七話
「・・・あれ?桜?」
周りを見渡すと自分以外誰もいなかった。
赤い絨毯の廊下がずーっと先まで続いておりその両側にずらりと扉が並んでいた。
1番近くの扉に向かうと『201号室』と書いてあった。
「おい、嘘だろ・・・また登れってことか?」
思わずため息をついた。
「六階分登らせて二階に落とすって、いい趣味してんなここの幽霊は。」
くるりと廊下に背を向け非常階段の扉を開けた。
「さてと。」
とつぶやいて夕波は天井を見上げた。
「登るか。」
☆☆☆☆☆☆☆
「うあー。失敗した、ミトを離すんじゃなかった。」
竹刀を片手にがっくりとうなだれているのは桜だ。
近くの扉の番号は『501』
「ルーはともかくミトがな。」
非常階段の扉を開けようとしたが空かなくなっていた。
「こうなったら・・・」
桜は薄暗い廊下をある部屋に向かって歩き出した。
「あった。」
桜が立ち止まった扉には『505』の文字。呪いの部屋の一個したの階だ。
押しても開かなかったので蹴破り中に入った
。
・・・どうせ壊すんだしいいよね?
中に入るとベット以外は何も置いていない寒々とした空間だった。浴室の扉は空いていたが何かいる様子はなかった。
その浴室の前の壁に背中を預け座った。
べつにベットでもよかったのだがあっちこっちズタズタで座ったら埃の他にスポンジのカスとかがつきそうだったのでやめた。
片膝を立てそこに竹刀を抱えたまま顔を伏せるようにして体を固定した。
それから桜はピクリとも動かなくなった。
☆☆☆☆☆☆☆
★ピンポンパンポーンお知らせです★
只今より動物達の言葉を『』にさせていただきます。それでは引き続き霊能犬ミトを(楽しめれば)お楽しみ下さい。
『チッ。ばらけたか。』
近くの扉のプレートには『701』と書いてある。
『俺達はともかくミトがな。』
一応何かが来ても対抗出来る力をルーも持っている。しかし、ミトはまだ小さくこういうところに一人でいると危険だ。ミトが六階で無いことを祈るしかない。
そういえばこのホテルはベランダは無いけど窓に柵があったはずだ。
『伝って降りるか』
そう考えてルーは『705』を目指した。
☆☆☆☆☆☆☆
『うそ、うそ、うそ、うそーーー!』
私はガタガタと震えながらあたりを見回した。
みんなを追って廊下に出るといきなり前にいたみんなが消えたのだ。
『まさか、みんな幽霊だったとか?いや、でも私を抱っこしてたし。ルーも埃でくしゃみしてたし。とにかく、怖いーー!』
薄暗い廊下にひとりポツンと残された子犬の恐怖は計り知れない。
『なんかあっちこっちの扉からなんか出そうだし、廊下の向こうから何かが猛スピードで走ってきたり・・・きゃーー!!』
あと妄想の影響もある。
『なんとか扉、あかないかな。』
幸いドアノブは丸く無いので体重を掛ければ空かなくもない。・・・手がかかればの話だが。
『届かないー』
何度も飛び跳ねるがあと少しで届かない。
『なんか見られてる気がするけどきっと気のせいなーの〜♪』
黙っていると怖いのでへんちくりんな歌を歌ってみる。
ちなみに歌詞は本当だ。
疲れて扉の前で座り込んだ。
もう、疲れたし。
暗いし。
怖いし。
心が折れそうになった。
『ううー。桜ー、夕波ー。いないのー?ルー。』
寂しくなって泣きべそをかいていると。
ガッタン
『………』
大きな音とともに目の前の扉が揺れた。
ガッ、ギイイィィ
心臓がバクバクと跳ねる。
そこには、黒い巨大な影が佇んでいた。
『ぎゃあああぁぁぁ!!出た!!!」
とにかく無我夢中で駆け出した。
長い廊下を走っていると薄く空いている扉があった。
すぐさまそこに逃げ込む。
後ろで扉が閉まった。隅っこに身体を押し付けるようにして縮こまった。
足音が扉の前で止まる。
「ミト?ミトだよな!」
ほっと息を吐いた。この声は夕波だ。なんだか息が切れている気がする。
ドアノブがガチャガチャと鳴る。ワンワン鳴いて自分がここにいることを知らせた。
「くそっ!あかない!お前なんてとこ入ってるんだよ!」
あかない?枠がゆがんでたとか?じゃあなんであいてたんだ?
向こう側に夕波がいるであろう扉を見上げて。枠がゆがんでたわけではないことが分かった。
きっとどのホテルの扉にもあるであろう避難経路を表した地図。
目の前の扉の地図は一つの部屋が目立つように赤く塗りつぶされていた。
『605』
ミトが逃げ込んだのはあの、呪いの部屋だった。
ハッピーバレンタイン!!
どうしよう。夜ご飯入らない。