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権勢を少しづつ削がれていった公爵側は、国の辺縁部を含む各所で、騒動を起こし兵を疲弊させ、監視を甘くする。
その裏で反旗を翻す準備を進め、自領でも騒動が起きたと城から離れる。
そして、公爵と嫡男は当然の様に自領に戻る。
そういえば、公爵のもう一人の娘と、奥方は?
奥方は療養の為と称して騒動が始まった頃、娘を連れて所領へ行っているのではなかったか?
そうだ、今回の騒動も妻子が訪れている土地だから自ら出向くと言っていた?
度重なる騒動で確かに、公爵に割く手勢が減ったのは事実だ。
小競り合いが起こる少し前、人形の元にツヴァイ公爵が訪れ『公爵側のスパイとなれ』と強要していったらしいが、人形ははっきりとこれを拒絶したらしい。
『今後一切、父で有ってもツヴァイ公爵を近づけない様に』と申告がなされていた。
この頃から人形と息子、娘は公爵派に排除の対象と認定をされたようだ。
自分の娘と孫達であっても邪魔ならば殺そうとする公爵の行動には反吐がでる。
傍に控えていた側近たちはそろって否定したが、私は最初、自作・自演かと思っていた。
だが自身は傷だらけになりながら、子を守るその姿は嘘だとは思えず、近衛から人員を裂き警護に当たらせることを許した。
宰相補佐官が大きなため息をつき。
「何度も報告書にして報告していたのですが、きちんとお読みになっていなかったのですね。
現在、公爵の権勢がここまで削げているのは王妃様の協力があっての物なんですよ。」
「知らない」
答えると、他の者達、軍務大臣の補佐官と、近衛の方からも大きなため息が聞こえる。
「陛下は頭はいいのに相変わらず、お馬鹿さんですね。
昔、あれだけジェームズにものごとを良く見て考えろって言われていたのに」
脳筋の近衛騎士に言われた。
「私は、ただ指示通りに目的を達成するだけですが、陛下は目的を見極める立場にあるのでしょう?」
まさか、脳筋カインがまともに説教すると思わなかった。
そして、気づいた。
いつからか、私は彼らときちんと会話をしていないということに。
・・・・・いつから私は、カイン達側近をカイン、アルベルト、ジェームズ、エドアルド、ジェファーソンといった個人として認識していない?
その後小競り合いは、内乱といっていい規模まで発展をしていった。
公爵の軍の疲弊を誘う作戦が見事に作用した結果と言ってよいだろう。
警護の関係から居住を移した際も人形は何も言わずに受け入れた。
そんな実情からも人形が公爵の手先である可能性は限りなく0に近いと判断し、国の貴族達には『王妃は王室派である』と公表した。
この発表に、現在城に残る貴族たちは「何をいまさら言っているんだ」という反応を返してきた。
私は何も気づかないまま、いや、気づこうとしないままこれまで来てしまった?
サフィーリアが悪であると思っていたのは私だけなのか?
お読みいただきありがとうございました。
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