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ワールド・アナイアレンション  作者: cier
第1章『七つの大罪』
4/4

『任務』

ズッシリと刀と剣がぶつかる重みが体中に伝わる。

「セイっ!!」

足を踏み込み、相手の剣を押し返す。

その相手は弾き返された威力を利用して、身軽にバク転すると音もなく着地する。

相手は刀を肩にポンポンと乗せて不敵に笑う。

「うん、まぁ悪くはないな新人」

汗1つかくことなく相手、アモル隊長は俺に刀を向ける。

「強いていうならまだ腰が入ってないな、そんなんじゃいざという時足元すくわれるぞ」

対して俺は汗かきまくりであり、息も上がっている。

あの人、速すぎる……。

少し速いなんて次元ではない、速すぎて刀の軌道が見えやしない。

おまけに身のこなしも良すぎる。

剣術で駄目なら体術でと踏み込んでみたのだが、考えてみれば刀の軌道が見えないほど速く動く相手に拳を入れるなんて、燕を掴めというようなものである。

聞いてはいた。

天界に行く前である、ここの入隊が決定した時、担任に言われていたのだ。

「暗部の隊長なんだが、噂では天界で一番の剣使いだと言われる、そいつが最も得意としてるのは速さらしいぞ。よかったら指導でもしてもらったらどうだ」

しかも速さだけなわけあるか、威力だって全然強いじゃないか。

俺は額に流れる汗を拭い、息を整える。

左足を前に出して、片手で剣を体の身中線に合わせて構える。

剣は太陽の光を受け、キラリと輝く。

「ここいらで終わるか、初めてにしては楽しかったよ」

隊長も俺が構えるのに合わせ、刀を持つ右腕を体の前に出した。

けれどその構えは最初の構えとは違う。

刀も逆手に持ち、足の置き方だって。

「新人を称えて、少しだけ」

隊長が足を踏み込んだ。

来るっ、俺は剣を防御の構えにしようとした刹那。

重たい衝撃が横腹を叩く。

「がっ……!?」

肺の空気が一気に押し出され、何をされたかもわからずに、体は衝撃を受けて横に吹っ飛ぶ。

10m程吹っ飛び、体が地面に強く叩きつけられる。

隊長は、刀を腰に下げている鞘に収め微笑む。

それは終わりをさしていた。

「くっ……まだ、まだやれます!」

俺は痛む体を言い聞かせ、夏の太陽の日差しにより熱くなった地面に手をつき、剣を支えに立つ。

「無理は禁物だぞバーナー、それに今のは力試しだし、次は零だ」

「そうよバーナー」

零は愛用の銃を腰のホルスターから抜き取り、銃のチェックをし始めた。

「ほらバーナー、ついでに騎士の礼儀を教えてやる。天界はそういうしきたりを大事にするんだ、いざって時にできないと恥ずかしぞ」

「……わかりました」

俺は剣を鞘に収め、隊長の目の前まで駆け足で向かう。

俺は隊長の話に頷きながら思う。

何で力試しなんてやってんの…俺達。







2時間前ー

「よし、バーナーは改めて。私がここの隊長のアモル=テラスだ。歓迎しよう、人間」

隊長だ、と名乗る少女は紅茶をすすりながら足を組んでいる。

正直、かなり、いやそれほどではないが少々身長が、低いといいますか。

俺はこれでも176cm、零でも164cmはあるであろう。

だが目の前の少女は自称18歳、見た限り身長155cm程か、天界の平均身長的に少々低いと、街を歩いた時の周りの人たちのことを思い出す。

「それでだな、早速なんだが、私の所にはルールがあってだな。ティアという奴にはもう会ったか?」

俺は頷く、そうか、と隊長は1口紅茶を飲む。

「我が隊に人間が入隊した場合、良いと認めるまで隊長が教育係としてつく、ということになっている。」

隊長は向かいに座っていた椅子から立ち上がると、右手にある本棚から一冊。赤い表紙で天界の言葉だろうか、金色の文字でタイトルが刻まれている本をパラパラとめくり、俺達に見せた。

「じゃあ早速初歩の初歩、天界の成り立ちからだな」

ペラペラと軽くページをめくりながら話だす。

「いいか、まずこの全ての世である世界は2人の神によって、今世界に存在して生を持つものは全てはその2人から創造された。そしてその2人は原初神と呼ばれ、生の神と死の神と名乗った。命は生まれ、そしていつかは死ぬ。というサイクルを作り上げ、魂、どんな生命、植物、人間、悪魔天使神だろうが誰だろうが何だろうが、そいつはそいつだけの力、魂の元、魔力を与えた。それは必ず被ることない、1人1つの力を与えた。だけど、天使と神には全ての生き物を監視する役割を、この世の秩序を守るようにと与えられたた力のために戦争は勃発、戦いに生きてきた国だと言えるな。だから天使といっても千もの部族に別れ、さらに戦闘を極めた部族も少なくない。そしてそんな2人は天界に暮らしてたため、魔法は天界が発祥地と言われる」

本のページをめくり、ある絵をトントンと指で示した。

その絵は古代の絵みたいな人の絵で、背景は赤く、涙をながしていた。

「今でこそ戦の数は減ってるけど実はまだ人間とは小さい戦争状態だ、天界ではたまに人間との戦が起こる」

その時、後ろの扉からコンコンとノックが響き扉は開かれると、ティアさんが見覚えのある箱を持って、隊長の隣まで歩いていく。

「よう隊長、下界から荷物来たぞ、ちょうどその2人にだ」

荷物は机の上に雑に置かれ、それから数枚の書類を荷物の上に置いてティアさんはすぐに出ていってしまった。

「おー、ようやく届いたかー。下界の魔法は少し遅れてるな~」

ティーカップを机におき、荷物を包んでいる紙を雑に破き床に投げ捨てる。

あらわになったのはやはり、見覚えのある物であった。

大きめの銀色の箱に入っている物は、俺達にとって必要不可欠である物であることを知っている。

隊長は箱の重そうな蓋をカチャリと金具を外して開ける。

そこには、白く輝く鞘に入った剣1振り、黒光りする銃が2丁。

その得物たちは、待っていた、と言わんばかりに輝いてみえた、きっと零にもそう見えているに違いない。

俺は白銀の剣を手に取り、零は黒い銃を。

俺は今、この剣を手に取ったことで、バーナー=ジュリアスは人間としてではなく、1人の剣士としてこの地に立つことになるのだ。

夜月 零は1人の銃手として、この地で戦うことを選んだ。

俺達は、この天界で生きると決めた。

零は早速、銃を、いつもはあるはずの腰のホルスターにしまおうとして、今はないことに気づき照れる。

俺も剣帯がないことに気づき、しょうがなく椅子に立てかける。

「よし、ようやくここに立てるようになったな新人」

隊長は立ち上がると陽光が射す窓の前にある大きな机の下にかがんだ、と思うと直ぐに立ち上がり、足どり軽く、笑いながら前にくる。

「そんな新人に、隊長から心ばかりのプレゼントだ」

そう、差し出されたのは2着の服だった。

形状は異なるものの、色の配色や、何より胸部分で輝いている青い六芒星のバッチを見れば一目瞭然。

「もっもしかして、隊長……!」

「そのまさかだバーナー。我が隊の制服だ、しかも全員オリジナルだぞ」

「かっ……かっこいぃぃい!!!」

「当たり前だっ!ここは天下の暗部、私が仕切る部隊だぞ!」

隊長はえへんっ、と片手を腰にあて満足だという顔でもっと褒めろと言わんばかりに頷く。

なるほど、身長だけではなく性格も少々子どもっぽい……のか。

零はそれが面白いのか、凄いです〜、かっこいい〜、と褒めまくっている。

「こほんっ、まぁだな新人、武器も来た、制服もきた、ということはだな」

腰に手をあて、軽く咳払いをして緩んだ空気を引き締める。

「早速実戦といこうじゃないか」

「実戦って……対人戦ですか?……それって危ないんじゃ、だって刃物ですよ」

隊長は呆れたと溜息をついて机の椅子に腰かける。

「これだから人間は甘いんだよ」

「甘いって……だってそれって殺すっ…てことじゃないですか」

「…………まぁ、確かに。でも安心しろ、この部隊は基本的にそういう任務は受け付けてないし、私がさせない、許さない」

クルクルと椅子に座ったまま回転しぶっきらぼうに話す。

「話は変わるが20年前の冬、原因不明のある奴らの大量発生により、世界の均一が乱れつつある。世界はけして交わることがない壁と壁によって、天界、下界、魔界の3つに分かれ、それぞれの世界の壁、通称『インヴィジブルウォール』によって平和は保たれてきた。だが5年前だ。最近奴らの活動が活発になり、壁の破壊が目的なのかわからんが、理由不明に何故か不可視の壁が破壊されてしまった」

「隊長、質問よろしいでしょうか」

「あぁ、構わない。なんたってこれから重要になる情報だからな」

「では。何故不可視なのにも関わらず、相手がそれを視認できることは置いておき、天界はそれが破壊された、と確認することができたのですか?それと、インヴィジブルウォールなる物は具体的にどんな役割を?」

「頭が回るな零、それに対してバーナー、ついて来てるか?」

「むっむぅ……努力はしています……」

頭が話題についていけない、今のところ理解しているのはインヴィジブルウォール、という単語だけである。

難しい話題なのか、それとも単に俺が馬鹿か、もちろん後者である。

インヴィジブルウォール破壊、世界、5年前。

さっぱりわからない。

頭を使わないのかも知れないが、俺にとっては使う、そう判断した俺は考え事は零の方が得意なので、零に任せることにした。

「じゃあ質問に答えよう。まず何故天界が不可視の壁を視認できるかについてだが。この天界には、空間に関することについて天才がいる。まず不可視の壁というのは簡単に言えば各世界の一番端っこの場所だ。例えば3つの世界はそれぞれ箱の上に乗っていて、その箱はくっついているとする、箱同士が重なっている面のことを壁、という。その壁は不可視だが一般人には視認することができない場所、『亜空間』と呼ばれる場所には存在する。こちら側は『空間』だとすると、世界の裏が『亜空間』だ。さっきの箱で例えるならば、空間が箱の上、亜空間が箱の中だな。その亜空間には存在している、がやはり見えない。けどこちら側には存在すらしていない、だけどもし、その壁が感じることが、できるとしたら?」

「壁を感じる……ですか…。信じられない話ですね」

「あぁ、だがこの世に1人だけ、それをやってのけ、亜空間、という場所を実際に証明した奴がいる。そいつの話によれば、空間が歪むことがあるそうだ。平行世界とか異世界とかそんな感じにだいたい空間が歪む時はそこに繋がっているのだそうなんだが、ごくたまに全く未知の空間から歪む時があって、その時ある生き物がこちら側の空間に飛び出しているらしい。それが20年前の冬、原因不明に発生した奴らだ。だが何故奴らがこちら側に来たかというのはわからない。だからその天才は空間が歪み、奴らが出てきて、あちら側へとまだ繋がっている時間にかけ、あちら側へと意識を移動することにした。下手したら生きる屍行きだ。まぁ結果は成功、流石天才って感じだな、その天才が壁の存在を感じ、そして破壊されているのを確認した。」

「次の質問についてだ。率直に言うと移動制限だ。」

「移動制限?でも私たちは普通に下界から来れたのですが」

「そりゃ、お前らは天界から正式に認められたからさ。天界へ来るとき、下界にある天界転送装置的な?天界が正式に下界に許可を貰い設置された施設から来ただろう。」

「はい、確かに。魔法によって空を飛ぶとか、天使が迎えにくるとか、そんなのだと思っていたのですが、変な魔法道具に触れて気づいたら、いた、という感じでした」

そう、魔法道具。

この世界において必要不可欠なエネルギー、魔力。

それを生活や戦い等に最初に活用させ、大きく発展させたのが天界である。

その魔力とは、この世界の大気や自分自身の中、動植物、全てが持つエネルギー、または魂ともいうそれは様々な種類があり、例えば炎を起こす魔力、大気の水分を集める魔力、雷発生させる魔力、植物の成長を急速にさせる魔力等など。

そんな不思議であり可能性が無限大である魔力を道具として、魔法道具略して魔具として発展させた天界は全世界から敬れる地であり、だからこそと期待していたのだが、何かを感じた時には森の中だったのだ。

「天界はそんなにお優しくねぇよ、で、何故移動制限を付けたか、前の世は長方形の箱の上に乗っていて、世界は繋がっていたんだ、目に見える形で。だが、ある時人間が戦いを天界と起こした、それがきっかけでこの世界史に残る最も大きく古い戦が始まった。それにより世界は混乱と闇に落ちたが原初神により闇から救うべく、それぞれの種族が交わらず平和に暮らせるようにと壁を作ったんだ。壁が作られたことによって下界からはどんなに上に登っても天界には着かず、宇宙という空間にでて、どんなに土を掘っても魔界には行けずに溶岩にたどり着く。前の世界はその逆だったんだ。その二つの世界には行けない、という思考が年を重ねると人間たちは、天界や魔界等という世界は存在しない、という思考に移り変わり、二つの世界の認知度はきっと10%ぐらいだろう。これが壁の役割だ。」

零はふむふむ、と顎に手をあてて内容を整理している。

「でも、隊長さっき人間がたまに天界で戦争するって言ったじゃないですか。人間ってどうやって来てるんです?」

「それがな、アイツら天界の技術を盗んで移動魔法を使ってるのさ」

「い、移動?魔法?」

「だから、転送装置。天界が下界に置いたそれを人間は、置かせてやっている。という理由で技術を盗んでるんだ」

なんと、でも人間側の言い分も頷けるような気もする。

「なるほど、まぁまぁわかりました、ありがとうございます」

「うむ、理解してくれて何より、それじゃあお手並み拝見と行きますか」



と、いう長い長い話を終えたらこうなったというわけである。

「というか隊長、結局俺達の敵って何なんですか?」

「バーナー、話の流れからわかっただろうが!だから亜空間から来てる目的不明の奴だって」

「隊長、バーナーに話の流れは掴めませんよ、馬鹿ですから」

ははは、と笑うしかない俺を気にすることなく2人は向かいあった。

「よし、それじゃあ始めよう、零は銃か……それは実弾か?」

「いえ、対人戦用の弾でして、当たるとそこにいる色がつく仕組みなので怪我をすることはないです」

「なるほど、じゃあ始めようか。バーナーのものを見ていたよな 零」

「はい」

零は一度腰のホルスターに銃をしまうと、左手を胸に当て、腰を曲げる。

「よろしくお願い致します」

隊長は、刀を勢いよく抜き取る。

そして刀を身中線に構える。

零も腰を戻し、ホルスターから一丁抜き取る。

2人は動かずに、ただ動くのを待っている。

緊張感はピリピリと空気を伝わり、頬をかすめる。

思わず喉が鳴る、先程は行う側だったので気づかなかったが、見ているこっちが手に汗を握るようだ。

零は、緊張感に耐えきれなかったかのように足を踏み出した。

そのまま隊長に向かい銃を構え、引き金を引いた、はずだが弾は当たらない、なぜなら既に隊長はそこにはいないからだ、弾は空を切って飛んでいく。

俺は隊長を探す。

捉えた、隊長は零の目の前、もう1mまで迫っていた。

体は浮いている、ということはあそこから、零の前まで、飛んでいったということか。

その為には足の筋肉が……、と考えた所で思い出す、隊長は天使であるのでそれくらい容易なのだろう。

隊長は止まることなく、そのまま零の首を斬る勢いで、刀を振るう。

零は寸でのところで、隊長に気づき、体を後ろに仰け反らせることで回避。

隊長の刀は行き場なく空振り、 刀は流れる、隊長は零が仰け反ると分かっていたように、そのまま零の上を勢いだけで、ひらり、と回り反対側に着地する。

零は、仰け反った体で片手を地面につき、足を空へと持ち上げる。

そして地面を押し上げ、勢いよく手を離す、足を捻る、ぐるんと回る体は足から順に地面につく。

だが、それだけでは終わらず着地したばかりの隊長を追撃する。

隊長は刀をすぅっ、と動かすと、軌道が見えないほどの速さで弾丸を、切った。

弾の中に入っていた絵の具は、隊長を避け両側に流れ地面に落ちる。

「どうだ、我が隊ご自慢の剣士様との実戦」

「ティアさん」

「ティアでいいよバーナー、同じ人間だし敬語も禁止。」

「…………ティア、正直想像以上だ」

「ははっバーナー、ここはもっと想像以上だぞ」

ティアは俺の隣に来て、タオルを持ち汗を拭っている。

片手には水筒を持ち、木刀を腰にしているので鍛錬でもしていたのだろうか。

「隊長は無茶苦茶だ、けどここ楽しいぜ。ほら」

肩をすくめてみせたティアは「まぁ最初だからな」と呟いてタオルを首にかける。

俺はティアの話に気を取られてすっかり忘れていた戦いに目をむける。

だが既に済んでいたようで、零は地面に両手をつき首に刀を向けられていた、汗が額に滲み息も荒い。

「手加減ないんだなアモルっ!」

ティアが隣で叫ぶとアモル隊長は返事を返すことなく零に手を貸した。

「あいつ俺のこと大っ嫌いなんだ」

確かに、朝も荷物を届けにきた時目も合わせなかった。

「何かしたのティア?」

「ちょっと、こーう、ね?」

笑顔でぐっと親指を立てるティアを見て察す。聞いたら生きて帰れない、そんな感じがする、うん、やめよう。

するとティアの後ろを煌めく影が通り過ぎ、後ろにある木の幹に刺さったそれはナイフであった、深々と幹を抉っているのを見て思わず顔がひきつる。

ゆっくりとアモル隊長の方を見る、するとまるでホラー映画か、刀をぶらりと片手で持ち地面をズルズルと引きづって、紅い目をギラギラ燃やしながら今にも襲いかかってきそうな殺気と圧で……俺もうやだ、心折れそうだよ兄さん。

「アモル……新入りが怖がってるじゃないか、それに、ここでやりあうのは危ないだろう?」

「今ここで、決着つけようじゃないか…」

アモル隊長はお構い無しに近づいてくる、零は後ろで「無事を祈る」とキラキラエフェクト振りまいて敬礼をした。

その時巻きこまれた俺を助けてくれたのは敷地内を、これでもかと響き渡らせる警報音であった。

「お、バーナー来て早々任務だぜ!」

『全隊員に告ぐ。ブラッカー発生、ブラッカー発生。各自準備ができ次第、地下ゲートへ集合。これは最優先任務である。』

放送は止まり、警報音も止まった。

隊長は舌打ちをして刀を鞘に収めると深呼吸をしてティアを指さす。

「二班はさっさと偵察いってこい!今日は運が良かったなティア!!」

ふん、と鼻を鳴らして歩いてく隊長が消えた後、懲りないティアは口を開く。

「これが俗に言うツンデレってやつか?」

「もうこれ以上口開かないで………」






これでも入隊1日目なもので恥ずかしながらティアさんに集合場所の地下ゲートに連れていってもらい、更衣室でピカピカの制服を手にドキドキしている。

他の隊員は俺達より早く来ていたようで誰も部屋にはいない貸切状態である。

先ほど頂いた制服をまさか、これ程早いタイミングで着て任務に向かうことになろうとは思わんかっただろう。

何はともあれ早く着れることは良いことであろう。

さっそく着ていた服をぽんぽん脱ぎ、黒いピッタリとしたインナーを上に着る。

新品のズボンに足を、上着には腕を通す。

「なんだこれ…………」

制服が入っていた袋の中に長い布、同じ生地のものが入っていた。

「それはこう使うんだよ」

ティアが隣でロッカーの扉を乱雑に閉めて鍵をかける。

腰のヒラヒラした、足首近くまでの長い腰布を手に持ち上げるように見せてくれる。

「それは腰布だよ、この部隊の奴らは結構選ぶんだよ、なんてったってカッコイイからな〜このヒラヒラが風ではためくとな、ヒーローみたいで」

腰に手をおき、にかっと歯を見せる笑顔はまるで俺と同じ背丈になったような、爽やかな10代の少年のような眩しい純粋な笑顔であった。

「ほら、早くしないとアモル怒るぞ〜」

愉快に笑いながら、怒られるという気を微塵も感じさせない雰囲気で剣帯に愛剣をさす。

だが、俺にはすこしある事に興味があるというか。

先程は誤魔化されてしまった話を2人だけの今ならきけそうである。

「ティア、アモル隊長と昔何かあったの?」

俺は何気なく、腰布を慣れない手つきでつけながら聞いてみると案外普通に返事がきた。

「あぁ〜……。あいつとはな、初めてあった時に喧嘩したんだ。そりゃまぁ殺し合いぐらいにはすさまじかったなぁ。俺がここに来る前は下界の特別な軍にいてな、いろんな奴らが集まって、孤児やら人殺しやら傭兵やらが身を寄せ合って。本当の家族みたいで、みんな命懸けて守って戦って。だから仲間思いってやつが抜けないもんで、アモルはそういうの嫌いなんだよ、だからあいつ今でも根に持ってるんだよ」

ティアは上着を着てボタンを慣れた手つきでとめていき、最後に軍帽をくるりと頭に乗せる。

更衣室の扉に手を掛けて、忘れてたと振り向く。

「俺があいつに勝ったこと」

「……………えぇ!?」

「なんだ俺が勝っちゃ駄目か?」

「い、いやいやそういうわけじゃなくて!隊長に勝ったの!」

「残念ながらな、人間でもチートには勝てるんだぜ〜。ほら早くいくぞ!初任務は遅刻か?」

「まっ、今行くよ!!」

ティアが出たあとに続いて部屋をでる、上着のボタンを急いでしめながら走っていると何やら室内なのに風が吹いているようだ。

「これで以上だ。これから二班を先頭に降りろ、5分間隔でひと班ずつな」

「やべやべ遅刻〜〜すんませ~ん」

アモル隊長が話してる前を通るティア、先にきていた零がびっくりして後ろの方で口を開けている。隊長は顔をひきつらせながら笑顔を保って、腰の刀に手を置いてぬきそうな勢いである。

「あ、いやいやすまんな新人をいろいろとな〜!はっはっは」

「うふふふっ早くいけよティアくん?君二班だよね~」

「あっはっはっ!忘れてた〜!いくぞお前ら〜!」

「全く…………バーナー!零!こっち来い!」

「はっはい!」

零が後ろから他の隊員をかき分けてこちらにくる。

零も新品の制服を着ており、俺とは腰布以外全て違う形状だ。

「バーナーのためにももう一度説明する。私たちの敵はさっき話した亜空間からくる者、ブラッカーという奴らだ。ここ最近活動が活発でそいつらはいろいろな場所に時間関係なく発生する、奴らは攻撃性が高く他の者を傷つける。そのために世界を監視し守護する役割を担う天界がこいつらを世界規模で倒して回るということだ。今回は下界に発生した。場所は西の大帝国、フロース帝国の市街地。被害者が出る前に叩き潰す。奴らには理性がないから見られたら襲いかかってくるぞ、形は様々だ、共通している事は黒い泥のような形状で紅い目玉が付いている。見つけたらぶっつぶせ、いいな!」

「「はい!!」」

俺達は2人合わせて敬礼をする。

でも俺達は天使ではないので翼はない、ということは飛べない、そう、飛べないのである。

飛べないことには下界に降りることができない。

どうやって降りるのかをティアに聞こうと周りを探すもの、二班と言っていたのでもう出発してしまったのだろうか、ホールには道にむかって真っ直ぐ一列に並んで歩いている。

「一仕事して帰ったら新人歓迎パーティーだぞ!!」

「マジすか隊長!」「気合い入るな!」「さっさと終わらせるか」「ということはまた食材係とか別れるじゃん」「別に楽しいからよくね?」

隊員たちは隊長の一言を聞くと走ってみんなでドアの向こうへ消えていってしまい、ホールは静けさに包まれる。

「あの、隊長。俺達どうやって下界に降りるんでしょうか、翼ないし飛べないんですけど」

「ん?あぁ、こいこい」

隊長は俺達をドアの前に連れていき、魔導式インカムを手渡してきた。

「耳つけて、もう電源入れちゃって?……よし、武器は持ったな?忘れものはないな?」

「た、隊長?」

隊長は俺にニコリと、今まで出会ってから1番輝いた笑顔でドアを開いた。

突風が入り込み思わず顔を手で隠す。

風が収まってからドアの外をみると、ゴツゴツとした岩肌がむき出しの大きな穴が広がり、下には空か、雲がゆったりと流れていくのが見える。

なるほど、下界に行く時はここから降りて。

「…………降りて?」

冷や汗が止まらない、嫌な予感しかしない。

もう一度言うが俺は人間だ、翼があるわけじゃないので空は飛べない。

もちろん魔法も使えないことはないが空を飛ぶとなると技術が必要だ。

俺はこれという突出したものがあるわけでもない剣を振れるだけの、凡人であるのだ。

だからもしここから落とされたとしても飛べるわけでも魔法も能力もないので、ひたすら落ちたのち、地面又は海に叩きつけられてゲームオーバー、デットエンドである。

だから俺はここから落とされるなどということはあるはずがない…………よね。

「さあて、武器は落とすなよバーナー。私が拾うはめになるからな」

隊長は笑顔で準備運動を始める。

「まっ、ままま待って!!待ってください!俺飛べないですよ!?ここ何メートルだと思いですか!?」

「大丈夫だって、信じろ」

「いや、いやいやいや!待って、考えて、おちつきましょう!?」

「零は大丈夫か?」

「は、はぁ……ようは飛び降りればいいんですよね」

「零さんッ!?」

「よし、それじゃあ行ってみよ~!」

「よろしくお願いします隊長」

零はゴクリと喉をならし、躊躇ったものの目をつぶって飛び降り、一瞬で消えた。

「さて、諦めろバーナー男だろ?女の零は飛び降りたぞ」

「で、でもぅ…………」

「…………ぐたぐたと…………さっさと行けよ!!!」

背中に衝撃をうける、ドアの外に放り投げられる、世界は一面青空へと変わった。

「う、嘘だろぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!??」

宙に放り出された俺は下に落ちるしかなく、視界はグルグルと回って何処でどれくらいの速さで落ちているのかもわからない。

インカムをしていない片耳は風の影響で音一つ聞こえやしない。

そろそろ回りすぎで吐き気が込み上げてきたのだが、恐怖と驚きがごちゃ混ぜ状態でそれどころではない。

「がっ!?」

そんな時、襟がいきなり上に引っ張られ、首が思いっきり絞まり空気が外に押し出された。

何事かとジタバタ足を揺らして襟を伸ばして喉に空気を吸い込む。

『ただ飛び降りるだけならもっと楽に済んだろうに』

インカムから呆れたという声が耳に直接流れ込んでいく、その声の主は先程俺を突き落とした隊長が俺の首根っこ捕まえて止めてくれたのだ。

まあ、こちらは落とされた側なのだが。

『じゃああとは大丈夫だな、陸見えたら捕まるから』

「え?」

そういって襟から手を離した、おかげで俺は激しい空の旅が強制的に再開されたのだった。







夏の日差しに当てられながら1日ぶりに空から下界の地を無事に踏んだ、というかぶつかったといか投げとばらされた。

地上からもう1000mであろうところから再び首根っこ掴まれて100mぐらいでぶっ飛ばされた。

で、西の大帝国付近の草原に寝転がり、夏の青空をぼんやりと眺める。

「バーナー寝てる場合じゃないぞ、完璧に出遅れた」

隊長が遅れて下界の地に降り立ち、すぐさま歩きだす。

が、隊長の服装は右肩から下はない、ピッタリしたインナーはヘソの上で切れて腹がでていて、太ももまでのスパッツに上から腰布巻いただけの何とも体のラインがでる格好だ。

俺は足を振り上げて体を起き上がらせる。

「隊長どんな格好してるんですか……」

「どんな格好って……これが夏の格好なんだよ、だって暑いし、動きやすいだろ?なんか変?」

「いや変ではないのですが、こう、目のやり場に……」

「目を見て離せばいいだろ?」

「そういうことではなくてですね」

「変な奴だな…………」

刹那、地響きが体を揺らす。

シャランと何かが響いて、風で揺れていたハズの草木、空の雲、小鳥のさえずりさえ止まった。

まるで写真の中に閉じ込められたようだ。

「バーナー、これは人間には毒だ。本格的に攻めてきた証拠だ、ほら急ぐぞ」

「は、はいっ!!」

西の大帝国は下界一の魔法大国であることは知っている。

人間の中には魔法使いという種族がいる、この種族は天使と同じように人間にはすることが難しい、自然から魔力を体に取り入れることが出来る種族だ。

そんな種族が多く住んでいると言われているのがこのフロース帝国だ。

だから敵が現れても倒せるはずなんだけど。

帝国の門をくぐり抜け、石畳の坂道を駆け上がる。

奥の方から激しい戦闘音が聞こえ緊張感が体をピリピリと刺激した。

「バーナー剣を構えろ、くるぞ」

隊長が足を止め、腰の刀を音高く抜く。

俺も隊長に合わせて鞘から剣を取り出す。

ごくりと喉をならす。

すると、何かが地面を通り抜けた。

剣を身中線に構え、目を見張る。

「後ろだ!」

「っは!!」

俺は隊長に声を上げられた方向に愛剣を振りかざすと、黒い生物が小さな手を俺に伸ばしながら赤い目玉が俺をとらえているのが見えた、その生物は剣と共に流れるように俺の視界から消えた。

俺と隊長を囲むように、そいつの出現を引き金に周りから黒い沼のようなものが地面から湧き、そこから黒い生物が水のように溢れ出る。

「目玉をやるまで気をぬくな」

「目玉?」

「来る前に説明したろ!目玉をやらないとくたばらないんだよ」

隊長はクルクルと刀を回して刃を上にして、まるで突くように手を添えて構える。

隊長って、いろんな構えを使うんだなぁ…。

「私なんて見てないで周りをみろ!戦闘中だ!」

「す、すいません!」

隊長は敵にむかって走り出す、その向こうにはなんと隊長の2倍はあろうでかいブラッカーだ。

そんなブラッカーの上に隊長は軽々と飛び上がる。

「はぁっ!!」

隊長の回し蹴りをブラッカーに1発食らわせると、衝撃波と共に吹っ飛び建物に衝突した。

地面に着地すると、周りの小さなブラッカーを切り上げ、手馴れた手つきで刀を回して右手から左手に持ち替えて振り回す。

そんな隊長の背後にブラッカーが1体湧き出ているのを見た、隊長は気づいていない、またはわざと無視しているのか、俺は走っていってそいつの目玉に剣を突き刺した。

ブラッカーは虫の鳴き声のような細い声を上げて、溶けるように消えていった。

「やった……初めて倒した!」

「よし、バーナー偉いぞ。だがまだ終わりじゃない、元を潰さなくちゃな」

なるほど、後者であったか。

とはいえ、隊長に比べればお粗末であるが初陣で敵を倒したことに少し嬉しくて足取り軽く、隊長の後ろについて走る。

するとチラホラと他の隊員がみられ、屋根で戦う者、空中で戦う者と、みんな作業のようにブラッカーを倒していく。

その中の1人に屋根で銃を駆使して戦う、零の姿が見えた。

零はちょうど、弾切れのようで弾倉を投げ捨て腰のベルトから新しい物をリロードしている時に俺と目が合う。

零は屋根を滑るように降りて、隊長に軽く敬礼をした。

「隊長、お疲れ様です」

「無事に着陸出来たようで何よりだ。グラディウス副隊長はどこにいる」

「副隊長はここから西の大きな黒い穴の近くにいらっしゃるかと」

「そうか、2人は他の隊員を探して一緒に行動しろ。お前らはまだ弱いからあいつらに守ってもらえ」

隊長はそれだけ言い残すと、屋根に宙返りして飛び乗り走り去っていった。

「ストレートに弱いって言われたな……」

「まぁまだ新人だもの」

「そんな新人を俺が守ってやろうか?」

はっと後ろを振り返ると、ティアが軍帽を深く被ってニヤリと笑っていた。

「隊長直々に着地させて貰ったのかバーナー、そりゃ光栄だな」

「……ティアは凄いな、俺は敵倒すのがやっとだよ」

「気にすんなって!これから良くなりゃ結果オーライ!……まぁ俺は小さい頃から剣を振ってきたからなんとも言えないんだけどなっ」

ティアは片手に握る白く輝く剣を握り直し、「ついてこい」と楽しそうに戦場になった街の大通りらしき道を駆けていく。

街の中心に向かっているのだろうか、何やら花の匂いが風に乗って漂っている。

「花の匂いが気になるか?」

「え、まぁ……。ここまで花の匂いってするものなの?」

「ここは別名花の街って呼ばれるほど国全体が花を愛しているんだよ。この先にでっかい花壇があるから、多分それじゃないかな」

「なるほど〜」

ティアはくるりと後ろを向いて抜刀した。

えぇ?この会話シーンで怒るとこあった?俺何か言った?

「気を抜くなバーナー」

彼は刺すように、俺スレスレで後ろにいたブラッカーに一撃を与えて倒した。

奴は地面にふらふらと落ちると塵になり消えていった。

「戦場では、少しの油断は命取りってよく言うだろう」

「す、すいません……」

ティアは剣を鞘に収め、ニコリと笑った。

「それよりアレみてよ」

「え?………ぅえ!?」

言われた通りに指を刺された方を見てみると、とんでもないものが渦巻いていた。

街のど真ん中に黒く渦巻くデカイヘドロからブラッカーたちがウヨウヨと溢れ出てきた。

「あれをつぶせばゲームセットだ」

「あれが元なんですねティアさん」

「そう、アイツはブラッカーの中での親みたいなもんだ、こっちとあっちを繋ぐゲートの役割、だからアイツの目玉やれば終わり。こいつが消えれば今ここにいる奴も消える、どうやら外に出してる奴らのエネルギーを提供しているらしい」

今度は近くの塔らしき場所を指さされ、見てみると隊長と副隊長が何やら話し合っているではないか。

「今回は新人のために手は出さないが、アレを取った班に報酬の半分、それ以外は分けってのが暗部のルールだ」

「えっ、暗部って給料制じゃなくて」

「報酬制ですね、ティアさん」

「そゆこと、報酬金は政府から出るからたんまりさっ。だけど倒さないとあんまり金入らないから死ぬ気でやれよ、この部隊ほとんど自己責任だからね」

えへんとティアが胸はると、隊長と副隊長が順番に飛び降りた。

隊長が塔から飛び降りた瞬間、他の隊員はそれを狙っていたかのように一斉に隊長へと。

「隊長から金奪えぇぇぇぇえ!!」

「4班かかれぃ!!」

「報酬は俺達のもんだぁぁぁ!?」

なんと敵そっちのけで仲間同士で喧嘩を始めたのだ。

敵を前にしているというのにみんな楽しそうだ、祭りのような騒ぎに肝をぬかれた。

「これが暗部さ、新人諸君」

「は、はぁ……?」

「全く馬鹿な部隊だろ?いや、これが楽しいんだがな」

高らかに笑うと剣を抜き、走って砂ぼこりの中に飛び込んでいってしまった。

「えぇ!?な、なに?俺達どうすればいいのぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉお!!?」

とりあえず俺も剣を構えて集団の中に走り出した。











カンパーイ、とビンをぶつけ合う音が部屋中に響きわたる。

あの後、隊長がさっさと親玉を潰したあとに1人ずつ正座させて説教が始まったのだ。

そのころティアは正座しながら笑いを堪えてふるふるしていた事は内緒だ。

「バーナー、ここで本当にやっていくの?私自信ないんだけど…」

「俺もだ……、ツッコミ所あり過ぎてもう……」

俺と零は2人で食堂で開かれた新人歓迎会で、長机が並んでいるところを目の前の食事をつつきながら、深く溜息をつく。

誰かは酒を片手に大笑いし、誰かは酒を一気飲み、誰かは一発ギャグをかまし、それを見て笑っている。

どんちゃん騒ぎの食堂で、隊長がコップを持って俺達の目の前に座った。

「えっーと、二人とも楽しんでる?」

コップに、ビンに入った飲みものを満たしてチビチビ飲んでいる。

「ごめんね煩い部隊で、そこがいいところなんだけどさ」

「そうですね……皆さん楽しそうです」

「隊長は何をお飲みに?やっぱりお酒でしょうか」

「いや、私はお酒飲めないの。あ、別に未成年なわけじゃないんだよ?弱くてさ…」

…………んん?俺の気のせいだろうか、なんだか隊長、物凄く、仕事の時より優しい……?

口調が柔らかな気がしなくもないぞ、そして笑顔が多いぞ?

「零たちもこれ飲む?私が好きなオレンジジュースなんだけど」

そしてめちゃくちゃ子供っぽいよ!?オレンジジュース?二日目にして真実発覚なんですけど!!まだ二日目だけど!

言わぬが花なの?そうなの?これはもしかして暗部暗黙の了解なの!?

「隊長、仕事の時となんだか違いますね」

零は隊長からジュースを注いでもらいながら、ポツリと呟いた。

零さぁぁぁん!?まさかの君が言っちゃうやつなの、これ絶対逆鱗に触れるよね!?

「なんというか、口調も柔らかいし、雰囲気もなんだか優しいですし」

これ以上はやめて零さんッッ!!

「良く言われるよ、それ」

そう言ってくすくすと笑う隊長。

「私無意識にオンとオフで変わるらしくて、この仕事はさ命かかってるからヘラヘラ出来ないんだよね、えへへ……。でもそんなに変わらないと思うんだけどなぁ」

いや変わりすぎだよ、天と地の差だよ。

オンの時はトゲトゲだよ、人殺せるレベルの鋭さだよ、オフの時の丸さは尋常じゃないよ人形抱えて笑ってそうな柔らかさだよ。

「アモル隊長」

そうすると、カツカツと音を鳴らしながらグラディウス副隊長が近づいてきた。

「グラディウス?なんかあった?」

「いつものですよ、上です」

隊長は立ち上がると面倒くさそうに扉に近づいていった。

入れ替わりに副隊長が椅子に座る。

「グラディウス副隊長、上、とはなんでしょう」

「……この天界を、王の他に唯一操ることができる組織『上層院』。王が表だとしたら奴らは裏、極悪非道なことも平気な顔してやってのける騎士の隅にも置けない連中さ。でもこいつら、王の為にと思ってやってんのかと思うと違うんだ。奴ら、この世界の創造主とかなんたらを崇めるただの宗教団体だったのさ、だから王なんて知ったことじゃない。言うこと聞いた試しのない酷い組織だ」

副隊長はグラスに赤ワインを入れ口に運ぶ。

「そんな連中が隊長に何のようがあるんですか?」

「噂によれば、隊長はその剣の腕を買われて組織に勧誘されてるとか、実は隊長は上出身だとか、情報を奴らから買ってるとかなんとか……」

「隊長って、そんなにすごい方なんですか?」

副隊長はまるで口からワインを吹き出す勢いで目を丸くした。

「お前……それ本当に言ってるのか?」

俺は零と目を合わせ首をかしげる。

それをみた副隊長は溜息をついた。

「……暗部の隊長といえば別名『銀狼』。この暗部を作り上げ、数年で天界に名を轟かせた。わずか18という若さで、まぁ隊長の武勇伝は数々あるが…」

隊長に目を向ける、隊長は扉を少し開いた間から向こうの相手と話をしているようだ。

すると扉をしめ、足取り軽く席についた。

「何の話してたの?」

「隊長の武勇伝です」

副隊長はキラリと目を輝かせた。

「いやだなぁ恥ずかしい……そんなの昔の話じゃないかグラディウス」

「でも隊長が成したことは素晴らしいことですよ!」

「昔私がしたことをグダグダ語り継いで尊敬するのは構わないけど、お前の努力を語って尊敬して貰えよグラディウス。私よりお前の方が素晴らしいと思いますよ?副隊長殿」

副隊長は固まったと思いや顔が真っ赤に燃え上がった。

「そそそそそそそそんな、わけ、私はただ隊長のためにとですね……」

「誰かのためにってだけで、それは立派だと思うよ」

副隊長は照れ隠しにか、震える手でワインを注いでは一気に飲み干した。

ぱくぱくと次々に食べ物を口に入れていく様 は掃除機のようだ。

「まぁバーナー、零。これからよろしくね、ここには馬鹿な奴らしかいないけど、みんな仲間思いで、強い奴らばっかだから。周りに頼ってくれて構わないからね」

そういって隊長は立ち上がり、得物を腰にさす。

「グラディウス、ちょいと王宮に出掛けてくる」

「え?…もう何時だと思っているんですか。21時すぎですよ?」

「クソ白マフラーからの通達でな、癪だがいちお皇子なわけだし。聞かないわけにはいかんだろ」

隊長はカツカツとブーツを鳴らしながら扉を開いた。

「私も行きます隊長!」

「グラディウスには新人の子守を頼む」

副隊長のいうことなど聞かずに扉を閉めてしまった。

副隊長は心配そうに座る、何かが引っかかるような顔をしながらワインを1口、口に含んだ。

「最近隊長は何かおかしいんだ……、前はこんなに頻繁に出掛けに行かなかった」

「……私達が入隊した日も1人で何処かに行きましたよね」

「そうなんだ、1人で出掛けては朝方に帰ってくる」

「大丈夫ですよ副隊長、俺達の隊長ですよ?」

「そうだが…………あぁ、そうだな」

「グラディウス副隊長、私達に隊長の武勇伝、聞かせてくださいよ。私もっと勉強したいですし」

「零は勉強熱心でよろしい!武勇伝か、そうだな〜」

「あれなんてどうだ?1人で無双して街を守った話」

するとティアが少し酔っているのか、顔赤くして俺の隣にドカリと座った。

「あの時は私たちが出遅れたんだっけか」

「そうそう、たまたま隊長がその日休暇で街に出掛けてたら、たまたまブラッカーが現れて、たまたま隊長しかいなかったって話」

「そんなのあったよ」

「俺達あの後こっぴどく叱られたよな!」

ほかの隊員たちも酒を片手に続々と周りに集まってきた。

みんな楽しそうに隊長の武勇伝を語り合っていて、笑顔が溢れていた。

そうか、隊長って本当に凄い人なんだ……。

隊長がいるだけでみんな笑顔になる、隊長はみんなに尊敬されてる。

隊長は、本当に強い方なんだ。













「…………『アモル』はもう戻らないらしい」

「最近は隊長とやらを演じて遊んでいると聞いたが?」

「まさか、情が沸いたとでも……」

「あの『アモル』が、笑わせてくれる」

「でも〜それって裏切りだよねぇ〜?」

「裏切りとは随分ご立派になったもんでぇ、あいつが決めたことなんによぉ」

「…………でも、ちゃ〜んと始めなきゃいけないよね?」

「あぁ」


「復讐劇を、始めよう」











第1章 『七つの大罪』

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