を見つけたペットみたいに目を開き駆け足で向かっていった。

「やっぱりここに居た。こんな忙しい時期にのん気に読書だなんて」

「何か村にいるとどうも落ち着かなくて読書もろくに出来ないからって言うのはダメかな?」

彼女は彼の言い分に溜め息をつくと半分呆れた顔をしながら彼の横に座った。

「相変わらずイニスって自分の興味を持ったこと以外には全然関心がないよね」

「関心がないって言うのは心外だ。僕は興味のある事以外も考えているさ」

「本当~?小さい頃からのイニスを知っている私からしたらさっきの言葉は信用し難いものがあるな」

イニスの言葉を直ぐに切り捨てるような発言にショックを受け不機嫌になりながら読書を再開し始めた。彼女はイニスに顔を近づけ本の中身を見て頭にはてなマークを浮かべた顔をした。

「今度はどうしたリイン?僕は読書の途中だからさ」

「ねえ、この本どうしてこのページ白紙なの?」

イニスの読んでいる本を見たリインの疑問には誰でも思っただろう。何故ならリインが言ったようにこのページには絵どころか本には必要不可欠な文が一つもなかったのだから。

「分からない、僕もこの本を見た時は驚いたよ。多分白紙の状態で本にしたと僕は思うよ」

「何それ?やる気絶対ないでしょその人」

冗談交じりに話しているとリインはクスクスと笑った。

「そういえばイニスと知り合ってもう十年も経ったのか」

イニスとリインは家が隣同士で五歳の時に知り合いそれ以来村で一番交流があり他の友人からは恋人やら夫婦だのと言われる始末な程他人から見れば仲がいいのだ。

「最近になってみんなが夫婦とか言って本当に迷惑だよな」

「本当だよ、誰がこんな平々凡々なヤツと付き合わなきゃいけないのかな?」

「リイン?冗談何だろうけど今の結構傷ついたよ?」

ハッと口を押えて申し訳なさそうに謝るとイニスは眼鏡のフレームを上げて何も書かれていない本に再び目をやった。

この後二人は世間話やお互いの将来の事についてひとしきり話していた。


時間はあっという間に過ぎ、当たりはオレンジ色に輝き夕方になっていた。

「そろそろ帰ろうか」

「うん、そうだね」

 二人は草原を歩き自分達が住んでいる村へ向かった。その間二人は木の下に居た時と違いお互い口を開かず黙ったまま歩いていた。しかし、その沈黙が解けるのは案外早かった。

「イニス、いよいよ明日何だね」

「召喚の儀でしょ、上手く召喚出来ればいいなー」

イニスがいる大陸パンゲアの人間は主に三つの分類に分けられている。一つは王を守り待ちの治安を守る騎士、二つ目は自身の研究を追及し新たな魔法を探す魔導士、最後はモンスターを使役し、共に生活を送り時には戦争の道具として使う召喚士に分けられている。イニスのいる村は召喚士の才能を持った人間が多く輩出され、イニスもその中の一人である。そして、この村のしきたりで十五歳になるとその才能を持った者には召喚の儀といい、村人全員の前で召喚を行い初めて召喚士として認められることが出来る。

「何が召喚されるのかなー?」

リインは召喚に対して興味を持っていてその目はショーケースに入った楽器を見る子どもみたいな目でイニスを見つめた。

「何だろう、ピクシーとかの比較的使役しやすい精霊見たいのが出てくるんじゃないかな」

「ピクシーかーそれかイニスそっくりなパッとしないヤツが出てきたりしてね」

「だからさ、そのさり気なく傷つけてくるのやめてくれよ」

イニスが心の傷を受けた所でリインの家の前に着いた。

「じゃあまた明日ね」

「うん、じゃあね」

リインが家に入るのを確認するとイニスも家に入りそこには台所で夕飯の準備をしている母と居間で読書をしている父がいた。

「ただいま」

「おかえりー今日もあの場所へ行ったの?」

母の言うあの場所とは草原にポツンと佇んでいる木の事である。

「お前にとって家の次に居心地の良い場所なんだろう?」

「確かにそうかもしれないね。だってイニスはあの本と一緒に木の下に居たんだから」

時を遡る事十五年前、二人の若い夫婦が草原を歩いているとどこからか子どもの泣く声が聞こえ声のする方へ向かうとそこには一本の木が生えてその木の根元に布に包まれた赤ん坊と一冊の本がそこにはあった。二人はその赤ん坊を拾って育てることにした。そして時は流れその赤ん坊は明日村の重要な儀式の主役へとなっていった。

「なあイニス、明日の事なんだが、父さんと母さんは召喚士ではないから何も言えないのだけど、きっと上手くいくって思ってるから頑張れよ」

「ありがとう父さん」

その後夕食を済ませると自分の部屋へ行き本棚にある本を何冊か手に取り夢中になって読み始めた。その本の共通点は妖精や召喚獣といった類が記載されている本だった。イニスは明日に備えて自分が召喚するかもしれない生物の特徴を片っ端から調べた。

本を読み終えると急激な睡魔に襲われ吸い込まれるようにベッドへと入っていくと数分もしないうちに眠りについた。

「明日お前は私を召喚するだろう」

イニスしかいない部屋にどこからともなくベッドで寝ているイニスに向かって女性が喋りかけていたのを誰一人として知ることはないだろう。


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