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闇にうつろふ  作者: 五月蒼井
壱、
11/35

二番目の式鬼






「あら!猫ちゃん!」



小型化した炎獅子をみた燈中の母が、歓喜の声をあげる。サイズは家猫くらいで見た目もそれっぽいので、小動物が好きな母からすれば、彼は可愛い以外の何物でもないのだろう。



「だっこしてもいいかしら?」


「いいよ」



炎獅子は何も言うつもりはないらしく、おとなしく母の腕に抱かれている。ふわふわした毛並は触り心地がいいらしく、嬉しそうに頬ずりをしている。



「お名前は何かしら?これからうちで暮らすの?」


「名前は水無月(みなづき)だよ。さっき式鬼にした」



縁鬼が何か言いたげにしていたが、大喜びの燈中の母の姿に口を噤む。


燈中が使役しているとはいえ、彼らはもともと【邪】なのだ。人間に害をなす存在には違いないので、彼女を心配しているのだろう。燈中の母は艮家に嫁いだだけの一般人なので、邪から感じる恐ろしい気配は読み取れないのだ。



「燈中、その猫は…」



言いたいことを飲み込んだ縁鬼は、それが何者か判断すべく値踏みしているようだった。



「えっと…神社の“狛犬”の獅子の方だって。炎獅子。トビに頼まれて調伏しに行ったんだけど、シンカイが式鬼にしろって」



かなり端折られた説明だったが、縁鬼の欲しかった回答はその中に入っていたようだ。



「炎獅子…。なるほど、神力に近いものを感じるのはそのせいか」



神社の狛犬ならば【神使(しんし)】のはずだ。何があって邪まで堕ちたのかはしらないが、この炎獅子の纏う気配のおおもとは神聖なものに違いない。



「その神社に神は?」


「もう神様はいなかったよ」


「そうか」



神使が社から離れるということは、そういうことなのだ。その一言で理解した縁鬼はそれ以上何も聞くつもりはないらしい。


いつもなら燈中がどのような戦いだったか、どうやって調伏したのかを語って聞かせるのだが、今回の件に関しては思うところがあったのか、自ら進んで武勇伝を語るつもりはないようだった。



「なんで“炎”獅子なのに水なんて文字いれてんだよ」


「水無月は旧暦の六月ということでしょう?水のない月で水無月。夏で日照りが続く時期だし、炎を司る獅子なら、間違ってはいないのではないの?」



蛇又の時と違って、興味津々に炎獅子を見ているのは兄の式鬼の妖狐と、姉の式鬼の大鬼。相手は間違いなくふたりよりも力は強いだろうが、今現在はただの猫だ。



「だが現代じゃ六月なんざ梅雨で雨ばっかりの時期だろうが。このガキが連想したのはそのまんま、梅雨じゃねぇのか?」


「…右介ならばいざ知らず、この無知な女童(めのわらわ)はその方が妥当かもしれないわね…」


「なら、なんでそんな名前を…」



話が聞こえているのかいないのか、当の燈中は蛇又にちょっかいをかけて、人差し指に噛みつかれ反撃を喰らっている最中である。



「………あながち、間違っていないだろうな」


「あ?」



含みを感じる言葉を呟いた縁鬼は、燈中の手当てをするべく救急箱を取りにその場を離れた。






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