第二十七話 柏崎侵攻
僕らは敵戦車隊を撃破した後に、来た道を一度戻って下道に下りた。
下道に下りてからは特にこれと言った戦闘は起きなかった。
それゆえに、僕はある種の不安が大きくなっていった。
それは、今まさに罠の中に一歩ずつ踏み込んでいるのでは、という事だ。
今現在、機動軍は当初の作戦から一度逸脱して、一般道路を使って柏崎へ向かっているところだ。
それで、敵との遭遇戦が無いことがある種ありえないことである。
普通なら、戦線を維持するために迎撃隊を派遣するのが定石であるが、敵部隊との遭遇が先程の敵戦車隊だけだ。
しかも、敵戦車隊はトンネルのところで張っていたという報告から考えるに、検問に近い行為をしていたのでは?と思っている。
機銃手の村山は「敵と遭遇しないに越したことはないっすよ!」とのんきに言っていたが、実際はそうではない。
連邦軍は開戦以来、敵軍との大規模な会戦が全然無いのだ。
あったとするならば、筑波の戦いぐらいだろう。
一時は南部を全放棄したかと思ったが、小規模部隊は未だ残存するという点から、その考えはナンセンスだと思った。
なぜならば、小規模部隊だけを残しても意味がないからだ。
できるなら全軍を撤退させて、防戦に徹するのがいいだろう。
それをしないということは、もしかしたらだが奴等は、僕らが見えていないところでひっそりと僕らを侵攻しているのかもしれない。
それは二月事件がいい例だ。
東海連邦は主都名古屋以外にも、東京や静岡市などの主要都市がある。
そっちに工作的攻撃をするための準備の為に、北部へ注意させようとしている可能性も否めない。
さて、人間不信の人間の思考回路みたいに何も信じられなくなってきたぞ!
どちらにせよ、要塞線をいち早く落とせばこちらの勝ちだ。
基礎的国力はこっちの方が上で、軍事力も単純な殴り合いならこちらの方が強い。
敵の防衛の要塞線を何とかして潰せば、勝ちは明らか。
「機動軍戦車隊、隊長車から報告だ。柏崎まで残り1キロになった。指示を乞う」
大空からもらったヘッドセットから聞こえてきた。
ちなみに、大空はもう諦めて新しいヘッドセットを出して、僕に「そのヘッドセット、やるよ」と涙目で言ってきた。正直、ちょっとかわいそうに思ったケド、まぁいいやと思った。
「だってさ、どうするよ?閣下」
「確かさっき補給を終えたワルキューレが上越からこっちに向かってきてるよね?」
「そうだけど?」
「それじゃあ。ワルキューレで先手打って、敵部隊に打撃を与えたら、柏崎に歩兵部隊を投入、って感じで」
「了解したよ。そんじゃまぁ、全軍に通達するね~」
まぁ、ここは定石どおりの戦い方だろう。
航空隊による先手、後手の歩兵隊は今世紀における戦いの基本。
市街地には戦車隊は突っ込ませず、歩兵隊で戦うようにする。
頭を捻れば誰でもわかる戦い方だ。
「こちらワルキューレ。柏崎上空にて索敵を行うも、敵影見えず。居るのは一般市民だけです!」
約10分ほど経ってからワルキューレからの連絡が入った。
一般市民だけ?そんな馬鹿な。相手としてもこれ以上の戦線後退は避けたいところだろうに。
やはり同じ手か。相手は何を考えている?全く検討がつかない。
「安城さん。機械化歩兵に市街地に突入して、って言っといて」
「あいよ」
「坂東一曹。戦車隊と一度合流してください」
「了解しました」
さて、どうしたものかな。




