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フリーダムワールド  作者: 雪原果歩
第二章 日本戦線編
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第二十一話 筑波大攻勢


「地上陸戦隊で手の空いている歩兵師団が居れば、つくば市に回せ!これ以上損害を大きくさせないためにも、最大火力で臨むぞ!」


「了解!現在、手空きの部隊は二個大隊ほどあります!」


二個大隊だって!?向こうは師団レベルで苦戦している市街地戦だぞ!?というよりも、何故今手空きの部隊が存在する!


「どこの部隊だ!?」


「第28ロケット砲兵大隊と、第一機械化狙撃大隊です!」


あぁ、なんで第一機械化狙撃大隊なんて代物が手空きなんだよ、クソッタレ!しかもロケット砲兵!?都市部に対してそれはキツ・・・・。いや、待てよ。なんで筑波なんかに民間人が居る前提なんだ?都市だからか?


確か、つくば市は社会主義連邦でも、有数の学術研究都市のハズだ。まさかとは思うが・・・・。いや奴等、民間人は先に脱出させている可能性が捨てきれない!国の発展は科学からのこの時代に、研究員を泣く泣く手放すやつが居るか!


「つくば市近辺における戦闘状況を詳細な地図に記して、こっちに転送しろ!それと、現地でのエルスと連絡を取れ!アイツから見て、民間人を見たか聞くんだ!それと、鷹隊はすぐにつくば市へ移動!」


「鷹隊ではない別働のプレデター部隊が付近に展開中ですが、そちらを向かわせますか!?」


「それじゃ、そっちで!」


オペレーターは忙しく、現地指揮官との連絡をし始める。僕の手元のコンソールに茨城県の地図が転送され、その地図上では現在戦闘中の地域が記されている。


「姉さん、ちょっとこっちに来てくれ」


何もやることが無く、突っ立っていた姉さんを呼ぶ。


「何?」


特に不機嫌な顔はしていないが、普通の人が見たら不機嫌そうに見えるだろう顔をする姉さん。実際、人前の姉さんはいつもこんなんだ。おっと、急がなきゃいけない本題があったんだった。


「この茨城の地図上で印の付いているところって、筑波研究学園都市であってるよね?」


「そうだけど、それがどうかしたの?」


「ありがとう、用件はそれだけだよ。」


よし、あとは前線のエルスたちが民間人を目撃したか、もしくは民間人が居る可能性を否定できるのか、プレデター君が軍人しか発見できないかでこの戦局は一気に変わる。


「プレデターからの映像、来ます!」


「映像はどうだ、民間人は確認できるか!?」


「ちょっと待ってください・・・・!」


「東部方面軍より先程の返答が来ました!」


もう一人のオペレーターが言う。


「返答の内容は!?」


「我、民間人を確認できず。また大竹陸将の報告によりますと、トラックに大量の紙を積んで、そこから出発したのが確認できたそうです」


奴等、東部の守りだけを固めてたんじゃない!東部の遅滞戦闘をしていたんだ!クッソ、嵌められた!あれほど巨大な学園都市だ。機能移設するのには一月(ひとつき)二月(ふたつき)じゃ時間が足りない!


人を移動させるだけなら、1週間もあれば可能だろうが、資料や施設はそうは行かない!だから、遅滞戦闘でなるべく多くの機能を移設しようとしているんだ!


そうなれば、手加減は無用!


「重爆撃機隊をつくば市に出撃させろ!東部方面軍はつくば市より一時撤退を指示!第一機械化狙撃大隊は東部方面軍の支配下に置かせろ!」


「ロケット砲兵大隊の方はどうしますか!?」


「そっちも同じだ!それと、ロケット砲兵大隊の方は都市への攻撃を指示。つくば市を石器時代に戻してやれ!それと、東部方面軍と直接回線を繋げ。つくば市への攻勢作戦だ!向こうとの連携を怠るなよ」


その指示の後、数十秒もしないうちに東部方面軍との直接回線が確保された。


「おい、チェリー!いきなり撤退とはどういうことだ!?」


回線が繋がると、エルスがいきなり怒鳴るように僕に言ってきた。思わず音の大きさを下げようと、無意識に手が伸びたほどだ。


「エルス、お前さっき大規模爆撃が欲しいって言ったよな?」


「あぁ!そうだが!?」


戦場に行くと血の気が多くなるという都市伝説は聞いたことがあるが、これは本当だったのか。


「今、絶対お前が考えていることに対して、返答をやろう!命のやり取りすれば誰だってそうなるわ!」


アッハイ。まぁ、当たり前と言えば、当たり前なのだろうが・・・・。


「まぁ、落ち着け。先の情報から判断するに、奴等が戦闘理由はつくば市を守るためではなく、筑波研究学園都市の機能をなるだけ多く後方へ持ち帰るために、やっていたという結論に至った」


すると、数十秒の沈黙の後「あ!」という間抜けなエルスの声が聞こえたきた。


「奴等・・・・・嵌めやがったなぁぁぁぁぁ!!!!」


「はいはい、まんまと嵌ったのは僕らですよ。」


僕は呆れたように言った。


「さっさと撤退して、躊躇わずに爆撃すりゃ良かったのにね。ということで、大規模爆撃を実施しますので後退してどうぞー」


「まぁ、お前の判断は間違っちゃいねぇ。これはゲームじゃねぇんだ、人の命は尊いし、労働力的資源も無限には沸いてこないし、世論もある。」


確かにその通りではある。事実、ゲームと実際の戦場はまったく違うと、今現在進行形で実感している。というよりも、否が応でも実感する。


でも、何故かわからないが人が死んでいる、という実感だけは沸かない。


「都市に躊躇い無く爆撃できるやつは、映画冒頭に米空軍が『映画はフィクションであり、現実には起こりえない』という解説を書くような映画の、水爆を落とそうとする狂った指揮官ぐらいしかいねぇよ!」


「違いない。」


「第2重爆連隊が筑波研究学園都市に対して、攻撃準備に入ったとの報あり!」


オペレーターが重爆隊が筑波研究学園都市に対しての攻撃準備に入ったと報告した。ロケット砲の方はどうだろ?


「ロケット砲兵の方はどうだ?なるべく、攻撃のタイミングは合わせたい!」


「ちょっと待ってください・・・・。」


と、オペレーターが状況を確認しようとした時。突如として、ワルキューレとは違う音楽が流れ始める。


今現在、石川の司令部と直結の回線を繋いでいるのは東部方面軍だけだ。その状況で、極めて音質が悪かったため、恐らく現地で演奏しているのだろうと察することはできた。


「こちら、第28ロケット砲兵大隊、通称カチューシャ大隊!前線の将兵諸君は待たせたな!戦場の女神のお通りだ!」


その声は僕が名古屋基地に来てから間もない時にあった女性と同じ声であったが、その言葉使いは以前とはまるで違った。


え?たぶんだけど、彼女・・・・なんだよね?


どういうことなんだ?と海将の方を見ると、海将の顔が、恐らく苦笑いをしているのだろうが、それ自体がよくわからないような顔をしていた。


「あー、彼女は何故かはわからないですがロケット砲兵の道へ進むと、その才能が開花してしまったそうですね・・・・。それで、自信を得たそうで・・・」


弁明のような言葉が海将から漏れる。いや、以前の影も形も無いでしょ。


そう、通信の声の主は、基地内で泣いていたカチューシャ本人なのだから。


「ちょっと前の資料で読みました。確か、もう既に大隊を率いているとかなんとか・・・・」


いや、報告が遅いですよ、海将。事後報告じゃないですか!


正直、今に至ってはうれしい誤算と言えるから、海将にとやかく言うつもりは毛頭無いが・・・・。


「カチューシャ大隊、砲撃準備完了!」


「重爆連隊も攻撃準備が完了しました!」


両部隊の攻撃準備が完了したことを告げられた。


「さて、諸君。史上最大の高火力戦闘をしようじゃないか。攻撃始め!」


「各、重爆連隊は直ちに攻撃を開始せよ」


「カチューシャ大隊、撃ち方はじめ!」


軽快な音楽と共に、ロケット砲の発射音がこちらに漏れて聞こえる。正直、1945年のベルリン市街地戦の砲撃か何かかとも、誤解できそうなまでの高火力攻撃であることには間違いないと思う。





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