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闇にうつろふ  作者: 五月蒼井
壱、
16/35

とおりゃんせ





入院用の荷物を鞄に入れていると、突然玄関のチャイムがなった。この忙しいときにと、若干の苛立ちを覚えながら、早苗は玄関に向かう。インターフォンの通話スイッチを押せば、見知らぬ声が聞こえてきた。


「こんにちは…少しお尋ねしたいんですけれど…」


あまり若くはない声だった。宅配便か、近所の人が父の事故を知り心配して訪ねてきたのかと思ったが、そうではなさそうだ。


「すみません、今立て込んでいまして…」


早々に通話を切ろうとした早苗の耳に、思いがけない言葉が飛んできた。


「今日は神社を通らなかったんだねえ?」


「え?」


「家に弟はいないのかい?美味しそうな赤子は…」


ざあっと血の気が引いていく。


父の事故のことですっかり失念していたのだ。学校からの帰り道なら通るルートが決まっているので、間違えることはないだろうが、病院から違う道を通って帰ってきたので、神社を通るのを忘れてしまった。


――妖怪を家まで連れてきてしまった!!


「中に入れておくれ…この邪魔な結界を取り去っておくれ…」


ガクガクと震える足をなんとか動かし、踵を返す。燈中から貰った結界が役目を果たしているうちに、電話をして助けを求めなければ。


≪RRRRRR…≫


燈中の家の電話番号はスマートフォンに予め登録しておいたが、そのスマートフォンは通学バッグの中、玄関に置きっぱなしだ。悪婆がすぐそこにいると思うとそこまで行くのは躊躇われた。


だが、もしものために自宅の電話機の傍にも番号を控えていたのだ。三コール目で繋がった瞬間、相手の返答が待ちきれず早苗は口を開いた。


「もしもし!あの!私、丑寅燈中さんの…!」


「藤岡さんかな?何かあったんですね?」


事前に燈中から伝わっていたのだろう。名乗る前から、電話に出た相手は早苗からの救援の電話だということに気付いてくれたようだ。


「い、家に妖怪が!!」


「落ち着いてください。燈中のお札は貼ってますよね?それがあれば大丈夫。すぐに向かうので家から決して出ないでください」


ガチャンと切られた電話に安堵して、早苗は壁に凭れてずるずると座り込んだ。結界は燈中の指示通り、外にある郵便ポストの内側に貼ったので、そう簡単に見つかることはないだろう。


祈るように手を組んで、燈中の家から助けを待つ。外では悪婆が騒いでいるが、結界があると思えば安心だ。しかし、そんな早苗の耳に信じられない言葉が聞こえてきた。


「ああ、あとちょっとで結界が破れそうだ…」


「!?」


「こんなちんけな結界じゃ私を阻めないよ…」


「っ!!」


悪婆のその言葉に、パニックになった早苗は、裏口から飛び出してしまった。






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