第十七話 襲撃される全体の指揮官
その後、ワルキューレ隊が出撃準備完了まで残り僅かとの報告を受けてから数十分後には、出撃が完了した。
「0420(午前4時20分)の現刻を以って、ワルキューレ隊全機出撃完了。」
「陸戦戦力はどうしてる?」
オペレーターが手元のコンソールを使い、正面のモニターに情報を映し出した。
モニターでは名古屋がAからDまでの4つの区画に分けられていた。
実際、名古屋は16の区で構成されているが、緊急事態ではそのように細かい区画だけではやっていけないので、防衛大綱として、緊急時の時の大きな区画分けがある。
北西部の5区で構成された、地域A。
北東部の4区で構成された、地域B。
南西部の3区で構成された、地域C。
南東部の4区で構成された、地域D。
この4区画で緊急時の大まかな防衛線の配備を行う。
モニターでは比較的近い、地域Cへは風間率いる、中央即応第3師団が既に現地へ到着済みで、目下テロリストの制圧を行っている。
また、第1、第2機械化歩兵は第1が地域Dへ、第2は地域Aを目指して移動中。
北東のBは先ほど交信した烏と、目下移動中のワルキューレ隊の担当地域となっている。
烏は10分前に補給の為に基地へ一度、帰投するとの通信が入った。
しかし、指令を出し続けているが、地図だけ見ていても状況がわかり辛いと思い始めてきた。
映像が欲しいなぁ・・・・。
あっ、そうだ。確か、米国から買ったプレデターがあったはず。
ずっと横に居る海将に話しかけてみた。
「確か、基地にプレデターがあったよね?偵察用にカメラ装備を取り付けたやつ。」
「はい、確かにありますが・・・。」
「よし、それを今すぐ出撃させよう。地図だけじゃ、分かり辛い。」
「しかし、携帯式対空ミサイルを持った兵が、どこに居るのかわからないこの状況では・・・。」
「うちの軍の対対空部隊の鼻を疑っちゃいけないですよ。ほら、出撃。」
「了解しました。鷹隊に出撃を命令。」
オペレーターは海将の言葉を復唱して、鷹隊と呼ばれる部隊に出撃命令を発令した。
それから、戦況に特に動きは無く、両機械化歩兵師団が担当地域へ到着した。
数十分経つと鷹隊との直通回線が確保されたようで、極大モニターには市街地の様子が映し出された。
それは、想像を絶する惨状だった。
一部ではあるが、ビルが倒壊し、テロリストが仕掛けたであろう爆弾があちこちで未だ爆発している。
市街地は、まるで焼夷弾をばら撒かれ、多数の死傷者を出した東京大空襲の下町空襲のように、街は火の海と化していた。
辺り一帯では攻撃ヘリがテロリストを機銃などで掃討している。
偵察機のカメラの性能が良いからわかったことだと思うが、辺り一帯には一般市民と思わしき人物が大量に居て、皆傷つき、血を流し、倒れている。
住宅地、市街地は燃え、一般市民を巻き込んだ市街地戦。
このことから一つの言葉が心の底から出てきた。『地上の地獄』
また、ヘリが居ることから、映し出されている地域はBなのだとわかった。
しかし、先ほどからヘリが攻撃しているのに、一向に殲滅しきれない。
もはや、このレベルの事となると、テロリストという表現ではなく、ゲリラと称するべきだろう。
もっと早く制圧しなければ、被害が増える一方だ・・・・!
「オペレーター!もうここには戦力は無いのか!?」
「閣下、残念ながら、今現在、主力は次の大規模作戦に備え、連邦北東部へ駐屯地を移転しているため、名古屋基地には今、追加で動ける隊はありません!」
その言葉に思わず舌打ちをしてしまった。
どうする・・・。どうすればいい・・・・。、
そんなことを考えている間に司令室には戦闘中の部隊の無線が、続々と流れている。
「こちら、第1大隊、我、部隊は半壊!このままでは我々も火の海に飲み込まれてしまいます!」
「我、第3中隊!突撃を敢行す!」
「烏1番から各機へ!烏4番がやられた!やつら携帯対空ミサイルを持ってやがる!警戒しろ!」
僕は何もできないまま、時間が過ぎていく。
今の僕の役職は、全体の指揮官だ。現場で陣頭指揮を取っているわけじゃない。
僕はただただ、今この現状で、何もできない自分を悔やみながら、通信を聞いていることしかできなかった。
それから時間が何分か経つと、ある部隊から司令部へ交信が来た。
「こちら、ワルキューレ。地域Bの残敵を我々はこれ以上発見することは不可である。直ちに憲兵隊の派遣と消防の派遣を要請する。」
地域Bは終わったのか・・・?
「こちら、司令部。基地には残存する兵力が既に無い。そちらに送る憲兵隊すらない。」
すると、続々、各地方を担当していた部隊から連絡が入る。
「こちら、第1機械化歩兵師団の大竹。こっちは発砲音が止んだため、部隊を散開させて偵察させたが残っているのは敵の死体だけだ。こちらの地域は掃討が完了したものと思われる。我、指示を乞う。」
「こちら、第2機械化歩兵師団の中村です。こちらも発砲音が先ほど止んだため、部隊を散開させて偵察させた結果、残っているのは敵の死体だけです。こちらも指示を乞います。」
「中央即応第3師団の指揮官、風間だ。各地域と同じようにこちらも残っているのは、死体だけだ。隠れている様子もたぶんないだろう。恐らく、ここまでの騒ぎに仕立て上げて、私たちを撹乱できたのは事前の準備が奏したものだろう。そのおかげで部隊もかなり被害を受けた。」
急に戦闘が止まった。わからない。
何故、戦闘が終結したのかわからない。
時刻を見ると、午前5時30分。そんなに早く終結するものなのだろうか?
実際のゲリラ相手の市街地戦は知らない。
とりあえず僕は、通信を受けて、各部隊を散開させ、消防などの活動を支援、治安維持活動などを指示した。
正直、この作戦で敵の司令官が、本当にやりたかったことが僕には余りわからなかった。
作戦には何かしらの意味があるハズだ。
考えられることとして、首都の破壊工作を行うことで、士気の低迷を狙う。
また、市街地で戦闘を行うことで、比較的少ない人員でも大多数を相手にして戦っても、損害を与えやすいという点だけだ。
正直、相手の行動の、真の意味を見出すことができない。
僕は、敵の司令官を相当の曲者か、本物の愚か者かと見ている。
どちらにせよ、奴等には相応の対価を払ってもらう積りだ。
そう思っていた時、突如として銃声が、司令室ではない場所で鳴った。
敵襲かと思い、僕はホルスターから海将からもらった拳銃の安全装置を解除し、初弾を装填した。
その次の瞬間に、司令室の扉が乱暴に開かれた。
振り返り、拳銃を隠すことができなかったので、咄嗟に僕は、拳銃を懐に隠した。
次の瞬間に、何者かが僕の首元に腕を回して密着し、銃口を頭に突きつけた。
そいつは僕を密着するなり言い放った。
「おい!ここの指揮官は誰だ!?」
「その指揮官が僕なわけだが、何の用かな?野蛮人。」
僕は、いきなり入ってきたやつに、煽り付きで返答して、僕はその場で出来る限り振り返った。
男は目だし帽を被っていて、手には軽そうな短機関銃を持っていた。
種類を確認しようと思ったが、僕が見たことのない銃で、わからなかった。
また、僕の首元を腕を回して拘束している野蛮人の他に、突撃銃を持った男が一人いることが確認できた。
「ッチ、まぁいい。てめぇらは動くなよ?」
周りのオペレーターや海将たちにそう言い放つ。。
「さて、立川レポートの在り処を教えろ!」
立川レポート?何の話だ。
「知らない。」
そう答えると野蛮人は
「あぁ!?しらばっくれてんじゃねぇよ!早く教えろ!」
野蛮人は何故か、焦って冷静さを失っているように見えた。
また、偶然気づいたが、野蛮人の腕が震えていた。
そう、何かに怯える動物のように。
「おい!誰でもいい!知ってるやつが居たら教えろ!」
そう言って周りの人に目を向けて、僕からの注意が逸れた瞬間。
懐に隠していた拳銃を取り出し、僕に密着している方の野蛮人にどこでもいいから、と思い、銃口を男に密着させ、発砲した。
すると、突撃銃を持ったほうの別の野蛮人がこちらの反攻に気づいたようで、安全装置をわたわたと慌てながら解除していた。
それを見たときにこれは不味い、と咄嗟に思い、物陰に隠れようとした。
僕が物陰に隠れようと、僕の視界にこっちを振り向いて、怯えているオペレーターなどが目に入った。
フルオートで射撃されては彼らまでも不味い!
「皆物陰に隠れて伏せるんだ!」
咄嗟に叫んだ。
その後、なりふり構わず僕は物陰に隠れた。
その瞬間に、まるで、毎分1000発という圧倒的射撃速度の、イングラムM10のような驚異的な連射速度の連射音が僕の耳に入り、司令室のあちらこちらに弾丸が飛び交った。
恐らく、突撃銃の弾丸で圧倒的連射性能を兼ね備えた武器だったのだろう。
しかし、そんなバケモノが使うようなものを人間が扱えるハズもなかった。
僕は突撃銃の男の様子を伺うことにした、次の瞬間に軽い発砲音が聞こえた。
さっきまでの射撃音とはまるで違うので、誰かがやったのだろうと思い、物陰に隠れるのをやめて、周りを見渡してみた。
物陰から出ると、まず目に入ったのは海将が拳銃を野蛮人に大して構えていることだ。まぁ、野蛮人二名は血を流していて、気絶しているように見える。
そのまま放置すれば、出欠多量で死ぬだろう。
また、司令室は弾丸でボロボロ。コンソールは破壊され、極大モニターも被弾して、使い物にならなくなっていた。
とりあえず、状況を確認するために海将と話をするために、海将に近づき、話しかけた。
「まさか、基地が襲撃されるとは。海将はケガとかないですか?」
「いえ、大丈夫です。閣下の方こそ大丈夫ですか?頭に軽機関銃を突きつけられていましたし。」
海将が、目に見えて心配していて思わず笑ってしまった。
「なんで笑うんですか!私が、昨日それを渡さなかったら今頃は・・・・。」
「いやいや、感謝しているよ、海将。それより、現状の確認だ。」
僕は襲撃してきた野蛮人の方を見ていった。
海将はまず、野蛮人の服装に目をつけた。
「閣下、これは、連邦陸軍の一型戦闘服です。」
「ふむ、となると、犯行は内部のものによるってことかな?」
「断言はできませんが、そうかと。しかし、少なくとも、内部に大規模な敵の工作員の組織があるとは、とてもじゃないですが考えられないと思います。」
「それは何故?」
すると、海将は僕の方を見て断言した。
「明らかに数が少なすぎます。この司令室を襲撃するなら、少なくとも一個分隊は欲しいです。ましてや相手は軍基地ですよ?こんな非常事態で、司令室で仕官が拳銃の一つや二つ持っていてもおかしくはありません。」
「なるほど。」
海将の説明は納得がいくものだが、僕には一つ引っかかりがある。
「彼らは何故かわからないが、何かに怯え、焦っていたのだが、海将には何故か、わかるかい?」
恐らく、鍵は立川レポートと呼ばれるものだろう。
「いえ、特に心辺りはありません。」
「立川レポートに関しては?」
「ありません。」
海将は目を見開き、言った。
正直、これ以上この問答をしていてもしょうがないため、一度会話を切ることにした。
「わかった、この話はここまでにしよう。基地内及び、展開中の部隊に第一種警戒態勢を発令。」
「了解、基地内及び、展開中の部隊に第一種警戒態勢を発令!オペレーターはただちに伝令せよ。」
「それと、襲撃者に応急手当をして、搬送の手配をしろ。意識が戻り次第、尋問を行う。」
「了解。」
あ、応急処置で思いだしたけど、入ってくる前の銃声はなんだったんだ?
そう考えていると、司令室の扉が再び開いた。
そこには、腹に一発食らったであろう我が軍の兵士が居た。
「閣下・・・・・・大丈夫ですか・・・・。」
顔をゆがめながら僕の事を心配された。
「いや、まず最初に自分の心配をしろ!メディック!メディーック!」
すると、兵士は気を失いその場で倒れた。




