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フリーダムワールド  作者: 雪原果歩
第二章 日本戦線編
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第二十九話 立川レポート

僕はあの後、友永陸佐一行と柏崎の一般市民と、酒を飲みながら話をしていた。


「大元帥は、今までどんな戦いをしてきたんじゃ?」


「あ、俺も気になってた!」


ある老人と若い男がそう聞いてきた。


「えーと、ですね。実際に戦いを指揮したのは、今日が初めてでして」


「そうじゃったのか!?」


「はい。僕自身は二月事件や、筑波大攻勢などを行うように指示はしましたが、指揮をしたのは今日の戦いが初めてです」


「はて、二月事件?筑波大攻勢?なんのことじゃ?」


老人は記憶に無いようで、「ボケ始めて来たか?」と頭を抱え込んでいる。


「こればっかしは、このジジイがボケてるワケでもないな。俺も知らん」


どういうことだ?社会主義連邦では今現在、情報規制が著しく強まっているのか?


「先日、社会主義連邦の工作員が東海連邦の首都である、名古屋に対して攻撃をしたんですよ。あと、筑波大攻勢は、つくば市に対しての大規模攻勢です。これでつくば市は既に陥落しました」


「なるほどな。上の連中は情報規制を敷いてるってわけか」


「なーんだ。ワシがボケたわけじゃなかったんじゃな」


二月事件と言えば、一番印象に残っているには司令室に敵が突撃してきたことだ。


「いや~、二月事件は正直結構キツかったですね。なんせ、司令室に敵が襲撃してきたんですから」


「敵が司令室に襲撃!?よく無事でしたね」


「なんか、立川レポートだのなんだの、わからないものを寄越せ!って突撃してきたんですよ」


一般市民たちは「それで?」と続きが気になって聞いてきた。


すると、隣の席に座っていた友永陸佐と、一行が急に立ち上がった。


「店長!急用を思い出したから、今日はもう帰る!おい、坊主。行くぞ」


友永陸佐はそう言って、僕を店の外に引っ張り出して、近くの人気の無い路地まで連れていかれた。


「何なんですか?陸佐。特に用などはなかったと思いますが」


「坊主、立川レポートって名前を、外でもう絶対に出すんじゃねぇ。いいな?」


友永陸佐はさっきまでの雰囲気は吹き飛んで、辺りでは張り詰めたような雰囲気が漂っていた。


僕はそもそも立川レポートという存在自体がわからない。


もし、陸佐が知っているなら僕は知るべきだ。


いや、知らなきゃならない。敵が狙っているものであれば尚更だ。


「それは、何故ですか?」


すると、陸佐は仕方ないようにして、一緒に居た戦車隊の隊員たちに人払いをするよう言った。


恐らく、それほど聞かれたくないことなんだろう。


隊員達が只でさえ人気が無い路地なのに、そこに人を入ってこないようにすると、陸佐は閉じていた口を開き始めた。


「今から10年前の話だ。東海連邦には立川兄弟って言う天才の学者兄弟が居た」


陸佐が言った、その立川兄弟という名前は僕は知らなかった。


10年前というと、僕が本当に無邪気な子供だった頃だ。


「別に知らなくてもいい、というか知らないのが普通だ。国が情報を隠していたからな。重要なのはここからだ。弟は医学などで人間に関する知識を、兄は機械工学でロボット関係の技術や知識を、専攻していた。その結果、生まれたのが立川レポートだ」


「ちょっと待ってください、話の内容が全然分からないです。それだけなら、なんでダメなのかがわからないです」


「話は最後まで聞け。まず第一に、立川レポートの内容ってのは、具体的に言えばトランスヒューマニズムの軍事転用だ。それと、立川兄弟自体がその研究をした時点で、裏の人間だってことが理由だ」


トランスヒューマニズムの軍事転用?僕にはさっぱりわからない。


「すみません、トランスヒューマニズムっていうのは一体?」


「簡単に言えば、最新の科学技術で機械と人を融合するという思想だ」


「ということは、サイボーグ技術ということですか?」


「そうだ。そして奴等は、互いの知識を最大限に生かして、トランスヒューマニズムの研究に没頭した。結果、技術は大幅に向上した末に、奴等が思いついたことは、そいつを軍事技術に転用することだ」


「軍事技術に転用?具体的にどんなことができるようになるんですか?」


「その前に、立川兄弟が何故、裏で天才と呼ばれるようになったのかが重要になる。奴等が天才と呼ばれた理由として、人工筋肉がある。人工筋肉と言っても、実際に人体の一部を作るというワケじゃない」


その言葉を聴いても余り、想像ができない。


人工筋肉がどのような、技術的革新だったのかがわからないからね。


「簡単に言えば、筋肉の構造を機械的に模したということだ。その結果、奴等はそれで本来の人間の筋肉が出せる力の、何十倍もの力を出すことのできる人工筋肉の製造に成功した。さらに、弟は医学関係を専攻していたから、頭の電気信号などでそれを動かすことに成功。これが立川レポートの内容だ」


ということは手術を施せば一般兵士でさえ、スーパーマンレベルの超人兵士になれるということか。


「立川レポートの内容によれば、それを人間に適応させる手術を、兵士一人に施した場合、その兵士一人で主力戦車相当の戦力になることができるそうだ」


「兵士一人が主力戦車相当の戦力に!?」


戦争が変わる。もし、この技術が世界に流れたら、世界の戦争が絶対に変わる。


まず第一に、戦車の時代遅れが始まる。これは確実だ。


だって兵士一人で主力戦車相当の戦力になるのだから、そんなコストの掛かる兵器なんて持ってる方が損だ。


「だが、これがもし世界に流れたとしたら、どうなる?急激な軍事バランスの変動が起こる。特に、東海連邦みたいな小国の軍隊は、昔からコツコツと戦力を蓄え続けてきた所なんかは、一気に崩壊しかねない。それを危惧した当時の内閣の森内閣は、立川レポートを名古屋基地のデータベースに封印することを決定した」


「そして、社会主義連邦がそれを知っているということは・・・・」


「恐らくだが、奴等はこの技術を使って、共産陣営の軍事力を高めようとしていたのだろう」


「それで、なんでそんな情報を陸佐は知ってるんですか?」


「あぁ、当時の海軍幕僚長、お前の近くによくいる秋山國正が俺に相談したんだよ。「この先、どうなるんでしょうか」って不安げな顔でな」


え?海将は確か、立川レポートなんて知らないって言ってたハズだ。


どういうことなんだ?


「海将は、立川レポートなんて知らないって言ってました・・・・・」


「どういうことだ?アイツ、さては一人で抱え込む気だな。その名前が知れてるって時点で、アイツは腹括って自分で責任取る積りなんだろう」


「責任ってどういうことですか!?」


僕は声を荒げて言った。


「たぶんだが、アイツ自身がその情報を墓の中まで誰にも言わずに、持って行く気なんだろうよ。只でさえ、当時の森内閣は老いぼれしか居なかった内閣だ。立川レポートなんて知ってるやつなんて、もう俺と海将ぐらいしかこの国にはいねぇよ」


「そんな・・・・」


「立川兄弟も既に交通事故で死んだって話だし、この戦争が終わればレポートは基本的に安全になるはずだ。しかも、データは軍のデータベースの奥底に封印されてる。これ以上、掘り返されることは無いだろう」



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