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闇にうつろふ  作者: 五月蒼井
壱、
8/35

幼馴染の頼みごと






狛犬(こまいぬ)?」



ソーダの上のソフトクリームをスプーンですくいながら、燈中はテーブルを挟んだ向かい側の席に座るトビの言葉を復唱した。


水曜日の午後、中学校の校門で待ち構えていた彼に捕まってから、小さな喫茶店に連れ込まれて相談ごとがあると言われたのだ。水曜日は夕方に毎週見ているアニメがあったのだが、好物であるメロンソーダにソフトクリームを乗せたものーークリームソーダを奢ってくれるというので、燈中は渋々彼の話を聞いていた。

件のアニメについては、トビのスマートフォンから縁鬼に録画してくれるように連絡済みだ。



「ああ、狛犬。神社にあるあの狛犬だ」



トビーー金鵄(きんし)一族の現当主は、燈中の幼馴染である。彼は姉の李左と同窓生であるが、おとなしい李左よりも活発である燈中との仲の方がよかった。小さな頃はやんちゃだったトビの後ろにくっついて、燈中も野山を駆け回ったものである。年は少し離れているが、気心の知れた友人である。



「寂れた神社なんだけどな、そこにいる狛犬が、夜な夜な暴れているらしい」



金鵄一族は領民ーーそこの土地に住む者たちからの信頼も厚い。たまたま寄った商店の店主に相談を受けたそうだ。

小さな商店街の外れ、山の入り口にその神社はある。夜はその狛犬の遠吠えが響き、住民たちを恐れさせているらしい。



「狛犬って神社の門番じゃないの?神様側だから、いいやつじゃ?」



ぢゅーっと最後のクリームソーダを啜り、燈中はトビを見た。形のいい太い眉は小難しそうに寄せられていて、あまり事態はよろしくなさそうだった。



「一応俺たちも見に行ってはみたんだが、あれはうちの手に負えそうにない」



金鵄は情報を司る一族で、調伏は得意ではない。小物くらいなら本家から支給されている札を使って祓うことはできるが、その狛犬はかなり手強そうだった、とトビは言う。


妖退治は本家または(うしとら)家の専売特許だ。余程のことがないかぎり、本家のエリート部隊は、分家の領地の一神社の怪異なんぞには人手を割いてくれないだろう。

本家は高飛車で傲慢ーーこれは縁鬼の言だがーーそこでトビは艮の当主である燈中に助けを求めたのだ。



「ふんふん、それで私に退治してほしいってことね」


「退治…とまではいかないが、暴れている理由を知りたい。あそこの神社は歴史も古い」



何をぬるいことを言っているのだ、と蛇又は思う。人に害なす邪や妖は祓われるのが道理。今までもこれからも、お前たち一族はそうしてきたし、そうしていくのだろうと。



「ふーん、まぁ別にいいけど」



トビとは違い、燈中は邪を祓うことに戸惑いはないだろう。そういうものだと幼い頃から知っているから。そして、祓わない選択肢をも取ることができる。それだけの実力が彼女にはある。



「……力はかなり弱まってきてるが、まだ信仰している人々もいるだろう」


「わかったよ。話を聞いて、ダメだったら祓うからね」






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