第三十二話 ウイルスと鍵
開戦から約一週間経ち、2月30日現在、我が軍は長岡と新潟を占領し、山形へと進撃をしようとしていた。
南からは皇立軍、俗に言う英領日本陸軍の機動部隊の援軍もやってきて、戦線は安定している。
我が軍は意外な程に拍子抜けた敵の迎撃隊と、小競り合いをすることはあったが、依然大きな戦闘は発生していない。
それを考えると、社会主義連邦のクーデター組織が如何に巨大であるかがわかるだろう。
この現状ではこの戦争が終結する時期は、6月と予測できる。
何故ならば、社会主義連邦の軍隊はクーデター組織というウイルスに犯されているからだ。
そのウイルスは、社会主義連邦の軍の脊髄を蝕み、ついにはウイルスは脳に達し、主を殺すからだ。
脊髄は軍の指揮系統、さらには後方の補給線などのことだ。
これが無ければ兵士は戦えない。
事実、既に社会主義連邦軍は軍隊としての機能をあまり果たしていないように感じる。
まぁ。これほどまで酷い状況だと、そうとしか考えられないというのもあるわけだが。
すると、山形方面へ向かっている機動軍に司令部から、緊急連絡が入った。
『小さな作戦司令部は応答せよ!緊急伝である!』
それは急いでいるというよりかは、慌てているという表現が正しいだろうと思われる、オペレーターの声が聞こえてくる。
しかし、その声は慌てていながらも、どこか興奮しているようにも感じられた。
何かいいことでもあったのか?
その様子からはそれしか思いつかない。
オペレーターからの呼びかけに、面倒くさそうに溜め息を吐きながら、安城が応答した。
「『あいよ。こちら、小さな作戦司令部。どうした?』」
『小さな作戦司令部は至急、無線の周波数を民間の非常通信チャンネルに合わせろ!』
その言葉を聞いて、シキツウの中に居る皆は呆然としていた。
それは何故、今このタイミングで非常通信チャンネルなのかということに焦点があるからだ。
非常通信チャンネルは元々、海洋上での航行中にトラブルなどがあり、危険に陥った場合に使われるチャンネルだ。
その内容を見れば、僕らが焦らなければならない内容かと思えば、実はそうでもない。
これはあくまで民間用の無線のチャンネルであって、東海連邦軍は軍独自の回線を持っているために恐らくは、自軍とはあまり関係ないということだ。
もし、民間人が本当に助けを求めているのであれば、それこそ海上保安庁などが民間人保護などを行うような仕事であって、戦争中の軍隊がするような仕事ではない。
それでは何故、民間の非常通信チャンネルなのか?
その謎を紐解くべく、僕たちは無線の周波数を民間の非常通信チャンネルに合わせた。
周波数を段々と非常通信用のチャンネルに合わせてゆき、それと同調するかのようにノイズしか聞こえて居なかった音が、声に変わってきた。
しかしながら、まだ安定していないのか音がよく途切れる。
無線からは「バンザーイ!バンザーイ!」という声や、前線の軍楽隊かわからないが簡素な演奏が、途切れ途切れながら聞こえてきた。
『繰りかえ・・・・繰りかえ・・・』
「もっと安定化できないのか!?」
「ちょっと待ってろ!おい、大空!お前の本領はここからだぞ!」
安城は大空の背中を叩いてそう言った。
僕個人としては、大空は安城の単なる補助かと思っていたのだが、彼にも得意分野があるのだろうか。
「はいよ。姉御は無線の方は得意だけど、機械の事となると滅法弱いんだから・・・・」
大空は溜め息を吐きながら、計器などを触っていく。
すると機械の調整が上手くいったのかわからないが、すぐに通信の内容がクリアに聞き取れるようになった。
『繰り返す!福島要塞線は陥落した!繰り返す!福島要塞線は陥落した!周辺地区における社会主義連邦軍の将兵諸君は、速やかに武装解除した後に、東海連邦軍に投降せよ!』
車内がどういうことだと皆、口を揃えて言い出した。
正直、どういうことだと言われても、そんなの僕が聞きたいよと言いたい。
『我が南城隊は福島要塞線を陥落させた!日本維新の狼煙を、今ここに上げたものとする!』
日本維新だって!?
先日、ホテルの従業員に聞いた話と同じ名前じゃないか!
それが何故、福島要塞線に居る!?
僕の考えだと、仙台から北海道方面へ民間の船舶を利用して、密かに首都でクーデターを起すものだと思っていたのだが・・・・。
僕のそんな思考をお構いなしに、依然、無線では興奮気味に福島要塞線が陥落したとの報告が、繰り返されていた。
ここで僕が思いつくパターンは三種類だ。一種類目はブラフという線だ。
つまりは欺瞞工作、ウソということだ。
これをすることによって、敵軍を油断させた状態で入城しようとノコノコとやってきた軍団を、集中砲火で消し去ればいい。
そうすれば、残党処理もあまり手こずらなくていい。
二種類目は、既に日本維新が社会主義連邦を、飲み込んで居るという線だ。
さっき、僕はクーデターのことをウイルスだと言っていたが、もしそのウイルスが大量に居たとしたら?時間を要する必要は無い。
一気にドカンと起爆させてしまえば終わりだ。
要は、クーデターをした組織がもしも、社会主義連邦の中枢を既に握っていたら?という話だ。
そうなると、それでは何故今までそれが起きなかったのか?という疑問も生まれてくる。
三種類目は、クーデター軍は僕たち連邦軍との早期の合流を望んだという線だ。
福島要塞線を無力化することで、連邦軍を本州北部への進軍を容易にし、後の北海道攻略戦に備えるという可能性だ。
さぁて、いよいよわからなくなってきたぞ。
そうだな・・・・ここは一つお遊びをしよう。
何、単純なお遊びさ。
簡単に言えば、僕は今目の前に無数の開け方がある、鍵のついた箱がある。
普通なら、鍵の開け方などを工夫する、ようは謎を解くということだが、ここはあえて箱を壊してしまおう。
「南城隊なる部隊に通信を打ってくれ」
「内容は?」
「えっとね。『東海に 朝日が昇る 日本国 筑波学園都市にて、待つ』でお願い」
新生活に慣れるのに時間が掛かってしまいまして、投稿がかなり遅れてしまいました。楽しみにされていた方が居ましたら、すみません。
これからは週1投稿を目指していきたいと思います




