*7*
ルイザには今だ懐妊の兆しすらないのに、対し、王妃の方は王城に戻り、私と過ごした凄惨な3夜の情事で再び懐妊した。
再びの王妃懐妊という慶事により、国は喜びがひろがりつつあった。
あの夜を過ごし、懐妊のわかった王妃は王宮内に自分の宮を望み私はこれを叶えた。
王子を産んだ褒章と称し私が人形の顔を見ない為と、ルイザと2人で過ごしたかった為である。
そして王妃の再びの懐妊は、寵姫に対する公爵たちの風当たりを弱くする効果もあった。
“寵姫があっても、最愛は王妃であろう”とでも思ったのかもしれない。
王妃が、継嗣たる王子を産んだことで、ツヴァイ公爵一派はわが世の春とばかりに調子づきいているのだろうはずなのだが、結婚後からツヴァイ公爵家自体の動きはが大人しい気がする。
側近達の口から聞く公爵の悪事が少ない気がするのだが。
おお。それだけでも人形と政略結婚をしたかいがあったかな。
今回の王妃の宮への引っ越しも、公爵側は゛新しい側妃に大切な子供が害されない為の措置”として取っているらしい。
王妃が宮を望んだことも伝わっていて、゛懐妊中は気分転換も大切ですものね”などと一部の貴族達は言っているらしい。
まったく、優しい優しいルイザが人形の腹の子に危害を加えるわけがないだろうが。
現にルイザはユリウス王子を見に行きづらくなってしまったと拗ねている。
子供を害す気があるなら、拗ねたりなどしないだろうに。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆
月が満ちて、王妃は今度は王女を産んだ。
王女の名は女神の名をもじり『アルティナ・フォン・アインツ』付けた。
そういえば、アルティナを懐妊した際、人形は体調を崩したらしいが、大したことはことは無かったのだろう。
まあ、私はルイザとばかり過ごしていたし、人形が伏せっていることなど気にもとめていなかったので、詳しくは知らないのだが。
そのころ、私の側近たちは暗い顔をしていたような気もする。
姫が生まれてからしばらくは、大きな騒動もなく月日が流れ、今年3歳になった息子は人形の事を何でもマネたがり、後ろをついて回っている。
「母上、母上」
と呼びかける声が可愛らしい。
2歳になる娘は乳母に抱かれながらも、人形の方に手を目いっぱいのばして抱っこをせがんでいるように見える。
『あーう、あーう』の“あーう”って母上の事だろうか。
息子たちは、人形にとても懐いている。
そのくせ何故か、私にはあまり懐かない。
息子など、人形が
「お父様に、ご挨拶は?」
と、言って初めて
「お父様? こんにちは?」
と、言ってくれる始末だ。なぜ、疑問形になるんだ息子よ。
そして、娘はなぜか、私が抱き上げようとすると途端に不満顔になる。
乳母言うように照れているだけなんだろうか?
人形との間に生まれたユリウス王子、アルティナ姫は容姿も良いし、利発で先が楽しみで可愛いわが子達だ。
私への態度以外は、とてもあの悪徳公爵の娘が育てているとは思えないほどに良い子だと思う。
人形との間の子がこれだけ可愛いならルイザとの子は更に可愛いだろうと、私はルイザとの子を望んだが懐妊の兆しはいまだない。
ルイザは子供が好きな為、よく私についてユリウス王子とアルティナ姫に会う為に人形の宮に来る。
その際、人形は話を聞いているのかいないのか分からない。
ガラスの様な目には、何の感情もない気がする。
ユリウスはルイザに対しそっけない態度をとるばかりで、アルティナに至っては乳母の胸に顔をうずめてイヤイヤをする。
息子たちは、ルイザが一緒の時は早々に話を切り上げて早々に行ってしまう。
ルイザが単身人形の宮に赴くこともあったが、私が迎えに行くとたいていルイザは泣いており、人形がそれを無表情に見ているだけという光景が広がっていた。
ルイザはしきりに『何でもない』・『大丈夫』と言っていたが、大方人形が心無い嫌味でも言って責めたのだろう。
人形は
「私にかまわず、ルイザ様と国王陛下はお二人でお健やかにお過ごしください」
と言っていたが、優しいルイザがユリウス王子とアルティナ姫を気にかけているとなぜわからない。
人形には人の心の機微は図れないのだろう。
そういえば、私の愛するルイザ付の者は辞めたり移動したりでしょっちゅう顔ぶれが変わるのに対し、王妃付きの者は入れ替わる者がとても少ないのも不思議な事実だ。
側仕えをするなら、冷たい人形よりも優しいルイザの方が良いだろうに・・・
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