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フリーダムワールド  作者: 雪原果歩
第二章 日本戦線編
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第二十話 日本戦線、複雑怪奇

宣戦がされて、航空機隊が発進し始めた。


司令室では、大量に指示と報告が行き交っていて、ある種パニックに陥っていると言えよう


「第103航空戦闘団出撃完了!」


「こちら司令部、全陸戦兵力はまだ動くな!待機しろ!」


「対レーダー兵器独立航空戦闘団、蝙蝠(コウモリ)出撃完了!」


「中部方面に展開する全海軍戦力は敵領海へ進撃せよ」


当面の指揮は、先遣の航空隊の指示と、海軍の指示だ。


「各地の空軍基地からは未だ入電はないか!?」


パニックで指示が行き届かない可能性もあるので、僕は大声で聞いた。


「対空目標の感知、未だありません!」


一人のオペレーターが答えた。


その直後


「いえ、先ほどの情報を訂正します!たった今、見方空軍基地から北方より未確認機接近との通報あり!」


来た。敵の航空隊だ。ここで、これをどうやって落とすかが重要だ。


「詳細は!?」


「6編隊に分かれており、各編隊はそれぞれ4機構成かと思われるそうです!」


総勢24機による迎撃作戦か・・・・。まぁ普通に考えたら、奇襲だったら絶対にこんな数出ないだろう。そこから導き出される答えは、最初から緊急発進(スクランブル)させる気マンマンだった、ってことだよなぁ。


「今、空に上がってるウチの部隊はどうなってる!?」


「先ほど発進した、制空戦闘可能な機体を配備する部隊では、103戦闘航空団と68戦闘航空団、それと59戦闘航空団があります!」


「総戦力はいくつだ!?」


「27機です!」


よし、これなら勝てる。機体性能はこちらが勝っているハズだし、数もこちらが上だ。


「各航空隊に伝達せよ!各航空隊は部隊を二分させ、敵航空隊の各個撃破に勤めよ!」


「了解!」


オペレーターは「こちら司令部、現在制空戦闘可能な発進済みの航空隊に告ぐ」と、言って指示を始めた。


「先ほど発進した蝙蝠(コウモリ)より交信です!」


別のオペレーターが報告し、回線を繋げた。


「こちら、蝙蝠。我、敵対空砲陣地を発見セリ、速やかなる対処を求む。我、既に残弾無シ。繰り返す、我、残弾なし」


いや、さっき出たばかりだろう・・・・。もう撃ちつくしたのか・・・。


差し詰め、対空潰しの精鋭と言ったところだろうか。


「援軍を直ちに出せ。蝙蝠はすぐに帰還して、速やかに補給を行うように」


「了解!蝙蝠はこれより帰還する」


よし、初動はいい感じに動けている。


「先程通報があった敵航空編隊と103航空戦闘団が交戦を開始!」


オペレーターは報告を続々と読み上げる。


それと、やはり今回の制空戦は我々に分があるらしい。


我が方有利との交信が、今さっき制空戦闘中の機体から飛んできた。


「ワルキューレ隊より交信!」


再びオペレーターは回線を繋ぐ。


「我、ワルキューレ。上越市の目前に到着、指示を乞う。」


「了解、ワルキューレ。そうだな、都市機能を麻痺させるために都市ガスや、変電施設などを重点的に破壊せよ」


「ワルキューレ、了解」


普通、いつもならここでオペレーターが回線を切断するのだが、オペレーターが他の仕事に手を取られたのか、回線が繋ぎっぱなしの状態になったまま放置されていた。


「ワルキューレ隊長機より、各機へ。我々はこれから、都市ガスや変電施設への重点的な攻撃を実施する。」


「「「「了解!!」」」」


「部隊は分隊毎(ぶんたいごと)に分散し、東西南北のあらゆる方角より都市へ侵入する!副長機は音楽を鳴らせ!」


ワルキューレの無線内容はこちらに漏れ出ていた。


そして、その会話から少しすると、無線の中に混線するように音楽が流れ始めた。


その音楽を聴いて僕は思わず、楽しい愉快な気分になってしまい、笑ってしまった。


こんな現状で笑っていられる人間が僕以外に居なく、海将や姉さんからは白い目で見られたのは確実だろう。


しかし、なんで愉快な気分になれたかって?それは近藤大隊長が、有言実行をしたからだ。


出撃前に彼は言った、「戦場を劇場に変えてみせますよ!」と。


彼は言葉通りに戦場をオペラ劇場に変えた。


司令室に流れ出る音楽は、ワルキューレの騎行。


それは、ある種司令室には似合わない音楽だった。


オペラ、ワルキューレ第三幕の「岩山の頂」、その開始を告げる幕が上がる前に、音楽は始まる。音楽に乗り、8人のワルキューレたちが声を上げながら岩山に集まる。


そのその状況はまるで、今のワルキューレと同じではないか。


しかし、その壮大たる音楽は大隊規模で展開する、極めて錬度の高い航空騎兵隊である、ワルキューレがどのような部隊なのかを、ハッキリと我々に分からせるだけの説得力があった。


見たい。そんな彼らを僕は見てみたい。


「プレデターの鷹隊は直ちにワルキューレの援護へ向かえ!上空からのスポッター役が居なければ、効率的に仕事はできない!」


という名目でプレデターの部隊を出撃させる。


「了解、鷹隊は直ちに出撃準備せよ。また準備が出来次第、順次発進を許可する」


あ、いい事を思いついた。


「海将、海将」


僕は近場の席に座っている海将を呼び寄せる。


「どうされましたか、閣下?」


「僕さ、士気を上げるいい方法見つけちゃった」


「それは一体?」


海将は首を傾げている。


「全軍の通信に曲を流すのさ」


「それが、どのようにして士気が上がるのでしょうか?」


「えーと、簡単に言えば高揚感のある音楽を流せば、士気が上がるんじゃないか?ってワケですよ。軍歌と似たような原理ですかね?」


「なるほど、そういうわけですか」


海将は、なるほどそれは良い考えだとニヤ付きながら頷いた。


「それでは、曲は如何いたしましょうか?」


海将はニヤ付いた顔を戻さずに僕に聞いてきた。


「丁度良いし、ワルキューレの騎行をそのまま流し続けるのはどうだい?」


ボクも思わずニヤつきながら答える


「わかりました、閣下。オペレーター!この曲を全部隊に流せ!今すぐだ!」


音楽を使う手法は古典的だが、効果は絶大だ。


歌というのは士気を上げることに関すれば、歴史上類を見ないほどに強い影響力を持っている。具体的な例を挙げるとするならば、軍歌や愛国歌、行進曲などが良い例だろう。


基本的に軍歌や行進曲は勇ましい歌詞や、曲調である。行進曲であれば、ナチスドイツのケーニヒグレッツ行進曲、日本の軍艦や陸軍分列行進曲、米国のWhenジョニー) Johnny() Comes(かえる) Marching) Home()などがある。


それゆえに、士気を上げやすい。


それは単純なことだった。だから、僕もそれを習うことにした。


だからこそのワルキューレ。


それと、とある映画のリスペクトもある。あれは・・・確かベトナム戦争の映画だったかな。


確か、航空騎兵がワルキューレを流しながら無差別に攻撃をしていくというシーンだったはずだ。


というか、ワルキューレの隊長のあの行動がなかったら思いつかなかったケドね!ワルキューレの隊長には戦争が終わったら感謝をしなければならないだろう。


「我、103戦闘航空団。騎兵の先陣の援護は任してくれ!我が航空団は既に敵2個編隊を殲滅セリ!」


「我、68戦闘航空団。敵制空機編隊を全て殲滅し、59戦闘航空団と合流!指示を求む!」


三個戦闘航空団から殲滅の報が来た。ということは、当分の制空権はこちらが握った。


僕は次の指示を彼らに送る。


「制空任務に付いていた部隊は全て帰還せよ。また、装備は全て対地仕様へ変更!その後は地上支援に徹せよ!」


「103戦闘航空団、了解。帰投する」


「68戦闘航空団及び、59戦闘航空団も直ちに帰投する」


三個航空隊の帰投指示が出された後、10分ほどで同隊は帰還した。


さすが戦闘機隊と言ったところだろうか。






航空機隊の攻撃が始まり、早二時間が経ったところで、僕は次の判断をすることにした。


「海将、敵被害の状態を教えてくれ」


「はい、閣下。現在、我が軍は敵領地の最前線である茨城、栃木、新潟における正面戦線の、全方位にて攻勢に出ており、制空権は既に我々が握っております。現在、本格的な攻勢に出ているのは空軍による、都市攻撃などが主です。しかし、主目標は市民ではなく、敵軍と都市機能を麻痺させることに全力を注いでおり・・・・。」


「そんなことはどうでもいいんだ、敵の被害状況を教えてくれと言っているんだ」


「はい、前線の航空隊の報告によりますと、つくば市、上越市などの主要都市は都市機能が麻痺し、敵の陸軍の姿は見られないそうです」


その報を受けて、僕は衝撃を受けた。


敵の陸軍が見えない?奴等、陸戦を捨てたか?初期の制空戦はかなりの編隊数が居たし、その可能性は捨てきれない。


「他の都市も同様か?」


「はい、これは好機かと」


それであれば敵にとっては、とても残念な結果だろう。我が軍における空軍は最高峰とも言われる錬度を誇り、最新鋭の戦闘機を駆るのだ、一方的な蹂躙は避けられまい。


とりあえず、敵の陸軍の姿が見えないらしいから陸軍を突っ込ませるか。


「わかった、オペレーター!陸軍全軍に通達!全機械化歩兵師団は、敵最前線の都市へ突入せよ!戦車師団及び山岳歩兵師団は都市を迂回し、さらに奥へ進撃!また、その際における交戦規定はWeapons(兵装) free(使用自由)!」


この現状、敵の都市に軍が居ないものとするならば、さっさと占領してしまった方が後々、楽になることは明らかだ。都市の利用方法として幾つか種類があるが、今回は補給基地としての能力が期待できるだろう。


それと、戦車と山岳歩兵師団は要塞線まで、戦線を早く押し上げるために進撃させた、というワケもあるが、戦車師団に関しては万が一のことを考えて、市街地には派遣しなかった。


戦車師団が一番恐れるのは、市街地における乱戦だ。市街地ってのはあちらこちらに建造物があるから、どこに兵士が隠れているかもわからないし、戦車から降りてしまうワケにも行かない。だから、都市への派遣は最初から機械化師団のみの編成だ。


山岳歩兵師団は当初の予定通り、中央の山岳地帯を貫く要員。ただ、此処に関してはいち早く突破しないと後々ひどいことになる。もし、敵が反攻作戦を実施した場合、山岳での消耗戦となり、かなり苦しい状態に引き込まれる。


何としてでも、その状況だけは避けなければならない。もしそうなってしまえば、連邦軍史上最大の規模の損害を出しまうだろう。


「航空騎兵除く、空軍全軍は都市攻撃を直ちに中止し、歩兵師団の進撃を援護せよ!航空騎兵師団は、戦車師団と共に進軍し、戦線を押し上げろ!」


「つくば市へ進行中の部隊から交信!」


「繋げ!」


つくば市ということは、茨城方面の部隊のハズだ。つまりは、東部方面軍。恐らくはエルスの管轄の部隊だろう。


「東部方面軍、指揮官の大竹陸将だ!東部方面軍は現在つくば市に対して侵攻作戦を実施しているが、敵が建物内に立てこもり、篭城戦を実施している!つくば市に対する大規模な爆撃作戦をの実施を要請する!」


「ダメだ、エルス!それは意図的に民間人を虐殺するのと同じ意味と、見ることもできる!俺達は戦争をしてるんだ!虐殺をするんじゃない!」


「じゃあ、東部方面軍は泣く泣くここで消耗されていけということか!?何とための航空戦力との、一体した電撃戦なんだよ!」


あー・・・・、どうするか。


「オペレーター!東部方面でつくば市に近い航空騎兵はいるか!?」


オペレーターはコンソールを操り、部隊を探す。


「ありました!東部方面東京基地、補給中の部隊があります!第28航空騎兵隊です!」


「その部隊は補給が終わり次第、つくば市へ支援攻撃のために向かわせろ!被害が大きくなる前にだ!話は聞いていたな?エルス!そっちに航空騎兵隊を送る」


通信の音にザザッというノイズ音と、パンという乾いた破裂音のような、銃声が聞こえる。


「あと何分で着く!?」


「オペレーター、何分で着くんだ!?」


「最短で20分です!」


「こっちは被害を出さないように必死なんだ!早くしてくれ!」


オペレーターが「これでもいっぱいいっぱいなんですよ!」と、音を上げる。


「すまない、なんとかして耐えてくれ」


「あぁ!わかったよ、クソッタレ!交信終わり!」


ガンッという叩きつけたような音と共に、回線が途切れた。恐らく、受話器を叩き付ける様にして、戻したのだと想像が出来た。


しかし、最悪の事態になった。今のところ敵兵力が確認できている都市は、東側だけだ。まさか、やつら西側の防衛を捨てたか?


いや、ありえない。新潟こそ守りやすい地形だ。西部の海岸線では一部とはいえ、平原の地形で、主要幹線道路などが通っている。


奴等は一体、何を考えている!?

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