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闇にうつろふ  作者: 五月蒼井
壱、
19/35

兄の式鬼




「あれ、兄様は?」


「きぃぃぃぃぃ!!!」


学校が休みである土曜日、遅い朝食を食べながら縁鬼に問いかければ、向かい側に座っていた兄の式鬼である妖狐が発狂したように奇声を発した。


「早朝出掛けたぞ。安倍のところだろう」


「なぜわらわを置いていくの?!ああん、右介ぇえぇっ!!!」


髪を振り乱して泣きわめく妖狐を気にも留めず、縁鬼は読んでいた新聞から顔をあげ、燈中の問いに答えた。


「右介と安倍の末裔は同級生だからな」


「そっか」


「右介ぇぇぇえ!!」


安倍の末裔――()の大陰陽師 安倍晴明の末裔である。先祖代々 陰陽師の家系であり、右介の友人もその例に漏れない。

もともと同じ学校へ通っていた二人は、互いに特異な家柄だったこともあってか在学中は仲が良く、卒業した今でも付き合いがある。


「キツネ、うるさい!」


右介のことが死ぬほど好きらしい妖狐は、どこへ行くにもついていきたがる。しかし、どうやら今日の右介に供は不要だったらしい。置いていかれたショックで、放っておくと数十分以上泣きわめく妖狐に、燈中が不満をぶつければ血を零したように赤い妖狐の目が吊り上がった。


「何よ小娘!あんたのせいで右介はねぇっ」


玉藻(たまも)


「っ!!!」


「燈中のせいにするな」


剣呑に光る縁鬼の瞳に、妖狐――玉藻前(たまものまえ)は押し黙った。


「なによ!わらわは右介がいなくて寂しかっただけよ!!」


そうやってみんなしてわらわをいじめるのね!と捨て台詞を吐き、妖狐は裸足のまま庭へと飛び出していった。


「おい、いいのか?」


「いつものことだ」


燈中の母からもらったクッキーを無心で頬張っていた炎獅子が、姿が見えなくなった妖狐について尋ねたが、縁鬼から冷たい返答があった。

たとえ迎えに行ったとしても、右介が迎えに来ないのならば帰らない、と妖狐が意地を張るのが目に見えている。邪といえど彼女は今や右介の式鬼、放っておいても滅多なことはしないだろう。


「つーか、あの狐、玉藻前だったんだな…ただの頭おかしい狐かと思ってたぞ」


「あれは玉藻前のカケラだ」


「カケラ?」


玉藻前。平安時代末期、鳥羽上皇に仕えていた女官だ。その本性は九尾の狐であり、正体を見破られた後、宮中を逃げ出し、下野国で討伐され、死した後も毒をまき散らす殺生(せっしょう)石に変化(へんげ)し人々を苦しめたという。


ある時、高僧により殺生石は破壊され砕かれたが、飛散してその地からなくなってしまった。飛散した先でおとなしく封印されていたが、心無い人間の手により、再び封印が破壊されてしまった。右介が使役しているのは、四つに飛散した欠片のうちの一つだ。


「他の三つは厳重に封印してある」


「兄様が下したのは、草御門が守っていた領地にあったカケラ。他のカケラは花御門(はなみかど)が封印してるんだよね」


「草御門?花御門?」


「草御門はうちに結界張ってる貴人さんちの家で、花御門は本家に結界張ってる家だよ」


まったく説明になっていない主の説明に首を傾げて眉を寄せれば、苦笑した縁鬼が詳しく教えてくれた。


この一族は大きく分けて二つあり、本家と(うしとら)家で分けられている。派閥というのは大袈裟だが、基本的には本家とその補佐役、艮家とその補佐役で成り立っているそうだ。


結界を張る 花御門と草御門。

情報を司る 金鵄(きんし)海守(うなもり)


その他にも分家はたくさんあるが、力のある家はこの四つに本家と艮を足した六つだそうだ。


結界を張る力だけでいえば、花御門の方が上で、玉藻前の残りの三つの欠片は現在は花御門にて管理されているらしい。

結界を破壊されたなんてことは一族の沽券に関わるからだ。これ以上の失態は許さないという本家からの圧力もあり、草御門から花御門へ管理が変わったという。


「カケラといえど、そこらの者には手に負えない邪だ」


「まあ、玉藻前っつったら、有名どころだしな…」


妖が跋扈していた平安の時代でも力のある妖だった玉藻前。石となった後も毒をまき散らして、周囲に被害を及ぼしている。


「もしかして、姉ちゃんが使役してるあの大鬼も力のある妖か?」


「いや~あのおっさんは…」


「燈中!まだ朝ごはん食べてるの!?洗い物が片付かないからしゃべってないでさっさと食べなさい!」


洗濯物を抱えて通りかかった叔母に見咎められ、燈中は無言でパンを口に詰め込んだ。





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