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闇にうつろふ  作者: 五月蒼井
壱、
17/35

扉一枚




<開けろォォ…!!>


病室の扉を母と二人がかりで抑え、外からの侵入を防ぐ。

早苗と母の後ろでは幼い弟が泣き叫んでいるが、構っている余裕などなかった。少しでも力を弛めれば、外にいる妖が中に入ってきてしまうだろう。


結界がもう少しで破れるという悪婆の嘘に恐れをなして、早苗は家から出てきてしまった。病院について早々にスマートフォンから改めて燈中の実家へ電話をしたが、案の定助けにきてくれるはずの人物は家を出た後だった。電話に出た男性が病院に向かうように連絡をしてくれるとのことだが、どのくらい時間がかかるかわからない。


「ごめんなさい…っ」


勝手な判断で、弟どころか父と母までも巻き込んでしまった。

ナースコールを何度も何度も押したのに、ナースセンターからの返事はない。それにこんなに大きな音を響かせているのに、誰かが来る気配もなく、病室の外は一体どうなっているのかわからなかった。


<赤子を寄越せ…!!!>


「何なの!!?何なのよ…っ!!」


パニックになる母親に、手を弛めないように叱咤する。パニックになって自宅を飛び出した自分が悪いのだが、早苗は早く燈中の家から助けが来ることを、ただただ祈った。








「…?」


目を閉じて時間が過ぎるのを待っていると、どのくらい経ったのか、病室の外が静かになっていることに気付いた。

外の様子を確認せずに扉を開けようとする母を制して、早苗はゆっくりと扉に耳を押し当てた。先ほどまで怒鳴っていた妖の気配は感じられなかった。


≪コンコン≫


「こんばんは。丑寅家から来たものですが…」


その言葉に早苗は慌てて扉を開いた。ようやく燈中の家から助けが来たのだ。


「お父様の事故と、悪婆との因果関係はないでしょう」


「タイミングが悪かっただけだな。あのババアにとっちゃ、赤子を喰うためにあんたを尾行したら弱った父親までいて、棚から牡丹餅だったことだろう」


燈中の姉だというその女性は、がたいがよく背の高い男を連れて病院へやってきた。病室まで早苗のあとを尾けてきていた老婆――悪婆(あくばば)は彼がどこかへ追い払ってくれたらしい。二度と早苗の前には現れることはないから、心配しなくていいとお墨付きをもらった。


「ありがとうございました。なんてお礼を言ったらいいのか…」


「当家は妖退治が専門なので気にしないでください。じゃあ、私たちはこれで」


「げぷ」


去り際に大鬼が隠す様子もなくげっぷをしたことで、李左の眉が吊りあがったが、深く頭を下げていた早苗には見えなかった。


「一体なんだったのかしら…疲れていたのかしら…」


「少し横になった方がいいよ、お母さん」


早苗が母に眠るように促していた頃、帰路についた李左は己の式鬼である大鬼を叱っていた。


「あなたはまったく…!!」


「仕方ねえだろ!生理現象だ!」


実際のところ、悪婆については李左の式鬼である大鬼が、頭からバリバリと喰らったわけだが、それを早苗に伝える必要はないだろう。


「無事退治完了、っと」


一緒に出掛けている本家の次期当主である優璃のスマートフォンへ、妹宛の連絡を入れ、李左は安堵のため息を吐いた。


妹は明言していなかったが、早苗は燈中の友人になるかもしれないのだ。人ならざる者が見える者同士なら、わかりあえるかもしれない。





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