第二十六話 連邦軍の虎の子機甲軍
上越駐屯地を出てからは地上軍は北陸自動車道に乗った。何故、北陸自動車道を使ったかと言うと、長岡方面への上越から繋がっている大きな道路がこれぐらいしかなかったからだ。
ワルキューレは地上軍とは分離して、先行させた。航空兵力による早期敵の発見を行うためだ。地上軍では、戦車隊を先頭に、機械化歩兵、そしてシキツウという順番で隊列を整えている。
時は既に、上越を出てから早2時間経った。普通の旅行であれば、この2時間で長岡に着けているだろうが、戦争は違う。
特に地上軍は近代戦闘では車両を多用するために、対車両地雷などに気をつけなければならないし、敵の奇襲もあるかもわからないからだ。
それゆえ、2時間経った今現在、上越から長岡への移動経路は未だ半分しか到達できていない。
いざとなれば、佐渡の空軍基地に救援を要請すればなんとかなるんだろうが、できるなら最初から心配事はケアしておきたい。
「先行中のワルキューレ第3中隊より報告!」
安城が急いで報告した。
「敵軍の戦車が柏崎トンネル方面にて、陣地を構成しているみたいだよ!」
「敵軍から見つかったか?」
「報告では敵軍に見つかった様子は無いって話しだってさ。さて、ウチらはどうする?」
僕は急いでシキツウの車内にある机の上にタブレットを置いて、詳細な地図を出した。
「確か、柏崎トンネルはここ」
姉さんはそう言って、柏崎トンネルとの記述がある場所に地図をズームさせた。
「うん。トンネルの前に川内トンネルがあるね。トンネル出た先に待ち伏せは結構キツいな。しかも、トンネルだから、出てきたところ狙われたら、下手すれば戦車砲でトンネル落盤もありえる」
「どうする?ここからちょっと戻れば米山インターチェンジから下に降りることもできるけど?」
「それは敵戦車隊を倒したらそれをやる積りだけど、今は違うよ。正直、潜入作戦なら二重丸をあげたいところではあるけど、あくまで僕らの今回の作戦行動は戦線の突破が主目的。」
「ということは、これを倒すってこと?」
姉さんはあまり想像ができないみたいで、よくわからないような顔をしていた。
今、僕の中である作戦はこうだ。
まず第一段階として、機械化歩兵は戦車の後方へ退避させる。そして第二段階は、戦車隊は川内トンネルのこちらから見た入り口にて待ち伏せをさせる。
そして、作戦は第三段階へ移行する。第三段階はワルキューレで空中より、地上を蹂躙する。その際に、柏崎トンネルの入り口を攻撃して、後退できないようにする。
そこで、米山インターチェンジを使って後方へ一度退却しようとして、川内トンネルから出てきたところを僕らの戦車が狙い撃ち、という作戦だ。
これによりトンネルは一時的に使えなくなる為に、我々はインターチェンジまで戻って、一度下道で移動しなければならない。
これを姉さんに説明すると「なるほどね」と言った感想があった。
「だったら、先に長岡じゃなくて柏崎の方を占領したらどう?」
「柏崎?長岡を先に取って、後方軍の戦線の押し上げでそこを占領する積りだったんだけど、なんで?」
すると姉さんは地図に再び目やって、あるものを指差した。
それは地図上の路線の印だった。
それを見た僕は電撃が走ったようにあることに気づいた。
「物流の抑制か」
「そう」
柏崎駅は北と東から線路が繋がっていて、長岡方面から南に伸びる路線との間の幅はそこそこ距離があった。
ということは、柏崎を押さえれば南西方面のゲリラの活動を抑制することが可能になる。
僕はある意味、この提案をした姉さんに軍事的な考えをちゃんと学んでるのかなと思い、関心した。
「よし。その案貰った。安城さん、機動軍全軍に伝達!」
「あいよ。何て言っとけばいい?」
「ワルキューレは集結し柏崎トンネル方面の敵を攻撃。その際には柏崎トンネルの入り口を破壊してようにも言っておいてくれ。機械化歩兵は後方へ退避し、戦車隊は川内トンネルの入り口で敵が出てくるのを待ってろ、って言っといて」
「了解したよ。我、小さな作戦司令部。全軍に伝達する。ワルキューレは集結し、柏崎トンネル方面の敵を叩け。また、ワルキューレはその際に柏崎トンネルの入り口を破壊するように。機械化歩兵は後方へ退避し、戦車隊は川内トンネル入り口にて待ち伏せ用意せよ」
さて、手は打った。これで恐らく敵戦車隊は撃破できるだろう。
しかし、これから戦闘は激化していくのは明白だ。
なぜならば、この戦闘により西方より僕らが北進しているという報告が入るだろうからだ。そうなれば、敵の大規模な部隊が西側に寄ってきて、迎撃戦を展開する可能性も十分ある。というか、絶対そうだろう。
でなければ、虎の子の要塞陣地が無効化されかねないからである。
あれ?でも、これある意味やぶ蛇の可能性もあるんじゃないか?
下手をすれば、こちらが突破しきれない数を用意される可能性もある。
いや、どちらにせよ下道を通ったところでも敵と遭遇する可能性があるなら、早急の脅威となりえる可能性がある戦車隊を殲滅するほうが良いとも思う。
それに、その数を用意された場合は進軍停止で西側の増援を要請すればいいだろうし、佐渡島に近接航空支援を要請することだってできるだろう。
都市で篭城戦となれば、2、3日の警告の後に大規模爆撃もありではあると思う。
どちらにせよ、敵を倒すに越したことはない。
「坂東一曹、僕らシキツウも機械化歩兵と行動を同じくするよ」
「というと、我々も後退ですか?」
「もちろん。リスクはなるべく避けたいからね」
「了解。機械化歩兵と同調して後退します」
部隊に命令を出してから4分経った。シキツウは機械化歩兵と行動を共にして、後方へ下がった。
「ワルキューレから報告きたよ~」
「何て言ってる?」
「あいよ。我が隊は敵戦車二個大隊に対しての攻撃に成功せり!ワルキューレは一時、上越へ帰還し補給をする、だってさ」
「トンネルはどうなった?」
「そっちも抜かりないってさ。さすがはワルキューレだよ、キッチリと仕事はこなしてるね~」
さて、次は逃げた羊を罠に掛ける番だ。
「戦車隊には来るぞ、って言っておいて」
「りょーかい」
それから数分経つと、突如として前方で『ドゴーン!』という地響きに近い様な音が鳴った。
「何事!?」
「はいよ。閣下~、それに関して戦車隊から連絡が来たよ。」
「ということは、始まったか」
「その通り、察しがいいね。我が軍の戦車隊は今さっきから、敵戦車隊と交戦が始まったよ」
その言葉を安城が発してから、さらに音が激しくなった。
先程まで単発でしか聞こえていなかった音が、『ドゴーン!ドゴーン』と連続で聞こえはじめてきたのに加えて、『パララパララ』という機銃の音が周囲に木霊していた。
その後、『ドン!』という大きな音がした。
しかし僕は今現在、戦況がどうなっているのかまったくわからない。
「大空くん、ちょっとヘッドセット貸して」
僕はそう言って、彼の装着していたヘッドセットを奪い取った。
「おい、ちょっと待て。誰も貸すとは言ってないぞ」
「まぁ、いいじゃねーかよ。アンタは今のところ特に働いているワケじゃないしね」
安城がそう言って大空を笑い飛ばす。
大空は安城に逆らえないのかどうなのかはわからないが、彼は簡単に諦めた。
ヘッドセットを装着すると、戦闘部隊の様子が聞こえてきた。
「隊長車から、各車両へ。7号車は後退!6号車は履帯破損した3号車の援護だ。急げ!」
ヘッドセットから聞こえてきたのは宴会を開いたときに会った、友永陸佐だった。
「了解!」
「ちっくしょう!赤の坊主共めが、倒しても倒しても沸いてきやがる!」
「こっちはトンネル出たところでキルゾーン作ってるんだぞ!?」
「落ち着け。幸いにも、こっちはまだ実質的な損害は出してない。それにお前ら、中東を忘れたか」
中東、というと宴会の時に陸佐が話していたアラビア方面だろうか。
あの時、僕は陸佐から直に話しを聞いていたからわかるのだが、かなりの激戦だったそうだ。
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
「友永陸佐が今まで行った戦場で一番激しかった戦場はどこですか?」
「あ?坊主、そんなもん聞いてもなんの得にはならんぞ」
「いえ、僕の個人的好奇心ですよ」
「そうかい。そうだなぁ、一番激しかった戦場っていうとアラビア方面だったな」
「アラビア方面ですか?意外ですね」
砂地でのアラビアだと言うのだから、意外としか言いようがない。僕としてはてっきり、中国やインドシナであったり、ベトナムなどの東南アジアの方だと思っていた。
なぜならば、東南アジアなどの方面では山岳が意外と多いからだ。山岳で戦車は戦いにくいだろうし、ゲリラ戦が乱用される地域だから、そちらの方面での戦いが激しいかったと言うと思っていたからだ。
「あぁ、アラビア方面は凄かった。俺達はイラクとサウジアラビアで防衛戦闘をしたんだ。そうだ、さっきお前に話をした時、行き先々で負けたと言っただろう?」
確かにそう言っていた。『勝っていたが、負けた』と。
「ここだけは特別でよ。何せ、世界の石油工場だ。連合国軍が最後の最後まで抵抗して、俺達が戦った戦場で唯一独立を守りきった国だ。まぁ、イラク北部は若干取られてしまったがな。」
「それで、どう激しかったんですか?」
「おっと。話が脱線しちまったな、坊主。そうだな、まず第一として、大規模な戦車戦が繰り広げられていたことだ。向こうはどちらかと言えば、平地続きなところが多いから、戦い方一つで命運が決まってくる。朝起きてみれば、連合国の基地の中ではどこの大隊が全滅しただの、どこの敵を殲滅しただの、目まぐるしく戦況が変わっていったんだ」
「懐かしいですね。アラビアっていうと、ヒューストン大佐を思い出しますな。」
副長が口を挟んできた。
「おぉ、懐かしいな。あれは確か、キルクーク防衛戦の時だったな」
「はい、隊長。今でも思い出せます」
「すみませんが、キルクーク防衛戦というのは?」
純粋にアラビア方面での戦闘を知らなかったからの質問だ。
「坊主はしらねぇよな。キルクークってのは、イラク北部の街のことだ。当時はモスルが陥落したばかりだから、これ以上戦線は下げられまいと、俺達も奮戦していた」
「まぁ、結局は負けてしまったんですけどね」
「副長、馬鹿言うな。ありゃ数がおかしいんだ。俺達は最初、キルクークの街の中に敵をわざと入れて、キルクークを封鎖してから、大砲撃をして殲滅する積りだったんだ。実際、連合国軍は既に現地住民の移動を完了させていた」
「だけど、やつらは自分らの予想を簡単に上回る数で押し込んできたために、対応しきれなかった。今思い出しても、腹が立ってきますね」
「奴等は他の車両がやられようが、お構いなしに突撃してくる。俺達も決死の覚悟で撃ち返したが、キルクークは落ちてしまったワケだ。確かこの戦いで3両の部隊員が死んだハズだ。だから、次にこんな撃ちあいがあれば、俺達は絶対に負けない。経験の差で相手を打ち負かすんだ」
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
「忘れてませんよ、隊長!こちら副隊長車。各車、我と同時射撃を実施せよ!」
「隊長車、了解した」
「11号車、了解!」
他の各車両も「了解」と応答した。
「射撃まで、3、2、1、ゼロ!」
次の瞬間、先程まで『ドンドン』と連続的な砲撃音だったのが、今度は幾つもの砲撃音が重なり、『ドン!』と今までの比ではない音が、シキツウの車両の中に居ながらも聞こえた。
「敵、沈黙!各車、我に続け!」
それから数分経つと、敵戦車大隊の撃破に成功したとの報告が来た。
この瞬間、僕は改めて34戦車旅団は、連邦軍の虎の子機構軍団であることを再認識した。




