第九話 謎の老人
奥田との会談を終えて、僕は基地内で兵士の訓練の様子を海将と眺めていた。訓練兵を眺めると先日と違う点がいくつか出てきている。まず明らかに前とは目が違う。人形相手だろうと殺意のある目をしている。
数日でよくぞここまで人を変えられるものだ。先日の作戦会議以降、兵士の育成に関しては実際に戦場を走ったことのある風間に一任している。やはり、戦場を見てきただけあってどうすれば使える兵士を作り上げることができるか知っている。
別に、今まで通り伝統を重んじながら兵士を育成してきた教官を侮辱するわけではないが、明らかにメニューの目的が違うのだ。
「中々、様になってきてますね。兵士一人一人の動きが前と違う。」
「風間将軍が新たにメニューを組まれましたからな、当然ですな。汎用で使える兵士を育てるのと、使える兵士を育てるのはそもそもの話、別ですからね。」
「少なくとも我々は第二次世界大戦のソ連軍のように、町から集めてきた人にとりあえず銃をポンと渡して、戦場に出すような真似は間違ってもしませんからな。」
事実、第二次世界大戦中のソ連軍はそんなことがあったからな。現代では起こりえないだろうが。
「はっはっは。その通り。さらに一人につき一丁の小銃の所持はできますからな。」
「違いない。僕らは少なくとも、独ソ戦のような誤りは起さないからな。」
僕も笑いながら返す。だが、二人に一つの銃なんて考えただけでも地獄だ。人によってはシャベルが主な武器だった人も居たそうだ。機械化人海戦術を早期に取れば話は別になっただろうが。
そんな中、一人の老人がこちらを睨むように見ていた。その老人は葉巻を咥えていて、左目の所には眼帯が装着されていて、さらに服装からして、軍人だとわかる。
「海将。あの老兵を海将はご存知で?」
海将は老兵に向けて視線を向けてその人物が誰なのかを確認すると、彼は一瞬驚いたが、ビシっと敬礼をあの老兵にした。老兵は海将に対して答礼をすると、どこかへ去ってしまった。
「海将は、あの老兵が何者かをご存知なのですか?」
海将は敬礼していた体勢を直して答える。
「もちろんです、閣下。あの方は永友誠一等陸佐、年齢は66歳になります。連邦陸軍の戦車隊の古株ですよ。」
「かと言って、何故海将がそのように敬礼されるのか私にはわからないのですが。」
実際そうだ。永友誠一等陸佐は何であろうと、左官である。海将からあのように敬礼することは普通はないだろう。
「あの方は、連邦陸軍の戦車軍団の大黒柱とも呼ばれる部隊。第34戦車旅団の旅団長なのですよ。この連邦陸軍には、大半は前線から退いては居ますが未だに所属している老兵の方は少なくありません。そして、第34戦車旅団には友永一等陸佐と同期の戦車兵が未だ多く居ます。第34戦車旅団はまたの名を「永遠の友人部隊」とも呼ばれています。」
永遠の友人部隊・・・・ねぇ。名前の永友から取ったんだろうけれども、部隊の中の様子もあながち間違いじゃないんだろうな。
「しかし、あの人の睨みはキツかった。」
「まぁ、あの方は今の軍や政治をあまり良しと見ていないそうですから。」
なるほど。僕も一応これでも軍のトップなんだ。そういう人間に、そういう目で見られるのも致し方のないことだろうが、親睦は深めたいな。
「彼らの兵舎はどこかわかるかい?海将。」
「はい、もちろんです。」
「それじゃあ。今日、34戦車旅団の指揮官並びに下士官を集めて宴会をしよう。」
「えっ!?宴会・・・・ですか?」
何で驚くのかちょっと理解に苦しむのだが。
「うん、宴会だよ?酒とつまみを手配しといてね。」
「わ、わかりました。それでは本日の20時にて兵舎の一室にて集合せよとの命令を出します。もちろん、酒とつまみも今から至急用意させます。これでよろしいでしょうか?」
「うん、問題なし。えーと、今の時刻が16時だから。19時半まで僕は寝てるね。ということでお迎えよろしく!」
と言い残して僕はダッシュで我が家に戻り。目にも留まらぬ速さでベッドに飛び込み、眠りについた。