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闇にうつろふ  作者: 五月蒼井
壱、
15/35

苦難の道のり





同級生の中に、(みなもと)頼季(らいき)以外に化け物退治を生業としている家の子がいるとは知らなかった。


正直なところ、丑寅(うしとら)燈中の評判はあまりよくなかった。何がよくないのかという知識は早苗の中にはなかったが、彼女をよく思わない者たちの態度が周囲にも感染して、燈中は孤立したのだろう。


いじめの原因はそういった些細なことから始まるが、他人が他人を貶す理由なんて、ただ成績がいいとか人より可愛いとか、とっつきにくいとかそんな理由だろう。


学年に彼女と仲のいい子はいなかったはずだ。いつも一人でぼんやりしているのは、もしかしたら他の人には見えていないものを見ていたのかもしれない。


「これから仲良くなれるかも…」


布団の中で昼間の出来事を思い返しながら早苗が呟く。同じ人ならざるものが見える者同士、秘密を共有したみたいでうれしくなる。

悪婆のことはとても怖いし、生まれたばかりの弟のことは心配だが、燈中から貰った札があると思うだけで安心だ。




◆◆◆





「藤岡さん、荷物をまとめてすぐ職員室へ!」


国語の授業中、学年主任である教師が教室へ駆けこんできて、早苗のことを呼び出した。訳もわからぬまま、早苗が荷物をまとめている間、学年主任は授業をしていた教師と何か小声で話している。


「お父様が事故に遭ったそうです…!」


廊下を小走りになりながら進めば、顔だけで振り返った学年主任から思いがけない言葉がかけられる。頭が真っ白になりながらも、早苗は職員室へ向かうべく足を動かし続けた。






◆◆◆





早苗の父は仕事の移動中に、横断歩道へ突っ込んできた自動車と接触したらしい。前に停めてあった自転車がクッションとなり命に別状はなかったが、しばらく入院することになってしまった。大事には至らなかったが、病室にいる父の顔は擦り傷で痛々しく思えた。


「早苗、お父さんの着替えを家から取ってきてくれる?」


入院の手続きがあるからと弟を抱いたまま、母が病室を出ていく。眠る父の顔を少し見た後、早苗は学校のカバンを持って外へ出た。


この時の早苗は、父が事故に遭ったショックですっかり失念していたのだ。――まっすぐ家へ帰ってはいけないことに。









◆◆






「へえ、頼光(らいこう)の末裔がね…」


「十五分一万円だって!ただ相談するだけだよ!?」


燈中が二日間、学校を休んだ理由は本家の所謂就任式のようなもので、艮の当主となった挨拶に、山奥にある一族の祀られている祠へ参拝に行くのだ。それには本家の当主と次期当主である優璃が同行しており、今は本家の所有する自動車の中だった。


「うちも似たようなことしてるからね…」


「それはそうだけどさ~!」


燈中の膝の上では、炎獅子が小さな姿で丸くなっている。燈中の式鬼の内のもうひとりである蛇又の方は、優璃に会うのが嫌だと言って、家で留守番をしていた。


「仲がいいの?」


「源と?ぜ~んぜん!!ただ隣の席なだけ」


剣呑に光る優璃の瞳は、嫉妬が滲んでいるように見えた。そんなことに気付くはずもない燈中は、深く考えることもなく事実を口にする。実際、席が隣同士ではあるが、会話はほとんどない。昨日の早苗の件で数週間ぶりに会話した気がした。


「頼光の末裔というのは土蜘蛛退治の(みなもとの)頼光(よりみつ)の末裔か?」


優璃を挟んだ反対側に座っていた男が身を乗り出しながら問いかける。


精悍な顔立ちに立派な体躯。短く切り揃えられた髪がさらに凛々しさを際立たせている。燈中はこっそりと彼を体育教師のようだと思っていた。


「そうだよ。龍王様会ったことあるの?」


彼は龍王――優璃の体に憑りついているコウリュウだ。


以前、当主会の際には、優璃と龍王が喧嘩をしていたとかで会えなかったので、燈中が彼と会うのはとても久しぶりだった。

長い時を生きている龍なので、もしかしたら生きていた時代で出会ったことがあるのかもしれないと問いかけるが、彼は首を左右に振った。


「いや、会ったことはないな。噂に聞いてはいたが」


「源の一族とはあまり縁がないからね…」


(うち)は特に見下されているしなぁ」


源一族との関係はあまり良好とはいえない。本家同士では一応不可侵条約のようなものを結んでおり、互いの縄張りには手を出さないことになっている。とはいえ細かい決まりはないので、あとは当主同士の采配によって変わるだろう。


「まさか末裔に嫌がらせされてるの?」


「いや、されてないされてない」


「そう…嫌なことされたらすぐ僕に言ってね…」


どんな報復を受けるか、わかったものではない。己が力を貸している少年の横顔を見て、龍王の背に薄ら寒いものが走った。


「コウリュウ様、優璃様、燈中様、直につきますよ」


助手席に座っていた月光のその言葉に、燈中の膝の上で惰眠を貪っていた炎獅子は目を覚まし、ゆっくりと伸びをした。





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