第三話 自宅警備員が首相官邸で緊張しているようです
國正海将との話を終えてから、僕は海将と一緒に首相官邸前まで車でやってきた。このまま一般人の生活を送っていたらここに立ち入ることはなかっただろう。そのため、僕はすごく興奮している。敷地内に入ると議員バッジをつけたスーツの男女が9人ほどが横一列で建物前で待っている。内閣の一員だろうか?車が彼らの丁度真横に着けて、車から出ると先ほどの9人いた列の中心に居た人物が歩いてきた。
「はじめまして。私、東海連邦第100代目首相こと三上卓郎です。海将から既に連絡はいただいております。これからよろしくお願いします。」
「首相自らの出迎えしていただくとは。はじめまして。チェリーブロッサムこと、虚春桜花と申します。今回、このような任を請け負わせていただき、大変光栄に思います。」
「ここでの会話もなんですし中へどうぞ。こちらでは盗聴の類も心配ありませんので。」
「あ、はい。ここで聞かれてはまずいですしね。」
首相官邸の中に入ると首相一向はずんずん奥へ進んでいく。やはり自分はここに立ち入ること自体が初めてでもあるため、緊張で足が若干震えている。奥へ奥へと進んでいくと閣議室と書かれた部屋へ入っていく。
中の作りは比較的シンプルだ。中央に円形の机があり、閣議を円滑に進められるだろうと安易に想像ができる。そして、他の方が座り始めていたが僕は呆然としていた。緊張で頭が真っ白になっている。
「虚春大元帥、こちらにどうぞ。」
「あ、あぁ。ありがとうございます海将。」
僕が座ると首相が口を開き始めた。恐らく、これは歴史を変える重大な瞬間であると僕は直感的に察してはいたが、何も考えられない。
「えー、皆様に本日お集まりいただいたのは他でもない。共産陣営への対抗策への国民への伝達、そして統合指揮官の正式認証などであります。現在、時刻は17時30分ですが18時より緊急の記者会見を行うことを報道各局に伝達いたしました。それに伴い、内閣には2つの伝令を行います。1つに会見の途中に徴兵制度を施行するとの発表を行いますので、発表直後から各地方自治体に中学生以上の学生の徴兵制度の伝達を行うように指示を行うことです。2つ目に、ここにいる彼こと虚春桜花くんは本日の会見中に正式に連邦軍の統合指揮権の委譲、また大元帥への昇格を行いますために防衛大臣と外務大臣は会見に参加することを命じます。何か質問があれば挙手をお願いします。」
首相が数十秒間喋り、伝達を行った。僕の心臓はバクバク言っている。歴史が変わった瞬間を目の前にしているのだから。察してはいたが、いざ本当になると違うもんだと身をもって感じさせられることだ。
「それでは、各自所定の位置へ着きなさい!」
首相が言うと首相と2人の閣僚を残して、全て駆け足で部屋を出て行った。
「さて、君は今から正式に連邦軍最高指揮官に任命され、大元帥へ昇格します。なので、さすがにその格好は記者達の前ではマズいでしょう。」
そういえば、國正海将に会場からそのまま連れて来られたから私服のままだ。確かに首相の言うとおり、私服で記者たちの前に出るのはいささか問題がある。
「それならばどうするんですか?」
「それはですね・・・・・。」
首相が残っていた閣僚の一人を見た。すると、首相の視線の閣僚が立ち上がった。若い女性だった。立ち姿は凛としており、大和撫子と言った感じだ。年齢は外見からして恐らく20代なんじゃないだろうか?
「初めまして、虚春桜花大元帥殿。私、内閣防衛大臣を勤めます北原唯です。以後、職務上の関わりが多くなりますのでよろしくお願いします。」
「こちらも迷惑をかけるかもしれませんが、よろしくおねがいします。何かとこんな職についたことはありませんので。」
「あっ、はい。それで、衣服に関してですが。我が連邦軍の礼服を全サイズ用意させていただきましたので、合うサイズを選んできてください。」
彼女が部屋の外に持ってきてくださいと言うと、かなりの数の礼服が職員の手によって持ち運ばれた。外見をみると、全体的にネイビーブルーで少しではあるが赤で線が引いてある。袖に赤線の囲いがあり、中に袖章がついていてザ・軍の礼服といった感じである。だが、持ってきた量を見ると大雑把だなぁ。と思わざるをおえない。とりあえず、自分にあったサイズの物を見つけて手に取ったがどこで着替えればいいんだ?
「あっ、着替えは奥の部屋でどうぞ。」
彼女は閣議室にあった入ってきたのとは別の扉を開けて、ここでするようにと促す。
奥の部屋へ立ち入ると特に何もない部屋だった。事実埃などはなかったが机などの類の物が一切無かった。秘密の脱出口への部屋だったりな。と思いながら着替え始める。着替えると意外にも若干ぶかぶかだったが、気にするほどでもないため僕は最後に軍帽を被り閣議室へ戻った。
閣議室に戻ると北原さんともう一人の閣僚は既に退室していて、部屋には首相と海将が居た。
「サイズはどうでしょうか?大元帥殿」
「そうですね、若干大きいですが問題ないですよ、海将。」
やはり大元帥殿と呼ばれるのはあまり慣れないな。しかし、これからは慣れねばならない。時計を見ると針は既に17時55分を指していた。
「さて、虚春大元帥。いきましょうか。これから、私達は他国に対して、私達は圧力に屈しはしないというアピールをするのだから。」
「はい、首相。ある意味、僕らの戦いはこの会見から始まりますからね。」
事実、学生を徴兵をする時点で絶対に会話で終わらせるつもりはこちらは最初から無いという意思表示なのだから。さぁ、始めよう。僕らの抵抗戦争を。