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闇にうつろふ  作者: 五月蒼井
壱、
4/35

いざ、当主会へ




早朝、燈中は叔母に叩き起こされ、当主会への支度を眠気まなこで行っていた。姉に着物を着つけてもらいながら、朝食のパンを頬張っている。厳しい叔母がいたら行儀が悪いと怒られただろうが、その叔母も自分の支度に忙しいので、この場にいないのが幸いだった。



「ねむいー」


「車で眠れるんだから、しっかりして!」



ゆらゆらと揺れる頭を押さえつけながら、ボサボサの髪の毛も梳かしてやる。燈中は髪の毛が短いので結うことはできないが、花飾りをつければ、少しは少女っぽく見えるだろう。



「よし、できた!」


「ありがとー、姉様」



ただでさえ、邪を司るこの家は他の分家から見下されている。さらに燈中はまだ十三歳になったばかりで、右も左もわからぬような子供だ。それに加え、見た目でまで何か言われるようなことがあれば、きっとこの妹は傷付いてしまうだろう。

それを心配している李左は、少しでも妹が可愛くなれるよう、髪飾りと着物を数日前から慎重に選んでいたのだった。



「シンカイ、行くよー」



そんなことは露知らず、のんきな妹は出掛けようと式鬼を探し始めた。いつも巻きついている杉の木にはおらず、とぐろを巻いている縁側にも見当たらない。他に思い当たるところは、と考えながら歩いていれば、背の高い男性の後ろ姿が見えた。



「おはよー」


「おはようございます、燈中さん」



フレームのない眼鏡を掛けた柔和な顔立ちの男性。艶のある黒髪は短く切られており、形のいい眉がはっきりと見える。歳は燈中の叔母と同じくらいだろうか。



「蛇又なら此処に」


貴人(きひと)さんが捕まえてくれてたんだ!ありがとう!」



彼の足元には薄い青い膜のようなものに覆われたシンカイがとぐろを巻いていた。動くことができないのか、じっとその黄金の瞳で、男ーー貴人のことを睨みつけている。



「何じゃ、此奴は」



蛇又がこの屋敷で出逢った中では、縁鬼の次に肝が座っているだろう人物。前当主である叔母ですら、邪である自分を怖がっていたというのに、この男はどうだ。



「貴人さんはうちの周りの結界張ってる人だよー」


「結界、じゃと?」


「そう。そういう一族なの」



貴人は草御門(くさみかど)家の人間である。彼の一族はその異質な家柄、様々なものから狙われている。無論、妖や邪ーー人間からも。

それを防いでいるのが草御門で、彼の一族の屋敷に一人は結界を張るために派遣されている。邪を司るこの燈中の家に派遣されているのが、草御門当主の三男、貴人だった。



「外へ出て行こうとしてましたので、念のため」


「さすが貴人さん!」



結界の外へ出て行こうとしている者、外から中へ入ろうとしている者、その両者ともこの屋敷を囲む結界を通過する。そのため、貴人には誰が出入りしているのか把握できるのだ。燈中の使役である式鬼が主の許可もなしに出ようとしていたのを見つけ、檻に蛇又を閉じ込めたらしい。



「厄介な家じゃ」


「貴人さんは草御門で一番優秀なんだよ!」



貴人の作った結界に恐れることなく手を突っ込んだ燈中が、蛇又の頭を鷲掴みにする。ブラブラと尾を揺らす蛇又が、胡乱げにに貴人を見やる。



「燈中、もう出るそうだよ」



にっこりと微笑む貴人と睨みつける蛇又を横目で見ながら、玄関の方から現れた兄が燈中を手招きする。



「はーい!」


「なぜ我が行かねばならぬ…」



いつもなら燈中に頭を鷲掴みにされた後は、仕方なく腕に体を巻きつける蛇又だが、やはり行くのは面倒だと思っているのだろう。尾をぶらぶらと宙に揺らしたまま、されるがままとなっている。



「シンカイが私の式鬼で、私がシンカイの主だからだよ!」


「…なぜ我はこんな阿呆な小娘に負けてしもうたのか…」



キリッとした顔で言われたが、蛇又が言いたいのはそんなことではない。ーーあの時、情けなど掛けなければ、こんな厄介ごとに巻き込まれなくて済んだというのに。



「私が強いから!」



自信満々に胸を張る主に何だかイラっと神経を逆なでされた蛇又は、無言のままその手首を締め上げてやった。





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