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フリーダムワールド  作者: 雪原果歩
第二章 日本戦線編
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第十九話 宣戦布告

閣議を終えてから海将と、姉さんたち陸将を含む僕らは、北方の石川基地へ移動した。


というよりも、移動せざるを得なかった。先の二月事件の最中の襲撃で名古屋の司令部が、ちょっとした損害を受けてしまったために、という理由だが。


僕は二月事件で実家がどうなっているか確認してから北方の基地へ向かったために、みんなより数時間遅くに基地を出た。


久しぶりに実家を見に行ってみたけど、実家は燃えてはいなかった。その時に偶然両親が通りがかったので、軽い会話をした。


内容としては、「お前がまさかあんなことに役職に就くとはな!さすがは自慢の息子だ!」だったり、「日影も徴兵されたから、今はここには居ないよ。確か・・・・・、機械とか狙撃とか言う部隊に配属されたって手紙が送られてきたけど・・・・。というか、会社は大丈夫なのかしらね?」といった会話だった。


我ながら思うのだが、やはり僕の両親はある種狂っていると言えよう。なんせ、僕が何も言わずにこんなことをしていようと、文句の一つも言わないし、恐らく僕と姉ちゃんの二人が死のうが、生きようが恐らく特にこれといったリアクションは起さないだろう。


それよりも、問題は戦争だ。正直な話をすれば、今まで偉そうに何だかんだ言ってきたが、今世紀において正規軍と正規軍との全力での戦争は人類が経験していない領域なために、最終的にどうなるかは全然わからない。


20世紀では、中東戦争や湾岸戦争などがあったが、それは最早参考にはならない領域にまで兵器は進化している。


近年になるにつれて、インターネットや、コンピューターなどの発展により、兵器は目覚しい発展を遂げた。


特に無人飛行機、誘導弾、人工知能等々が主に上げられるだろう。


また、戦いは以前までは陸海空に時間という概念を加えた、四次元戦闘の考えが基本とされていたが、今ではインターネットという、人間が作り出した新しい世界での戦いがあるために、五次元戦闘の考えが最近では出てきている。


それほどに、戦争は変わりやすいということだ。


北方の基地へ降り立つと、まずは海将と基地司令官が出迎えてくれた。


時間は見ていないが、外は既に真っ暗闇で、基地の滑走路の誘導灯がまぶしく見える。


自分を乗せてきたヘリが、巻き起こす風で目を開けるのがキツかったので、腕で目元を守った。


「閣下!全陸戦部隊は国境沿いに配置完了し終えました!」


「わかった!それと、今の時刻を教えてくれ!」


海将は自分の腕時計をチラ見した。


「20時です!あと4時間で宣戦布告がされます!」


すると、風巻き起こしていたヘリがようやくエンジンを切って、僕の目を風で攻撃しなくなった。

腕を元に戻して、基地司令官に連れられて司令部の方へ歩いていった。


「私は、連邦軍北方総合基地司令官の鍋島中将であります。」


歩きながら、鍋島中将は自己紹介をした。


「鍋島中将、これから世話になります!」


「いえ、名古屋の件はこちらも既に情報が入ってきていますので、わかっております!あの被害状況を総合的に判断すれば、誰だってこちらに総合司令部の機能を移設しますよ!」


「そうか、ありがとう!鍋島中将!」


「礼には及びません!その代わりと言ってはなんですが、戦争では国に勝利を持ち帰りましょう!」


「あぁ!そうだな!」


司令部に入ると、中には見知った顔は一人だけいた。


それは姉さんだった。


他は全て誰も居ない。


「海将、他の陸将はどうしました?」


「一足先に、部隊の掌握を行っております。」


海将はそう言った。


「ちなみに、姉さんが残っているのは故意?」


海将にだけ聞こえるようにかなりの小声で言った。


「はい、彼女は正直、まだ使える段階ではないです。というよりも、他の方々がそもそもの話ですが、軍事の事を知っているから今、部隊の掌握などをしていると思いますよ。決して雪空陸将がどうと言うわけではなく、他がおかしいのです。」


海将も僕と同じように小声で返した。


姉さんは本当にどうしようかなぁ・・・。


「それと、比嘉外務大臣から先ほど連絡がありました。」


比嘉大臣から連絡?なんだろ。


「何て言ってました?」


「西ヨーロッパ、特に北西フランスとベネルクス地方にて欧州議会連邦が大規模動員を行っているそうです。現地では物品は配給制となり、自由が制限されています。」


動因?このタイミングでか・・・。


「それは、日本列島における戦争への介入の動員と見られるますか?」


「いえ、中東や、アラビア半島方面への出兵かと思われます。恐らくは、アラビアの石油を世界から締め出す積もりかと。また、それにより西ヨーロッパでは政府に対する不満が多々見られるそうです。」


中々に面倒なことをしてくれますねぇ!?議会連邦さん!?


「どちらにせよ、西ヨーロッパでは近々一波乱起きそうですね。」


そういえば、流れで戦争する話になっているけど、確か来月の本来予定していた開戦日の前の日の向こうの首相との会談はどうなるのだろうか。


まぁ、順当に行けば恐らくはキャンセルになるだろうな。






嵐の前の静けさと言うのが正しいのかわからないが、僕らはそのまま3時間をゆったりと過ごした。


開戦一時間前になると、海将から全軍に訓辞をして欲しいと言われた。どうしても、と海将が頼み込むものなので渋々承諾した。


すると、海将はマイクを持ち全軍への通信回線を開いた。


「こちら、北方石川総合基地司令部である。全軍に通達する、各員傾注!統合幕僚長より訓辞!」


そう言うと、海将は僕にマイクを渡してきた。


僕はそれを渋々受け取り、全軍にこの戦争は何のための戦争であるかを説くことにした。


「さて我が軍の将兵諸君、ついに我々が待ちに待ったこの時がやってきた、中には待ってない者も居るだろうが。我々は先の二月事件において、美しき祖国の首都が敵の手によって蹂躙され、燃やし尽くされた!」


力強く、かつ迫力ある言葉を発する。


「しかし、我らが神は今此処に、奴等に復讐をする機会を与えられた!」


一度、言葉を止めて呼吸を整える。


「が、しかしながら我々は此度の復讐の機会を放棄しようではないか。ならば、此度の戦は何が為にあるのか!?それは、長きに渡り分断されてきた日本列島を、日本人を再び統合するために、奴等の思想を粉々に打ち壊す必要があるからだ!」


自分自身を一度落ち着かせて、今度は穏やかな口調へ変える。


「新約聖書の言葉である、汝の敵を愛せよ、この言葉を心に留めて我々は戦おうではないか。我々は今一度、一つとなる。別々に桜を見る必要は無いのだ、別々に春を迎える必要は無いのだ。これは、開放戦線である。日本の荒廃この一戦にあり。各員一層奮励努力せよ。」


そう言って、僕は海将にマイクを返した。


「以上、交信終わり。」


海将は交信を終わらせた。


時刻が23時30分になると、先遣の航空隊が出撃準備完了となった。


航空隊は開戦と同時に攻撃を仕掛ける予定なので、ヘリ部隊は、開戦20分前頃に出撃を開始する。


僕はそれを見届けるために外のヘリポートまで来た。


すると、ある男性ヘリパイロットが話しかけてきた。


「閣下、共に戦えることを光栄に思います。」


彼はそう言って、僕に敬礼をしてきた。


それに僕は答礼をした。


「貴官の名前と所属部隊は?」


「っは!航空騎兵隊大隊ワルキューレ、大隊長の近藤秋吉であります、サー!」


「ワルキューレか、先の二月事件でお世話になりました。今度の作戦でも期待してますよ。」


「わかりました!我々の神髄は攻撃にあります!戦場を劇場に変えてみせますよ!」


劇場の(くだり)は恐らく、オペラのワルキューレと掛けているのだろうが、あえてスルーする。


「貴官らの、武運を祈る!」


そう言ってお互いに敬礼をしあうと、彼は機体に乗り込んだ。


辺りのヘリパイロットが全員機体に乗り込むと、ラッパ手が騎兵隊の出撃ラッパを吹き始めた。


その音と共にヘリたちは轟音を轟かせながら上昇を始め、隊列を整えてその場を去っていった。


その光景を見て、僕は司令部へ戻った。


司令部へ戻ると、既に時刻は12時58分となり、開戦間際となっていた。


周りの人も緊張していて、司令部は異様な雰囲気に包まれていた。


そんな中、国家非常事態宣言の音と共に緊急放送が始まった。。


それは、みんなのスマホにも映し出されていた。


画面に映し出されるのは、内閣総理大臣その人だった。


「国民の皆様へ大事なお知らせがあります。」


その時に時刻を見ると、23時59分21秒で開戦まであと39秒だった。


「我が国、東海連邦は先の二月事件において、多大なる被害を受けました。しかしながら、それはある国の意図的な工作であることが判明いたしました。」


23時59分40秒。


「それは、隣国の日本社会主義連邦であります。此度のこのような卑劣な行為には我々はついには、実力行使も止むを得ないと判断いたしましたために・・・・」


00時00分00秒。


「東海連邦は2月23日本日、現時刻を以って日本社会主義連邦への宣戦を布告します。」

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