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その日私は視察の為、王都郊外に来ていた。
郊外付近の騎士の詰所、役所、診療所、農地をめぐり孤児院を目指す。
初夏の心地良い風を受け、馬車での移動にも飽きて来た頃、今回視察予定の孤児院に到着した。
そう、たまたま視察に訪れた孤児院で孤児たちの世話をしていたはつらつと美しい女性に私は目を奪われてしまった。
その女性の名はルイザ、ルイザ・フュンフ・ツェーン。
王都郊外に領地を持つ末端貴族ツェーン子爵家の末娘で「ドレスより、孤児たちにも温かな食事を与えたい」という心優しい女性だった。
ルイザは、自分の質素な服装で私の前に出るのを恥ずかしくがっていたが、その様がまた可愛らしく私には映った。
側近に言い仕立て屋を呼ぶように申し付ける。
この女性が私の送ったドレスを着ると思うと、これまでに無い高揚感が私の中に渦巻く。
そして、ルイザの質素な設えから、ツェーン子爵家が財政的にあまり恵まれていないのではないかと思われた。
孤児院への援助だけで、ドレスも作れなくなる様な場所に彼女を置くことが厭われ、私は即座にルイザを連れ帰り側妃とし彼女を迎えるために動き出した。
実際、ルイザは明るく表情豊かで、はつらつとしていていろんなことに興味を示し、私の態度1つ1つに反応するところが最高に可愛い女だった。
私の送ったドレスを嬉しそうに着る様も実にういういしくて良い。
婚姻後、人形に贈り物をした際には人形はお礼を言いながらも、
『今後は、この様な高価な贈り物は辞めてくださいませ。
私には、十分な予算を割いて頂いておりますのでそれ以上の物は・・・』
と、文句を言っていたしな。
まあ、私も最後まで聞くのが嫌で、「うるさい、結婚の贈り物など不要な様だったな」と会話を切ってしまったが・・・
そう言えば、あれ以降人形とはあまり会話をしていないかもしれないな。
・・・・・まあ、どうでも良いか。
ルイザを王宮にと望んだが、側近達はあまりに違いすぎる価値観にツェーン子爵令嬢が順応できないのではないかと懸念されると言う名目をかかげて反対し、簡単に運ばなかったが、最後は王の独断という形で断行した。
この時、なぜ大臣はじめ、側近達がこぞって反対していたのか私には全く理解ができなかった。
私の目にはルイザは、優しく美しい王の妃として申し分のない娘に見えていたのだ。
恋に恋していたこの時の私にはまったく現実が見えていなかったのであろう。
後になって思えば、この時なぜ側近たちの話をもっとよく聞かなかったのかと反省するばかりだ。
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無事に、ルイザを側室として王宮に無事に迎え入れ、蜜月を過ごしていると、王妃が無事に王子を産んだと報告がきた。
その報告には、人形はあと1~2週間程で王宮に戻れるということも書いてあった。
無事に生まれてしまった王子の名を『ユリウス・フォン・アインツ』とした。
王子が生まれたのは喜ばしいが、これで恋しいルイザを王妃とするのにこの人形が更に邪魔になったというのがその時に私が思った第一の事だった。
そう、私はルイザと出会い、愛情深い彼女が王妃になればよいと希望するようになった。
その為にも人形はただ、ただ邪魔でしかなかったのだ。
お読みいただきありがとうございました。
次話なるべく早めにアップするよう頑張りたいと思います。