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暁の至宝  作者: 多岐濟
0章/残冬~始まりは静かに
2/8

1:最初の対談で

「我らも事を荒げたいとは思っていませんよ?」


予想外の返事の返事の連続に、騎士は面を食らい続けた。


正式な騎士が鎮座するには似つかわしくない家屋に、彼は供の者と訪ねた。王都からは相当辺鄙な地域である、この村へ。

正直この村を探すだけで相当な時間をかけた。伝承、口伝、王都の学者や研究者、果ては冒険者に至るまで手を尽くし探し当て、漸く探し出した。

伝説の息づくこの一族を。

しかし伝説の一族は流石、一筋縄では行かなかった。


――王命とは、大切ですな。

それで、それは我らに何をもたらすのですか?


『暁の者を王の元へ連れて行くこと』

それが彼らに与えられた任務であり、遂行すべき事象であった。まさか『王命』に逆らうなどと思い付きもしなかった。思わぬ発言にぎょっとし、王命に逆らうべきではないと切々と訴えてみれば(何が悲しくて自分の何倍も高齢の人間に訴えねばならないのか)『罰を受けるならそれも一族の天命でしょうな』などと言われる始末。

――探し出すまでが大変だと思っていたこの任務、実は探し出してからのほうが何倍も大変だったとは。


それでも説得を続け、冒頭のセリフに戻る。


「まぁ無意味に村の者を危険に晒すつもりは無いですからね、私も。しかし直ぐに、はい、従いますと言えませぬ――我らが、『暁の一族』である以上は」

にこにこと笑顔を讃えた人のいい顔をしているが――流石は長老と云われる人物だけある。全く食えない。


「貴殿方は何をお考えなのですか?」


再度の質問に本能が訴える――迂闊な返答をするな、と。

くそっ、頭を使う専売は俺じゃないのに。

「陛下のお考えを我々は全て存じ上げているわけではございません。只、少なくとも助力を求めていることは間違いないでしょう」


「質問を変えましょうか?貴殿方は『暁の者』をどう捉えておいでですか?」


無難に逃げようと思ったら正面からばっさり逃げ道を塞がれた。

逃げられないなら――腹を括って話すしかない。この場で対峙するのに部下が同席していなくて良かった。ただ、『あいつら』が対峙していたらそもそもこんな状況になっていなかったかもしれないが。

「自分の考えが混ざることは考慮して頂きたいが……」

ぽつりと語りだす。


「暁の一族全てが力を持つわけではないですよね?でなければこれだけ伝説が朧気になるわけがないでしょう。そして自分たちから表舞台に積極性に関わろうとはしない。寧ろ地図上からすら隠れているように見受けられます。ただ、力については正直に申し上げますが―― 全く判りません。此方も色々調べた上で貴殿方を探し出しました。助力を請おうと。近年起こった争乱や飢饉などの傷痕、これらからの快復に。しかし『暁の者』の伝承は『力』について明確なものはなかった」

「では、どうして判りもしない力を求めるのですか?」

老人は笑顔で容赦なく言葉を放った。


「簡単です、疲弊した国力に民の賛辞は集まらない。手っ取り早く賛辞を集めるには、最初から賛辞を受けるものを置けばいい」


「っ…!!」

「ああ、勘違いしないでください、それは今に始まったことではないのですよ」

淡々と語られる言葉は、喜びも憤りも諦めもなく、ただ事実だと突きつける。

遥か昔の王宮から。

嫌な汗が背筋をつっ…と流れた。

睨まれたカエルのような気分だ。これでも一隊を率いる身だ、半端なことでは動じるなんてないと思っていたのに。


「そうは言っても我らも王国の民ですからね、招聘には応じましょう。ただし、我らの力が思い通りになるとは思わないで頂きたい。我らを求めた以上、我らの行いは即ち貴殿方の行動の結果によるものだと――心に刻んでおくと良いでしょう。その覚悟を頂けましたら『暁の者』を都へ遣わせましょう」


再びにっこり笑って言ってきた。

…食えない。

本当に食えない老人だ。


「覚悟のない愚鈍な者はそもそも国を傾けるだけです。なに、貴殿方の返答次第で我らも喜んで力をお貸ししますよ」

「…分かりました。王より再度の申請を賜りましたら、その時は招聘へ応じて頂きましょう」

「ええ、分かっています。…ああ、それと王の元へは遣わせますが、王宮へは留めて置けませんのでご了承ください」

「…は?」

王が招聘しているのに留め置けないとはどういうことだ。

怪訝な顔をすると、長老はこの日最高の笑顔で爆弾を落とした。


「当代は神殿で修行中の巫女です。あと一年は神殿での修行を行わねばならぬ身ですので、王宮への招聘自体は可能ですが、留めるのは…神殿の規則は治外封建ですよね?王といえど無駄です」


完全に、やられたと思った。


こうも意図しない用件がごろごろ出てしまっては己の采配でどうこうできるわけがない。

騎士は一度王都へ逆戻りするしかなかった。



しかし。

それすらも彼等の意図に入っていると知ったのは、再びこの村を訪れた時だった。



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