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フリーダムワールド  作者: 雪原果歩
第一章 楽しい生活の始まり編
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第十三話 エルスと遅滞戦闘

彼女と別れると、既に太陽は落ちて、月が昇ろうとしている。辺りで訓練をしていた兵士は訓練が終わったのだろうか、居なくなっていた。残り一ヶ月となる開戦の時の兵士の初動を考えながら、適当に基地の中を歩いているとポケットの中に入れていたスマホが鳴った。スマホの着信の画面を見ると海将からだった。 


内容としては防衛大臣と総理が来ているから、今すぐにでも司令部の地下司令室の方へ来てくれとのことだった。今の時期に両二名が来るということは、おそらく次の開戦についての段取りについてなどだろうと予想は付く。


そして、僕は進路を司令部の方へ取った。


今度の戦い、僕の中では幾つかの懸念がある。それは、ソ連が国として参戦することだ。


当初の考えでは、東側陣営はやるにしても義勇軍派兵までぐらいだろうと考えていたが、今回の戦は恐らく東側陣営挙げての総力戦の前哨戦として考えられている可能性もあるため、代理戦争の域を超えてしまうかもしれない。


もし、代理戦争の域を超えてしまったら━━━━?


もはや答えは出ている。人類が恐れるべき戦いである、第三次世界大戦以外に答えは無い。


しかしながら、第三次世界大戦に発展する場合はまず、米ソのどちらかの国が何かしらのアクションを取るだろう。特にソビエト側でだ。


その一つとして、核使用禁止条約の締結がある。


端的に考えると、恐らくだが、ソビエトはあくまで世界を掌握したいという考えであって、焦土と化した地球が欲しいわけではない、ということだ。


どちらにせよ、東側も初手で自軍の全力投入は避けて、冷戦時代のベトナムや朝鮮の様に戦うだろう。


と考えていると司令部まで着いていた。司令部の地下司令部へ行くと、海将が総理と防衛大臣の両二名と談笑をしていた。酔いつぶれるだの聞こえることから、どうやら、昨日の宴会の事を話している様だ。


しかしながら、皆は会話に夢中で、僕が来たことに気づいて居ないので会話に割って入ることにした。


「はいはい、談笑はそこまでにして本題を始めましょうね、三上総理並びに北原防衛大臣。」


すると総理は

「こちらからお話があるとして来たのに、お恥ずかしい」

と頭を掻き、北原さんは顔を赤くしていた。


海将は他に仕事があるようで、その場から立ち去った。


僕は近場にあった椅子を引っ張ってきて、ドカッと座り込む。


「それで、今日は何の御用で?」


「本当に用があるのは彼女でしてね・・。」


と北原防衛大臣の方を総理は向く。すると、北原防衛大臣は先ほどまでの表情から一転し、真面目な顔になった。


「はい、3月に計画中の作戦の打ち合わせという形で参りました。」


「オペレーションライジングサンについて?」


すると北原大臣は頷き、話を続けた。


「厳密には戦後処理と初動と福島要塞線を如何に落とすか、などですね。」


「それって簡単に言えば、作戦の全てじゃないですか。」


「そうですね。」


と、北原大臣は微笑みながら言った。


とりあえず、可愛い。の一言が浮かんでくるような表情だった。


そんな表情に答えるべく話を続ける


「とりあえず要塞線の話をするならば、正直な話ですが、要塞線を落とせるかどうかはわからんですね~。」


「それじゃあどうするんですか!?」


北原大臣が僕に詰め寄ってくる。


近いです、もうちょっと離れてください。

胸が見えそうなんで、ちょっと離れてください。


「だ・・・だって、あんなの"普通はそのまま突破"するものじゃないでしょう・・・・。普通の指揮官なら、新潟地方の方から北進してますよ、まぁ確実にそこを行った瞬間に敵の集中砲火を受けて軍が全滅しかねませんけど。」


北原大臣が近い余りに、顔を背けながら言うと。


「うぅ・・・・・じゃぁ、どうするんですか!」


今度は若干涙目に涙目になりながら言ってきた。


最初に会ったときのあの凛々しさは一体どこへやらと思わず思ってしまった。


すると、突然背後から誰かが歩いてきた。


「そこで、俺の出番ってワケだな。」


それは大竹忍こと、エルスだった。


僕とエルスは何も、僕が元帥になることとなった大会で初めて戦ったわけじゃない。

前々から自称トッププレイヤー同士として戦い合った仲だからこそわかる、エルスの性質。


僕は基本的に攻勢が得意だ、攻めてに関して言えば機械化、電撃戦、火力優越、人海戦術何でもござれだ。


逆にエルスは遅滞戦闘が得意だ。遅滞戦闘と言えば聞こえはいいが、中身をはっきり言ってしまえば只の撤退戦であり、時間稼ぎだ。


だけど、今度の戦いはこれが大事になる。


「俺の得意とする分野の遅滞戦術は基本的に待ちの戦いになる。だからこそ、要塞線を落とすのに有効な手であるということを、コイツがわかっていることが、逆に腹が立って仕方がねぇ。」


エルスの敵としては名誉の言葉ではあるけれども、僕は男からそんな言葉を贈られて喜ぶような人間じゃない。


「一ついいですか?」


三上総理が疑問の表情を浮かべて聞いてくる。


「ん?なんかあるのか?」


「待つことで要塞線を落とすことなんてできるんですか?」


そう、普通の人ならそう考える。遅滞戦術は簡単に言ってしまえば、敵陣へ攻め込まずに撤退する戦い方。


「そうだな。総理、貴方は1ヶ月不眠不休でアンタは職務を全うすることができるか?」


「普通は無理でしょうね。1日でさえ、疲れますのに、それを不眠不休で一ヶ月となると不可能ですよ。」


「そう、兵士ってのは結局のところ、それを行うんだ。しかも相手は要塞に篭城戦さ、こっちは部隊を入れ替えて戦えるし、波状攻撃で夜襲を掛けて、撤退して塹壕に潜り込んで昼間は夜襲を掛けた部隊とは別の部隊を投入して、弾幕などを張って戦えば、いくらでも敵の士気や、物資などの消耗を狙える。」


そう、こいつの戦い方が何が怖いかって、これなんだ。


いい具合のところで塹壕掘って遅滞戦術に移行してから、別動隊で波状攻撃でこっちの士気を削り、それがピークに達したときに主力をドカンと投入する。そこからは人海戦術で奥へ奥へと進み入り、敵を包囲殲滅する。


恐らく、遅くても1週間であの要塞線は落ちる。


「それなら、電撃的に侵攻する必要ってあるんですか?」


と未だ涙目が直りきってない北原防衛大臣が聞いてくる。


「要塞線までのラインで兵士を消耗させてちゃ意味がないから、空中騎兵、まぁ所謂ヘリ部隊で要塞線までのラインを確保する、という意図が一応はあるんですよ。」


「そして、一定ラインで塹壕を掘って遅滞戦術へ移行し、敵を消耗させ、敵が疲弊したところで主力を突っ込んで、人海戦術で突破する。これが恐らく一番被害が少ない。」


僕の後に続いてエルスが補足した。


今の僕たちの説明で、総理と防衛大臣は一応納得したようではある。


「さて、お次は戦後処理のお話といきましょうか、実はこれが一番大事。東北を占領したところで、我々は東北の民たちを統合する象徴がないのですよ。それは何が言いたいかと言うと、占領したところで下手すれば現地ゲリラで悩むだけ、ということです。」


「それじゃあ、どうするんですか!?」


北原防衛大臣が今一度、詰め寄ってくる。


ですから、近いです。


あと、貴方さっきから同じようなことしか言ってないじゃないですか。


もうちょっと語彙力が欲しいですね。


「まぁ、答えは簡単ですよ。僕らが頭を下げて、ある人にその役になってもらうんですよ。」


「答えになってないです!」


「はぁ・・・・、英領日本の方面に心当たりがあります、というかあなた方も恐らく知っていてもおかしくないはずですよ。英領日本、関西地方、京都。」


防衛大臣は相変わらず、わかっていないようだが、三上総理はわかったみたいだ。


「なるほど、(いにしえ)より国を治める人を頭につけるわけですね。」


「その通りです、総理。」


未だにわかってない防衛大臣はどうしたものかと悩むところではある。


「北原防衛大臣、答え合わせは今度にってことで。」


「え、えぇぇぇ。」


結局、防衛大臣は答えを見つけることはできなかった。

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