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フリーダムワールド  作者: 雪原果歩
第二章 日本戦線編
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第二十二話 酒を賭けた攻勢作戦

攻撃が開始されて30分が経った。重爆連隊は攻撃が始まった直後には、爆弾を投下しつくして基地へ帰投した。しかし、カチューシャ大隊は途中、弾頭の再装填などがあったが、未だに軽快な音楽を奏でながら射撃を行っている。


というか、どれだけ弾があるんだよ・・・・。現在のロケット砲兵のロケット弾は、基本的にモジュール化されており、再装填にはそれほど時間が掛からないが、いくらなんでもおかしいだろう。


「カチューシャ大隊はあとどれくらいで弾を撃ち尽くしそうだ?」


大隊の弾の撃ちつくしと同時に再度、都市への攻撃を行おうと思い、大隊へ聞いてみるが応答しない。


「おーい!カチューシャ!応答してくれ!」


「あー。すみませんねぇ、閣下。ウチのお姫様はちょっとトリップしてますわ。もう、ロシアのカチューシャ、って曲だっけか?を流しながらだといつもこうなるんだから・・・。ホント困ったもんですよ」


するとカチューシャでは無い誰かが、受話器を取ったようだ。彼の口調から、恐らく砲撃に夢中になっているということなのかと、推測はできた。


「ウチの大隊はあと少しで弾が切れますよ~。まぁ、大雑把に見てあと10分もすれば終わりますかね、っと。ウチのお姫さまが張り切っちゃってさ、閣下にいいトコ見せるんだ~みたいな感じで、たくさん弾持って来ちゃったからねぇ。」


「おい、直!何やってんだ!ちょっとは砲撃を手伝え!姫がもっと効率上げろって言ってるぞ!」


「うぇぇ・・・・マジィ?部隊の仲間から呼ばれたので、一度交信を終了します。あ、それと閣下のコートは大事に持っていて、今も着て・・・」


「おい、早くしろ!姫が来るぞ!」


「うぇぇぇぇ!?カ、カチューシャ大隊、一時交信終了!」


慌ただしく交信が終了した。何がなんだかよくわからなかったが、あと10分もすれば撃ちつくすそうだ。弾が無くなり次第、向こうからまた連絡を入れるだろう。


ふぅ、と一息ついて周りをちょっと見渡しみると、海将の様子が少しおかしかった。何故だからわからないが、海将が笑いを堪えているように見えたが気のせいだろう。


時間が少しできたので、今の状況のおさらいと確認を行うことにした。


現在の日付と時刻は、2月23日の20時16分。開戦から20時間が経過していた。周りのオペレーターたちはシフトを組んで交代しているのかわからないが、オペレーターは開戦当初の面子ではなかった。そろそろ、僕の疲労もピークに達してきた。


さて、今日の戦いのおさらいをしよう。開戦当初より僕ら連邦軍は基本的に、航空軍による攻撃を基本として戦ってきた。後に、敵軍の存在が確認されなかった為に、陸軍を都市へ突入すると、つくば市に敵軍を発見。上越の方では敵軍発見の報はまだ届いては居ない。


我が軍は、西側は上越で留まらせ、東から戦線を押し上げる予定なので、つくば市は早急に落とさなければならない都市であった。


が、しかしながら20時間経って、筑波のラインで留められているのは想定外だ。当初の予定では、上越と水戸の横の戦線を敷いているはずだった。しかし、敵軍は筑波研究学園都市の機能をなるべく避難させるために、そこで遅滞戦闘を実施し、僕らを足止めした。


この戦いで僕らは一度、敵の罠に嵌められたと言えるだろう。僕らが間違えたことは、学園都市を考慮していなかったことと、学園都市に民間人が居るという前提的な考えをしたことだ。それにより、我が軍の東部方面軍は少なからずの被害を受けた。


また、被害はそれだけに留まらず僕らの被害というのはもう一つある。それは、刻一刻と過ぎていくこの時間だ。僕らは早く福島要塞線で敵との戦闘を行わなければならないのに、未だ関東平野で敵軍と乳繰り合っているのだ。


そもそもの話、今回の戦いは早急に決着をつけないと、被害が膨れ上がっていくのは目に見えている戦いだ。未来的な損害とは言え、これを被害と言わずして何と言う。


完全に僕の判断ミスだ。これから先でどうにかして、取り返すしかない。過去の失敗を悔やんでも、死んだ兵や負傷した兵は元には戻らない。


「閣下。一度、おやすみなられたらどうでしょうか?」


海将が僕に話しかけてくる。恐らく、ずっと指示を出しっぱなしで疲れていると思って、気遣ってくれたのだろう。正直、僕も疲労がかなりピークに達しているんだよね。


「でも、筑波を落とすまでは寝られませんよ。ここを落とさなきゃ話にならない。前線では将兵が命を張って戦っているんですよ?この程度で倒れてたら、彼らに僕は何とも言えませんよ・・・・」


「わかりました。でも、筑波の攻略が終わったらおやすみになってください。無理は禁物です」


「わかった。ありがとう、海将」


僕は海将に礼を言うと、海将は「礼には及びません」と言い、自分の席に戻った。


「え~、こちらカチューシャ大隊。トリップ中のお姫様に代わり、木島(きじま) (なお)三曹がお送りします。我が隊は既に、所持していたロケット弾頭は全て消費。繰り返す、所持していたロケット弾頭は全て消費し、筑波学園都市は既に石器時代と化した」


「了解、カチューシャ大隊。貴隊は後方へ下がり、補給してから東部方面軍と再度合流せよ。」


カチューシャ隊に撤退の指令を出した。


「了解~。カチューシャ隊長~!撤退っすよー!後ろで補給してから、前線と再び合流せよとの達しが司令部から来ました!」


「な、お前、勝手に司令部と交信していたな!?」


「そんな、理不尽な!?隊長が砲撃に夢中になっているから、代わりに交信したんでしょうが!」


回線が切れずにいたため、隊の中の会話が司令部でダダ漏れになっている。


「はいはい、こちら司令部。回線がまだ切れてないから会話がダダ漏れよだよ。今度から注意してくださいよ?交信終了」


そう言って、無理矢理交信を終了した。あれ以上、あのやり取りを大音量で、ここで聞かされる身にもなってほしいものだ。只でさえ大きい司令部内のスピーカー音なのに、それを大声の出力となると、耳がイカれそうになる。


さて、次の段階へ移ろう、筑波大攻勢の最終フェイズだ。戦争では、どれだけ航空戦力で戦果を挙げようと、結局は陸戦兵力が勝敗を決めるのだ。


具体的な例を挙げるとするならば、太平洋戦争のアイスバーグ作戦だろう。もっとも、日本列島ではその名前はほとんど使われずに、沖縄戦と言われているが。


沖縄戦では、昼夜を問わず戦艦からは砲撃が行われ、航空機からは爆撃を行い、その光景は鉄の雨とまで言われた。しかし、上陸しなければ取ったとは言えない。もしかしたら、敵戦力が隠れているかもしれないんだ。


結果、沖縄戦では米軍の総死者はMIA(行方不明者)含め、1万という損害を出した。ゆえに、歩兵というのは隠れやすいから、航空戦力だけで全てが終わりではない。


「筑波方面における陸上戦力は直ちに再度つくば市に攻勢を開始!今度こそ、つくば市を落とせ!これ以上時間を掛けていてはだめだ!」


「了解した!東部方面軍は只今より、つくば市に対して歩兵での攻勢を実施する!」


「ここまでお膳立ては済んでいるんだ、時間を掛けるなよ。なぁ、エルス?」


「ったりめぇだろうが!なんだ?俺の腕が信用できないって言うのか?」


「いや、別にそういうワケではないが・・・・」


ちょっとしたお茶目な事を思いついた。エルスよ、そこまで自信があるのなら、その発言に乗っからせてもらおうか。


「そうだな、そこまで自信があるのなら、賭けでもするか?」


「上等じゃねぇか。2時間。いや、1時間半で落としてやらぁ!」


「そうだな、本当に1時間半以内に落とせたら、東部方面軍に司令官命令として、酒の補給を送っておいてやるよ。」


「その話は本当だな?話は聞いたな、てめぇら!1時間半でつくば市を落とすぞ!」


エルスの声の背後には、「よっしゃああ!」「酒が飲めるぞ!」など叫び声が上がっていた。


しかし、残念ながらそうは行かないんだな、これが。さすがに1時間半で落とせるハズが無いだろう、というのが僕の見解だ。第一、都市部であり、市なのだから1時間半で落とされてたまるか!という話だ。


というか、学生が多いのに酒で喜ぶのもおかしな話だな。






それからしばらく経って、21時30分になると各方面軍から定時連絡が来た。新潟方面を主に担当する西部方面軍、群馬方面の山岳を担当する中央方面軍、茨城や栃木を担当する東部方面軍だ。


西部方面は基本的に、上越などの方面は平地が広がっているために、指揮官初心者でもやりやすいため、中村くんが指揮をしている。


中央方面軍は現地を実際に体験し、戦ったことのある風間陸将が担当している。事実、山岳戦は都市戦とならぶ程に難しいために、経験者が率いないと大惨事になりかねない。


そういえばだが、僕は風間陸将のことを基本的に元傭兵という点以外に何も知らないところが、実際怖いところではある。


あまり交流が無く頭の中から忘れていたが、彼女が2月事件における基地襲撃を担当したという可能性も捨てきれない。まぁ、それはあくまで僕が彼女の事を知らないだけで、彼女が犯人と決まったワケではない。


しかし、軍に得体の知れない人が居るとなると、ある意味怖いところではあるために今度調査をさせることにしよう。少なくとも、海将の人選だからそんなことはないだろうと思いたいところではあるが。


東部方面軍はエルスこと、大竹が率いている。関東平野方面は極めて都市化しているために、エルスのような熟練者じゃないと無理ということで、エルスが率いている。


西部、中央の戦線では特に動きはなく、時々航空戦力が来るレベルなのだが、それも僕らの空軍が迎撃するために特に問題は無く、陸戦力は時々見つけるそうだが分隊や小隊規模が主だ。


民間人をこちらの重しにする積りなのか、西部や中央の民間人は退避させては居ないそうだ。やはり、使える人材だけを避難させたかとも思った。


東部方面ではエルスが絶賛つくば市攻勢作戦に動いている。エルスが撤退したいと喚いていたときに出撃させようとしていた28航空騎兵隊も、東部方面軍の指揮下に就いて、目下つくば市に対して攻勢をかけている。


そこで僕は驚くべき報告を耳にした。


「あと20分ぐらいで全制圧するから、酒の用意をしろ」


と割りとマジな声でエルスが言ってきたのだ。さすがに嘘だろ、と思って部隊の進行領域を地図上に表示すると、つくば市のほとんどの地域をもう既に制圧していた。いや、さすがにこれはデータ偽装送信やら何やらのエルスの工作だと、その時は人生に一度あるかないか分からない程に、思いこんだ。


その14分後にまた東部方面軍から連絡が来た。


「こちら東部方面軍、報告する。つくば市"陥落"!繰り返す!つくば市"陥落"!司令部は酒の残弾を確認しろ!」


頭が痛い。嘘でしょ?え?つくば市を1時間半以内に全制圧?再び時刻を見ると21時44分だった。攻勢開始が確か、21時半ぐらいからのはずだから・・・・大体1時間ちょっとだ・・・・。


いや、本当に洒落にならないよ!約284平方キロメートルの広さの街一つだよ!?


「こここここ、こちら司令部、了解した。東部方面軍は水戸と宇都宮にただちに進撃せよ」


だめだ、動揺で声が震えてしかたない。おまけに若干だが、声が上擦ってしまっている。スピーカーからエルスの何とか笑えようとする声が聞こえてくる。途中噴出しそうになったのか「っぷ」と聞こえた。


「ククッ、おっと失礼。こちら東部方面軍了解した。進撃を続けるが、酒はちゃんと用意してくれよ」


「あ、あぁ。わかってる。安心して進撃を続けてくれ」


絶対アイツ、僕が動揺しているのを楽しんでやがった。よし、戦争が終わったら司令官権限であいつに何か仕返しをしよう。そうだ、そうしよう。職権濫用と言われても構わない、だってそうでもしないと僕の気が治まらないから。


さて気を取り直して行きますかね。


「閣下。もうそろそろ、お休みになられては如何でしょうか?」


海将は僕にそう言った。そういえばだが、さっき筑波が落ちたら休むとも約束したしな。今日はそろそろ寝るとしよう。


「雪空陸将もどうぞお休みになってください。」


「でも・・・」


姉さんも休んでくださいと言われたが、自分は何もしていないと言いたげな雰囲気を出している。


「姉さん、今日はもう休もう。今度から一緒に働いてもらうから、大丈夫だよ」


そう言うと「わかった」と言って姉さんは一足先に此処を後にした。


「さて、僕も寝ますかね。」


「了解しました、夜間はこの私にお任せください。」


「うん。水戸と宇都宮の制圧が出来次第、東部方面軍は一度進軍を止めるって感じでお願いしますね。さすがに兵士の疲労もかなりなものでしょうし、補給も必要です」


「はい、わかりました。それと、何かありましたら、小規模な案件に関してはこちらで判断を下させていただきますが、重要案件の場合はすぐさま起こしに参りますので」


「りょーかい。それじゃあ、おやすみ」


「はい、お休みなさい。閣下。」


僕はその後、司令部を後にして石川基地の中の将官用のベッドルームへ行き、シャワーを浴びて寝た。さすがに20時間の戦闘指揮は体に堪えたのだろうか、すぐに眠り入ることができ、不眠には悩まされなかった。





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