第三十一話 南方から来る荒鷲
『左翼方面から砲撃!』
『各員、降車!枡形山の敵歩兵の対処に当たれ!』
『ワルキューレの援護は来ないのか!?』
僕たちは長岡までの道中の、国道404号沿いにて敵部隊と戦闘状態に入った。
シキツウは、前線から約1キロ下がった位置で指揮を行っているが、ここからでも砲撃の音が聞こえてくる。
状況としては余りよい状況では無い。
ワルキューレが、山中に隠れていた敵の歩兵部隊及び、砲兵に対して攻撃を行った後に、補給に後方へ戻ったことが始まりだ。
ワルキューレが後退した後、国道404号の北方より、敵の戦車およそ3個大隊が南下。
また、左翼の枡形山には未だ敵歩兵及び、砲兵が残っているというこの現状。
かなり苦しい状況なのは変わりない。
「佐渡の航空隊に近接航空支援を要請!」
「あいよ!『こちら、小さな司令部。我、国道404号沿いにて、敵部隊と交戦状態に入れり。状況が芳しくない!佐渡空軍基地の攻撃機に対して、近接航空支援を要請する!』」
『総司令部はこの要請を受諾。直ちに佐渡の航空隊をそちらに派遣する』
ヘッドセットからは、以前聞いたことのあるような司令室のオペレーターの声が聞こえてくる。
「『目安として何分掛かる!?』」
『現場到着だけで考えると、約4分。それから攻撃するとなると、追加で何分かと言ったところです。』
するとオペレーターが「いや、待て」と何かを確認し始めた。
『今さっき千葉から飛び立ったが、戦闘が先に終結してしまって、滞空している部隊が居ます!コールサインは復讐者です!』
『佐渡空軍基地管制より、復讐者へ。目標の変更を通達する。目標は現在、進軍中の独立陸戦総合火力機動軍と、交戦中の敵である。敵は枡形山、及び国道404号方面に居る』
『こちら、復讐者。佐渡空軍基地管制からの目標変更を了解した。該当地区における、司令部は応答願う』
「『こちら、小さな作戦司令部。貴隊の作戦地域における司令部だ』」
『こちら復讐者。目標は今、どうなっている?』
「『現在、機動軍は国道404号沿いにて戦闘状態に入った。左翼方面の枡形山からは、歩兵と砲兵の攻撃。正面から、北方方面より南下してきた敵戦車、およそ3個大隊と交戦中!』」
『了解した。砲兵部隊に関しては、歩兵部隊による誘導があれば、攻撃が可能である。そのため初撃は、北方より南下中の敵戦車隊に対して行う』
「『了解した』だってさ。どうする?」
だってさ、と言って僕に指示を仰ぐ姿勢の安城。
「歩兵隊で山中の敵を片付けよう。味方戦車隊の損害はどうなってる?」
「今、味方の戦車隊で損害は今のところ出てはいない。だが、敵戦力を削れてないみたいだ」
大空が僕の質問に答えた。
この時僕が『なんだ、仕事してるじゃん』と関心したのは言うまでもない。
「攻撃隊の近接航空支援を全て、敵戦車隊にしてもらおうか?」
そう言った瞬間に、ドスン!と言った音が車両の外から聞こえたきた。
慌ててハッチを開けて外を見てみたら、すぐ近くの地面に敵の砲弾が着弾していた。
それを見た瞬間に、冷や汗が自分の体の至る所から出てきた。
着弾痕はアスファルトで舗装された地面を抉り、シキツウにはその際に飛び散ったであろう破片で、キズが入っていた。
「早く、歩兵隊に砲兵を無力化するように言うんだ!」
「あ、あぁ!わかったよ!」
チクショウ。やっぱり敵の大規模が反乱軍になったところで、少数の部隊は居るのは当たり前だけどな・・・・。
砲撃の音が木霊するこの地に、突如として轟音が上空で響いた。
『こちら、復讐者。戦闘中の貴軍の部隊を発見。これより、近接航空支援を開始する
ハッチから身を乗り出して上空を見ると、3機のA-10攻撃機と、2機の護衛戦闘機が滞空していた。
『よっしゃぁ!A-10の援護だ!こちら、第34戦車旅団。誤射だけはくれぐれも注意してくれ!』
『こちら、復讐者。了解した。これより、2回の近接航空支援を行う』
その後、A-10攻撃機は1度、攻撃の進入経路などの調節を行うために上空で旋回した。
1度旋回した後に、A-10攻撃機は攻撃の為に、一度降下していき、再び上昇していった。
地上では凄まじい着弾音が響いた後、上空では「ブーン」という射撃音が鳴った。
A-10攻撃機は基本的に、機首の30mm機関砲で地上部隊を攻撃したりする。
そして、その30mm機関砲の弾丸の初速はおよそ毎秒1000m。
音の伝わる早さである音速は毎秒、約340m。
そのため、弾丸の方が音より早いために、着弾してから射撃音が聞こえるというメカニズムだ。
A-10は湾岸戦争で被撃墜機6機という成果もあるため、頑丈な機体ということでも知られている。
『こちら、34戦車旅団。敵戦車9両の無力化を確認した。されど、引き続きの援護を要請する!』
『こちら、復讐者。了解した。佐渡空軍基地管制は応答せよ』
『こちら佐渡空軍基地管制。復讐者、何か問題発生か?』
『我が隊の近接航空支援は成功。されど、敵戦車は未だ多数生存。機動軍戦車隊より、引き続きの近接航空支援の要請を受けるも、我が隊は既に残弾無し。指示を乞う』
『了解した。復讐者は帰投(RTB)。該当地区における司令部は応答せよ』
その通信を受けた上空に居た、攻撃機と護衛戦闘機は帰投していった。
「『こちら、小さな作戦司令部。佐渡空軍基地管制に対して、先の復讐者の交信内容と同じく、引き続きの近接航空支援を要請する』」
『現在、我が空軍基地には残存する攻撃機隊は復讐者のみである。その他の隊は現在、貴軍の南方方面の少数規模の敵戦車隊などの対応に追われている。よって、次の航空支援は最低でも1時間を目安にしてほしい』
1時間!?只でさえ、戦車隊には戦い難いこの地形なのに、佐渡空軍基地管制は1時間待てと言うのか!?
僕たちは、最小規模の損害でここを突破しなければならないのに!
『34戦車旅団、旅団長の友永陸佐だ!1時間ってのはどういうことだ!?佐渡空軍基地管制、応答せよ!』
『申し訳ないが、弾丸の再装填、燃料の充填などを一個飛行隊分、行うとなるとそれぐらいの時間が掛かるというということに理解をして欲しい』
このままだと、敵砲兵の砲撃に押されてジリ貧だ。最悪、損害が出かねない。
一度引いて、枡形山方面の山道を使って敵の側面を突くか?いや、ダメだ。
ここで一度引いていられる時間なんてない。そもそもの話、敵の兵力が大規模に減っている今が、攻め時なんだ。このまま、時間を浪費していては、後方から敵の増援がやってくるに違いない。
それに、いち早く要塞線の包囲と、反乱軍とコンタクトを取らねばならない。
その時、通信に何かが混線してきて、通信の中に『ザー』というノイズが走った。
ノイズは段々と解消されていき、複数の声と化してきた。
そしてノイズは完全に晴れ、複数の男性の歌声が聞こえてきた。
『こちら、佐渡空軍基地管制!所属未確認機が貴軍に接近中!注意されたし!また、未確認機は所属を明らかにされたし!』
『あれ?敵味方識別装置ちゃんと動いてるよね?』
『はい。そのはずですが?』
『しょーがないなぁ・・・・・・』
聞こえてきたのは陽気で高い男性の声と、堅い受け答えをする低い男性の声だった。
『こちら、大日本帝国空軍、荒鷲隊、隊長の日野空軍中佐であーる!』
声の高い方は日野と名乗った。
『同じく、大日本帝国空軍、荒鷲隊、副隊長の沖田空軍少佐であります!天皇陛下の命により、我ら空軍最精鋭の荒鷲隊、ここに参上した次第であります!』
声の低い方は、沖田と名乗った。
大日本帝国と言うと俗に言う、英領日本じゃないか!
ということは、英領日本の参戦ということか!そうなれば、前線の突破力に拍車が掛かる。
『英領日本の援軍か!こちら、東海連邦陸軍、第34戦車旅団、旅団長の友永陸佐だ!貴隊の援助を感謝する!』
『ちょっと英領日本って言い方やめてもらっていいですか!?自分らは大日本帝国っていう、ちゃんとした国名がありますしー』
『まぁまぁ。隊長、落ち着いてください。この戦争は日本の在り方が掛かった戦いなのですから!』
『ちぇ。まぁ、いいや。該当地区の司令部は応答してねー』
何とも拍子抜けする通信内容だと、心の底から思った。地上では敵の砲兵が「ドスンドスン」と着弾していて、それどころでないのに。
「『こちら、小さな作戦司令部。現在交戦中の敵は、我が軍の北方方面より南下中だ。航空支援を頼む』」
『了ー解!こちとら、近接航空支援が十八番だからね!別名、地上を食らう荒鷲なんて言われてるんだから!』
上空には、両翼に日の丸が描かれた攻撃機と護衛戦闘機がえげつない数で、既に支援に来ていた。
上空には無数に機隊が滞空していて、その機体数を数えようにも数が多くて困難だ。
少なくとも、先の復讐者の比ではないことが一目でわかった。
『よし、みんな!ここは盛り上げていこうか!』
『隊長、というと"アレ"で良いのでしょうか』
『ウチの隊で言ったら、それぐらいしか無くない?』
『各員、隊歌合唱!』
そう言って荒鷲隊の隊員は無線上で歌いだした。彼らが隊歌と言う曲も、僕は偶然ながら知っていた。
日本が一つだった時代の歌である、荒鷲の歌だ。
英領日本は、英国が主導して行った伝統政策のおかげなのか、京都などの古い都は未だ古き良き伝統に満ち溢れており、大日本帝国の時代の伝統なども重んじる傾向にある。
また、神戸などでは近代的な都市が栄えており、現代と過去の融合に成功した国家であると言える。
それと同じく、英領日本は軍隊であろうと、昔からの伝統を重んじる傾向があるのだろう。
彼らは部隊歌を歌いながらも攻撃を始めた。
空中に居る無数とも思えるような、数の大日本帝国空軍の機隊が、替わり替わりに、地上の敵戦車に攻撃を行う。
彼らは別名、地上を食らう荒鷲と言っていたが、その光景を見て、確かにその通りだと実感させられた。
勇猛果敢に荒々しく敵を食らっていく様は、正に荒鷲。
別名で、地上を食らう荒鷲と言われるのも納得だ。
それとは別に僕の目から見て、地上攻撃を行えない護衛戦闘機が、逆に目立っているような気がしてきた。
攻撃機を見てて気づいたが、攻撃機の数も馬鹿にならないが、それに比例して護衛戦闘機もかなりの数がある。
もし、敵の空軍機が迫って来ようことならば、逆に返り討ちにされてしまうだろう。
というか、大日本帝国空軍はどれだけ空軍に国防費を回しているんだ?
『おっと、忘れてた。小さな作戦司令部の司令官宛の伝言だよ。君たちの国の首相からだ』
三上総理から?何かあったのだろうか。
英領日本の統治者との話し合いが成功したのだろうか?
『内容は、「古からの統治者との話し合いは済みました。それと、英領日本の参戦が決定しました」だってさ。というよりも、君たちの国の首相も、自分らの国の正式名称使わないって、どういうことなの!?』
『佐渡航空基地管制より、荒鷲へ。私語は慎みたまえ』
『なんだってぇ!?』
『隊長!次は隊長の番ですよ!』
『あぁ、もう!絶対この管制官は、メガネ掛けてるクソ真面目なパターンのやつだね!自分の大嫌いなヤツだよ!』
通信上の日野空軍中佐の文句と共に、空と地上では火薬などの炸裂音が絶えず続いた。




