第十一話 サンダーベルトグループ
気づけば僕以外の人は酔いつぶれていた。自分の周りには酔い潰れて、寝ている兵士が多く居て、時刻は日を跨いで午前2時を超えていた。少しばかり立ってみると酔いで体が若干フラフラする。酔いを醒ますために夜風を浴びようと僕は、酔い潰れた兵士が死屍累々とする兵士宿舎から出た。
外に出ると僕は宿舎の周りを散歩することにした。時刻は午前3時の夜の空は曇り一つの無く、星が綺麗だった。星が綺麗だ。純粋にそう思える空だった。
宿舎の集まる地区を散歩していると、他の宿舎とは少し違った宿舎が目に入った。新しい将軍達が入っている宿舎だ。彼らは男女で分かれて、二人一組で生活している。
その宿舎を通りがかると、すぐ傍の路地から声が聞こえてきた。声は若い男の声だけだ。恐らく電話をしているのだろう。
「はい・・・・・。わかって・・・・・。ですが!・・・・・。絶対に・・・。」
聞こえてくる内容は途切れ途切れで全貌を把握することはできない。だがしかし、しばらくするとピッという通話終了の音と凄いため息が聞こえてくる。
声の主の正体を知るべく路地に立ち入ると、そこには中村君がスマホを持って呆然としていた。どうしたのだろうか?少し声を掛けてみよう。僕はそっと彼に近づく。
「やぁ、中村君。こんばんは。どうしたんだい?そんなため息をついて。」
僕は右手を上げてフランクに話しかけた。
「か、閣下・・・・!どうしましたか?こんな時間に?」
動揺しているみたいだ。聞かれてはいけないものを聞かれたというパターンかな?
「いやね、戦車旅団の幹部集めて宴会やったんだけど、皆酔いつぶれちゃてね。それで僕はまだ起きてたから酔いを覚ますついでに散歩でもしようかな、とね。それでさっき電話していたみたいだったけどどうしたの?呆然としちゃって。」
彼にどうしたのか聞くと彼は黙ってしまった。ま、正直な話スパイでなければ特に問題という問題は無いはずだけどね。
「まぁ、相談ならいつでもしてあげるから、問題になる前に僕に相談しに来てね?」
僕は散歩の続きをしようと歩き始める。
「あっ・・・あのっ・・・・相談・・・いいですか?」
少し小さい声を彼は発した。まるで勇気を振り絞ったような声だ。
「もちろんさ、とりあえず座ろう。」
すぐ近くにあったベンチに僕達は腰掛けた。彼は今にも泣き出しそうな顔をしている。
どうしたんだい?まぁ、今から相談相手になってあげるわけですが。
「閣下はサンダーベルトグループを知っていますか?」
サンダーベルトグループ。確か重機などの建設現場に使うようなものを一通り、開発と販売を行っている大手グループ企業だったはず。元々は小さな町の工具屋だったらしいけども。
「サンダーベルトグループなら僕も知っているけど、それがどうしたの?」
「実はそこの会長が僕の父でして、軍勤務なんかやめて戻ってこいと言われていまして、というか既に僕の徴兵に関しては必要が無いように手回しをしているみたいで・・・。」
なるほど。要は跡取りを残したいけど、その子がもしかしたら戦死するかもしれないという考えに至っているのか。それで中村君は困っていると。どうしたものかな。
「困ったものだね。そうだね、なら絶対に死なないって約束してこればいいんじゃないかな?なんなら僕が念書を書いてもいいよ?君が戦死しないように善処しますって。」
「それで親が納得してくれればいいんですけど・・・・。」
「まぁ、次に説得をしてダメだったら、その時はその時で一回距離を置いてみるとか良いんじゃないかな?一応ここはある種の閉鎖社会だしね。」
事実、軍という組織は閉鎖社会である。一民間人が権力介入することはかなり難しい。なぜならば、何も訓練を受けていない政治家とは違って訓練を受けて、鉄の精神を作り上げた戦士達の社会なのだから、軍上層部には賄賂などのようなことをなどを持ちかけても意味は無いだろう。
「それと、一兵でも惜しいこの国が戦う上で君は必要だし、君のご両親は戦争で負けると会社が解体される可能性があるから負けて欲しくはない、そして跡取りも残したい、という構図だからたぶんきっと大丈夫でしょう。」
まぁ、遠まわしに正面から反抗というか話をしろと言っているだけである。自分で言うのもなんだが、自分はほとんど何もする気がないというクズ思考。これに関して言えばどうしようもないね。
「ま、結局は問題は僕が解決することじゃなくて、君が解決することだ。あくまで僕は君のお手伝い。」
「がっ、頑張ります!親を説得して、立派な指揮官になります!」
「その心意気はいいですね。それでは僕はもうそろそろ酔いも覚めてきたので帰りますかね。」
僕はそう言って、その場を後にした。さて、散歩の続きでもしますかね。数歩前へ歩くと体が寒さでブルブル震える。よし、帰ろう。
進路を家に取り僕は歩き始める。星はまだ綺麗に輝いているが、もうじき朝になり東からは太陽が昇る。忘れていたが、確か今日は休みのはずだ。帰ったら寝よう。
歩きながら考えているとあることを思い出す。姉さんのことだ。何故姉さんがここに居るのかまだ疑問に思っているので今度、時間があれば彼女から聞くとしよう。
気づけば僕の家についていた。鍵を開けて、中へ入る。そのまま鍵を閉めてベッドへ直行し、棒高跳びの背面飛びの要領で仰向けにベッドに飛び込み、そのまま深い眠りの中へ落ちていく。




