1話
・・・。
・・・・・。
・・・・・・・・。
ここは、どこだ?
私は真っ暗闇の中で瞬きをした。まあ、真っ暗闇なのには変わらないのだけれど。
私は確か・・・・あれ?思い出せない。自分がここにいるまでのことがなにも思い出せない。
取り敢えず何か無いかと暗闇を手探りした。前に二歩歩くと壁にぶつかった。
次、右を向いて一歩歩くとこれまた壁にぶつかった。
だけどどっちも薄そうな音がした。
目の前の壁にパンチを繰り出す。
ボスッと音がしたが穴は空かなかった。
ポツッ
鼻に液体が垂れてくる。匂いからして水だろう。
ペロリと鼻先をなめて・・・ハタと固まった。人間って普通舌が鼻先に届くっけ。ていうか私人間だった。じゃあいまはなんだ?
さっき歩いた時四本足だったような。
「どうした?桜。」
「うん?いや、こっちからなんか強い気配が・・・」
いきなり人の声がした。近くで水の跳ねる音もする。そういえば雨の匂いがする気もする。
「こんなところに強いのが?」
「・・・それだ。そのベンチの下の箱だ。」
「うえ。拾ってあげて下さいだって。まさか強い恨みを持って死んだ捨て犬の霊じゃ無いだろうな。」
その声と共に自分のいる空間が動かされてよろめいた。いきなり上から光が差し込む。
目を細めて見上げると黒髪黒目の傘を差した青年二人。
ちぇっ。転生といえば異世界転生じゃないのか。いかにも周りは日本だ。
そうだ。日本に住んでた。
そして、ファンタジーが好きだったようだ。
それにしても捨て犬か。
「生きているな。それに捨てられてからも日がたっていなさそうだな。」
声からするにダンボール箱を開けたこの人が桜と言う人だろう。
「どうするんだ。桜。」
「おまえはどう思う。夕波。」
「知るか。拾ったのはおまえだろ。」
夕波が顔をしかめて言い返した。
「まだ、拾ってない。箱を開けただけだ。」
「・・・おまえ、その蓋を閉じて知らんぷりして帰れるか?」
「・・・・・。」
桜は黙り込んだ。桜はクール系で細い目がつっていて見付きが悪いように見える。そしてなぜか犬の匂いがする。顔はいいんじゃないかな?
その顔に悩ましげな表情が浮かぶ。
ちょっとハラハラする。桜に引き取ってもらえなかったら私はどうなるんだろう。思わず心配そうに見上げると(子犬らしい)桜の悩ましげな表情が深まる。目つきは悪いけど優しい性格のような気がする。
「・・・こいつとなら上手くやれそうな気がする。」
しばらく考えた結果桜がぼそりと言った。
夕波がおっと言うような表情をした。
「初めてだな。桜がそういう犬にあったのは。」
さっきから気になってたけど二人の会話がおかしい気がする。気配で捨て犬を見つける奴がいるだろうか。それになにが上手くやれそうなんだ。
夕波が手を伸ばして撫でてくれた。夕波はがっしりとしたお兄さん系だった。
「こいつの犬種は大丈夫なのか?」
「ああ、きっとこいつはコリーだろう。」
コリーってあの優しげな毛の長い犬か。手入れが大変そうだな。
桜がダンボール箱の中から抱き上げてくれた。外気に当てられてちょっと寒い。外は雨にしては小降りだけど傘をささなければ濡れるような中途半端な天気だった。
「名前は?どうする。・・・こんな天気だからミスト(霧)とか?」
「まんまだな。それに呼びづらい。両端をとってミトはどうだ?」
「いいんじゃないか?」
こうして私の新しい名前はミトに決まった。