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マリオネットリベンジャー

作者: CatCanvas-K



クリス「お父さん・・・。」


陰鬱な顔で彼女は像を見つめる。その眼には涙がにじみ、広場のモニュメントが霞む。悲しいとき、辛い時、苦しいとき、よくここに来ていた。彼女の前には張り付けになり、機能が停まってしまった父親、ベルシステムが居る。

20年前、この世界を統制する組織「UPoGS(universal peace of global system )」の中枢であり、世界を制御する神器「マリオネットギア(機械人形王)」を擁する「統べる者」達に反旗を翻したテロリストのリーダーが、クリスの父親であり異端のマリオネット「ベル」だった。

しかし結果は惨敗。今現在、クリスが居るこの「愚者の棺おけ」と呼ばれる広場にて完全に機能を停められ、張り付け状態になっていた。

大戦時、ベルが破壊以外で残した数少ない成果である娘のクリスは、もう動かない父親を見ながら綺麗な紅に彩られた髪をいじり、時が経ち、心が落ち着くのをひたすらに待っていた。そこに一人の女の子がクリスめがけて走ってくる。

ミキ「クリス~!!もう、やっぱりここに居た~!!」

クリスの名を呼びながら、数少ない友達のミキが急ぎ走ってきた。ミキは「テロリストの娘」という社会通念上最悪の肩書きを持つため孤立するクリスにも普通に、いや、普通以上に接する変わった人間の一人だ。

クリス「どうしたの?ミキ。また寮長さんが探してる?」

ミキ「クリス・・・。」

クリス「大丈夫よ。」

いつも気が強く凛とした空気のクリスに浮かぶ暗雲を、心配そうに見つめる美しい緑の眼差しに、クリスは笑顔を送る。

ミキ「辛い時に悪いけど、クリス、大変だよ!!クリスの部屋が、またあいつらに!!」

クリス「また!?もぅー。」

彼女はうんざりした顔で広場を後にする。



トリニティ兵1「タチバナ・クリス!!ここに貴様の反逆嫌疑をとり調べるため、現時刻をもってトリニティが貴様の部屋をUPoGS命令の元、強制調査する!!」

そう隊長格がクリスに紙切れを示す。他の兵はもうすでに彼女の部屋をひっちゃかめっちゃかひっくり返している。

クリス「はいは~い。」

飽きれたように了承するクリス。もう、こういうことには慣れていた。生まれてこの方、こういった人間が自分の周りから1秒たりとも離れたことがない。

トリニティ兵1「君に聴きたいことがある。まずは・・・。」

クリス「お母さんは私を捨てて逃げました~。お父さんは張り付けになってま~す。譲り受けたものは何一つありませ~ん。お父さんの起動キーは「統べる者」の皆さんに壊されました~。ここに入学できた理由は分かりませ~ん。月1回の呼び出しには応じます~、決して逃げませ~ん。」

まあ、大体こんなところだろう。

トリニティ兵1「貴様!!舐めてるのか!!」

クリスの襟首を掴み、ゴツイ「自動自然環境制圧武具」という長ったらしい装備を纏った兵が、まるで棒切れのようにクリスを揺らす。

クリス「あんたら、もう15年も探して何も見つけられてないじゃない。それを舐めるな!!ですって?ふっ。」

鼻で笑うクリス。

トリニティ兵1「貴様~!!」

兵がクリスを締め上げようと力をこめる。すると、そこに女性が割り込んだ。

ライラ「止めなさい。」

今にも兵がクリスを殴りかかりそうなところに割って入ったのは、この寮の寮長ライラであった。

美しい黒髪は流れ、冷たい目が放つその空気は、高嶺の花だと男に思わせるのに十分の威力をほこる絶世の美人だ。だが彼女は人間ではない、マリオネットだ。

その風貌は他の給仕用のマリオネットとは違い、顔以外の全身をくまなく衣類で覆っており、決して地肌を他人に見せない、不可思議なマリオネットだった。衣類の下には、異様に突起した部位が散見される。

トリニティ兵1「邪魔をしないでいただきたい!!これはわれらが任務だ!!これに逆らうのであれば・・・。」

ライラ「殺ッ。」

ライラは兵の言葉など聴かず、腕を振り上げ、兵へ振り落とした、すると「自動自然環境制圧武具」があっさりと砕け散り兵がしりもちをつく。

クリス「きゃっ!?」

体制を崩したクリスをライラが抱きとめ、ゆっくりおろす。

ライラ「ゴミの処理はこちらで行いますので、どうかお引取りを。」

トリニティ兵「なっ!?」

装備を壊され、恐れにプルプルと震えながら兵は言葉を続ける。

トリニティ兵1「この威力。貴様・・・。オリジナルマリオネットか。」

ライラ「お引取りを。」

丁寧にお辞儀をするライラ。

トリニティ兵1「ばっ馬鹿な!!こんなことをすれば貴様!!どうなるか・・・。」

ライラ「私の仕事はこの学園の生徒たちを守ること。誰からも何からも、守ること・・・。」

ギギギィ。無表情なその顔とはうらはらに鉄が軋み、その腕に力がこもる。

トリニティ兵1「ひぃ!?任務一旦終了!!てっ撤収!!撤収!!」

悲鳴を上げ、隊長の男はそこにいた兵たちを撤収させた。

クリス「あっありがとうございます、寮長。」

ライラ「何故、あのようなことを?」

クリス「密室で尋問を受けるより、ここで好きなだけ殴らせたほうが安全だからです。」

公権力といえど安心はできない。まだ、彼女を邪険に扱う世間の目があったほうが安全なのだ。彼女はそれをよく知っていた。

ライラ「そうですか。ではタチバナ・クリス。寮を抜け出し勝手に外出。寮にて騒乱を巻き起こした。以上の罪にて、書き取り100枚を命ずる。」

クリス「げ~、書き取り・・・。」

クリスは自分の部屋が荒らされていることを知ったときよりも嫌そうな顔をする。

ライラ「さぁ。」

そういうとライラがクリスをバッグのように担ぐ。

クリス「えっ、ちょっと!?宿題じゃないの!?今からとか!!?」

ライラ「複合罪は即時滅殺。」

クリス「ミキィー!!なんとか言ってあげてよ!!」

友に助けを求めるクリス。

ミキ「うん、自業自得。」

ミキが最高の笑みで送り出す。助けを呼ぶも虚しく、友の微笑みが遠のいていく。ガシンッ、ガシンと体を揺らし、ライラはクリスを修練部屋に連れて行った。



クリス「はぁー。まだ頭で漢字が流れるわ~。」

彼女は朝食を給仕マリオネットによそってもらいながら、寮の第3食堂でため息をつく。

ミキ「それは、自業で自得よ。」

うふふつと笑うミキ。

クリス「ミキィ。まだ怒ってる?」

ミキ「そりゃもう、うふっ。」

そう言ってマリオネットからしゃもじを取り上げ、ポテトサラダをしこたま皿に盛っていくミキ。

クリス「もう、仕方ないじゃーん。あいつらが私のところに来るのはいつものことだし・・・。」

ミキ「それにしても、ありえないわぁ。もうちょっとなんか、自分を守ろうと、ね、嘘でも良いから涙でもためて、さあ!!」

言葉を紡げば紡ぐほど、ドンドンとポテトが盛られていく。滑りやすいグリーンピースやコーン達が力及ばず転がり落ちる。

クリス「でも、もう15年よ~。あいつら見るだけでうんざりよ。」

ミキ「でもさぁ、諦めたらダメだよ~。」

皿に死ぬほど盛られたポテトサラダに腕をプルプルさせるミキを手伝いながら適当な席に2人は座る。すると、朝の恒例の挨拶会が始まった。出てきたのはこの全寮制校の寮長補佐であり、総生徒会副長のナツミだ。

ミキ「チッ。」

ナツミ「チッ。」

ナツミとミキがお互いを見つけた瞬間、何か不穏な空気が流れ始める。美しいナチュラルグリーンの、柔らかい香りを放つ食虫植物の気配と、孤高の白銀の狼の気配が第三食堂を席巻する。

ナツミ「・・・。皆さん、おはようございます。昨日、どこかのお馬鹿さんのおかげで、健全な生活が乱れましたが、決して皆さん同じような間違いはなさらないように。と言っても、アポゴスに逆らうような愚か者はそうはいないでしょうが。」

ほかの生徒たちの視線がクリスに殺到し、笑いが漏れる。

ミキ「・・・、阿鼻叫喚。」

そして、それが更にミキの負の波動に火をつける。

クリス「ダメッダメよ!!ミキ、帰ってきなさい!!ミキ!!」

必死に小声で語りかけながら、ミキの体を揺らす。

ミキ「分かってるって~。今は大丈夫、今は・・・ね。」

クリス「ハァ。全く、あんたほんとにナツミと仲悪いわね。」

ため息をつきながらクリスはミキとナツミを交互に見る。

ミキ「あら、そんなことないわよ~、いっただきまーす。」

そう言うとミキは挨拶の終わりを待たず、勝手に食べ始める。ナツミは挨拶をしながら、ミキは一人だけ挨拶を待たず、山盛りポテサラを食べながら、2人で睨み合っている。その熱い火花は食事が終わるまで続いた。



クリス「総生徒会も気を利かせて、ナツミをミキに近づかせるのは止めてくれないかしら。」

クリス、ミキ共に朝食完食後、各自の部屋で着替えをするため一旦別れた。居たたまれない空気で食べる食事は辛かった。ミキはどうやら食欲が増進されたみたいだったが。部屋に入ったクリスは、いまだ昨日の爪あと残る部屋で着替えはじめる。と、言っても、いつも散らかっているので大差ないともいえるのだが。

クリス「でも、施設よりましか・・・。」

彼女がこの幼稚園から大学まで一貫。社交界での気品ある人間を育てることを目的とした上流階級校「ミズカミ学院」に来るまでは、国の施設にいた。

そこは「なんらかの理由」がある人間を保護、いや、隔離するのが目的の施設で、クリスを含め変わった人間が多かった。

腕や足や目がない人間なんて普通。協調性も何もない、世界の敵が集まる場所。そんな場所で食べるご飯ほど、気分の悪いものはない。それを思えばここは天国だ。

クリス「でも・・・、私、どうやって入ったんだろう?」

彼女はいきなりここに連れてこられたのは10歳の時。一切の外出を認められないはずの施設からいきなり連れてこられ、今に至るわけである。

クリス「・・・、あのおじさん、誰だったんだろう?」

微かに若い見知らぬ男に手を引かれていたのは覚えているが、思い出せない。その後も何も聞かされないままだったが、「あの」施設に戻るくらいなら、ここに何も知らないままで生きているほうが100倍、いや1000倍ましである。あえて聞かなかった。

クリス「さてさて、では行きますか!!今日は雨の予定はなしね!!」

天気予定表を確認し、着替えを終わった彼女は部屋を飛び出していった。



「ユリ・・・。クリス・・・。」

彼は家族の名前を呼ぶ。世界は闇に閉ざされている。もう、幾年経ったろう?この闇から逃れる手段はまだ見つからない。その闇に一筋の光が降臨する。

「やあ、ベルマトリクス。」

「ブライトマトリクス・・・。」

ブライト「君もそろそろ諦めたらどうだい?もう君を起動することは叶わないよ。あの・・・、ユリだっけ。彼女も逃げてしまったし、あの禁忌の子、クリスも我が手にある。世界にこの世を構成する集積回路は2つも要らないだろう。」

ベル「・・・、ふん。」

ブライト「何がおかしい?」

ベル「貴様はまだ俺を恐れているのか・・・。」

ブライト「恐れ?馬鹿な。」

ベル「じゃあ、何故貴様は俺を破壊できない?貴様は俺を封印するのでいっぱいいっぱいじゃないか。」

ブライト「・・・、確かに僕は君は殺せないね。でも、君の操者はどうかな?」

ベル「ユリ・・・、いや、クリスか。」

ブライト「そうさ・・・。禁忌の子を殺すのかどうか迷っていたけど、今日、会議で了承されてね。殺すことが決定されたんだ。君の娘が死ぬ映像はきちんとここにアップしてあげるから、感謝しなよ。」

そう笑顔を残し、彼は消えた。

ベル「・・・、うぉぉおおお!!ブライトシステムぅぅうう!!」

地を揺るがすような咆哮は闇に消え行くばかりであった。



クリス「あ~あ、全くもう。」

授業も終わり、彼女はなんとなく町を歩く。唯一外出が許される3時間だ、特に何もなくとも歩くだけでも息抜きになる。夕焼けに照らされ、町では買い物客と業務用マリオネットたち、そして少数の人間の店員で混雑している。

クリス「今日もご苦労様だこと・・・。」

後ろでつけてくる尾行たちを感じながら、彼女は町を歩いている・・・、と。

クリス「なに・・・?私?」

向こうから雰囲気の違う一団が人を押しのけ歩いてくる。見た目も、そして雰囲気も普通じゃない。気づけば、もうすでに尾行たちが居なくなっていた。

クリス「ヤバイっ!!遂に来たのね。」

いつかはくることが分かっていた。「テロリストの娘を処理する日」。この世界での神に等しいモノに逆らったのだ、クリスは当然この日が来ることを覚悟していた。

クリス「でも、ただでは殺させてあげないんだから!!」

彼女は駆け出し、わき道に入る。こういうこともあろうかとこの町の構造は頭に入っている、だが。

クリス「嘘ッ!?」

待ち伏せだろうか?クリスの目の前に立ちふさがる青銅の影。マリオネットだ。しかし、大きい。ゆうに2メートルはある。その巨体は人間の顔ではなく、流線型の、いかにも機械だとアピールするような顔をしていた。するとその敵の後方から声がする。

ハイア「やあやあ、天に弓引く小悪魔さん。」

華麗に手を翻しエスコートするように会釈する男。身なりから相当な家の出だと分かる。

クリス「あんたは?」

ハイア「私は国家ニンギョウ技師2級。キザキ・ハイア、武家の一族、ハイア家の一員さ。ちょっと命令が下り、君を処理しろって言われてるんだ。」

クリス「人形士!?じゃあ、そいつは軍用の・・・。」

ハイア「いやいや。勘違いをしてもらっちゃあ困る。そいつは普通の人形じゃない。オリジナルマリオネットさ。名前は『ツバメ』。いかすだろう?」

クリス「オリジナル・・・。そんなぁ。」

落胆の色が隠せない。ここにきて「オリジナル」なんて、私の過剰評価だ!!とクリスは思う。

ハイア「2級ともなれば、オリジナルを所有することも許されるのさ!!」

あまりの戦力差にへたり込むクリスを見ながら悦に入るハイア。しかし、やおら立ち上がり、駆け出すクリス。

ハイア「へぇ。オリジナル相手にまだ逃げようとするなんて、健気だねえ。じゃあ・・・、ツバメ、遊んでやれ。」

そう言うとツバメが起動する。

【遊べ=楽しむこと、命令形。キザキ・ハイアの意図を解析=生かさず殺さず、趣向に沿うこと。能力限定解除。命令了解】

ツバメがクリスとの追いかけっこを始める。

クリス「くっ!!私一人にオリジナルなんて頭おかしいんじゃない!!?」

そう言いクリスが柵にしがみつき、越えようとする。と、走ってきたツバメがクリスに目もくれずにその柵を蹴り飛ばし破壊する。いきなり足場を失ったクリスが柵にしがみついたまま頭から落ちる。

ツバメ「・・・。」

クリス「いっつぅ。くっ、そういう趣向ね。」

痛むクリスを見下ろしながらツバメは一歩も動いていない。そして後ろでクリスを指差しハイアが笑っていた。

クリス「いたたっ。施設によくいたわ、アンタみたいなの。アンタみたいな“クズ”が。」

ハイア「ははっそう言わずぅ。まあ私も残念なんですよ。大事な任務だと言われたのに、それが小娘1人を処理する任務なんて。まあ、でも君が抗ってくれて嬉しいよ。これですぐ終わって武勲だなんていわれたら、僕も困惑しちゃいますよ。」

クリス「くっ。私は死なないわ。」

そう言い、もう一度駆け出すクリス。過酷過酷と口にするのは簡単だが、この「お遊び」は過酷としか言いようがなかった。ツバメはどうやら“楽しませる”を“転がすこと”と認識したようだった。次々とクリスが足を置いた場所を壊していく。台を、屋根を、必要とあれば家そのものを。次々に転ばされ、何回目の転倒だろうか?クリスの足は満足に歩けなくなった。

クリス「くっ、足が・・・。」

捻ったようだ、足が内部から痛みを叫び、休息を要求してくる。必死に痛む足に言い聞かせながら歩くクリス。だが、もう彼女の心は痛みに悲鳴を上げていた。

ハイア「ハハッ、思った以上に楽しめたよ。ツバメ、もう良いぞ!!」

そう言うとツバメの腕が剣になる。

クリス「くっ・・・、ここまで・・・なの?」

絶望的な状況にあの日が浮かぶ。施設で行われた「処刑」の日だ。処刑される彼女は泣き叫んでいた。施設の所長はクリスたちにその処刑を見せ付けたのだ。世界に要らない、人類のゴミの末路を。いつかその二の舞になる人間たちに。そして処刑は定期的に開催されていった。その記憶がクリスの脳裏に浮かぶ。

クリス「私だって・・・、私だって!!生きたいのよ、自由に!!」

涙を流しもう来ない未来を思うクリス。ツバメはクリスの目の前に立つ。

ツバメ「命令を執行する。」

眼前のツバメの腕が上げる。ツバメが無表情に命令を執行しようと剣を振り落とす!!しかし、その剣がクリスに達することはなかった。左から「闇」が現れ、そのままツバメをクリスの視界の右方向に弾き飛ばしたのだ。ガギィイイ。衝撃に金属がしわを寄せ、へこむ。そして、間一髪で間に合った「闇」が、クリスに声をかける。

ライラ「これはまた大きな不審者ですね。何者です?」

クリス「ライ・・・ラ寮長。」

涙にくれる彼女にライラはクリスの頬を撫でる。

ライラ「淑女は泣いてはいけません。女が泣くのは男を篭絡するときです。」

無表情のライラにほのかに感情を感じたのはクリスの気のせいだろうか?

ハイア「貴様、何者だ!?」

先程の余裕から一転、ハイアの目の色が変わっている。どうやらライラのただならぬ雰囲気を察したらしい。

ライラ「私立ミズカミ学院専属寮、淑女の塔1~5棟担当寮長ライラ・ガースです、お見知りおきを。」

そう丁寧にお辞儀をする。

ハイア「ミズカミ・・・?あの貴族学校かい?だったら話は早い。その娘を渡してもらおうか。僕はニンギョウ技師で2級なんだ。今、任務で彼女が必要なのさ。これだよ。」

ハイアは紙を差し出す。

ライラ「公印認識。キザキ・ハイア様一行の命令を認識いたしました。」

ハイア「分かれば良いんだよ。」

そう言いハイアはクリスに近づいてくる。クリスは絶望するが、それを責めるのはお門違いだ。マリオネットに感情論など無意味だ。ハイアがライラを通り抜けようとする。が、ライラがハイアの腕を掴んだ。

ライラ「お待ちください。どこに?」

ハイア「そのタチバナ・クリスを捕まえに・・・。」

ライラ「それはできません。」

ハイア「はぁ!?何を言っているんだ!!さっき命令を受諾したじゃないか!!」

ライラ「いえ、あなたに下された命令を認識しただけでございます。タチバナ・クリスは引き渡せません。」

ハイア「国に、いや、UPoGS逆らう気か!?」

ライラ「必要とあれば。私に下された命は『ミズカミ学院の生徒たちの安全と適度な幸せ、そして高い教養と気品の獲得に導くこと』です。それ以外の命令は受け付けれません。」

クリス「寮長・・・。嬉しいけど、後ろの2つと適度な幸せってのは・・・。」

抗議の声を上げるクリスにライラが振り向く。

ライラ「クリス。あなたには気品が著しく欠落しております。急ぎ帰り、気品を獲得してもらいます。」

ハイア「くっ!!茶番を!!だったら貴様も死ね!!反逆罪だ!!」

そう言うとツバメがライラに飛び掛る。ガッシリと組み付くツバメ。そのまま力に任せ押し切ろうとする。しかし、背丈は倍ほどツバメのほうが大きいのにライラはビクともしない。

ハイア「馬鹿な!?」

ギギギイイイ。軋んでいるのはツバメだけだ。ライラはいくらも動かない。

ライラ「投擲。」

そう言うとツバメはあっさり投げ飛ばされた。ツバメの落下点から砂煙が上がる。

ハイア「くっ、パワータイプかっ!!じゃあこれはどうだ!!ツバメ、限界突破!!」

ツバメ「町への被害甚大。命令再確認。」

ハイア「ええ~い、黙って僕の命に従え!!『限界突破』だ!!」

ツバメ「了解。第一段階開放。」

そう言うとツバメの体が光りだす。そして、周りの色々な物を、木を、屋根を、コンクリートを吸引し始めた。そしてツバメは、集まったそれを固め、ライラに投げる!!

ライラ「限界突破発動確認。」

それを間一髪で逃げたライラはそのままクリスの元に走りより、クリスに耳打ちする。

ライラ「危険察知。学園への帰還を決定。」

クリス「ダメよ!!そんなこと!!」

ライラ「学園は治外法権。如何に国と言えど踏み込むことかなわず。」

クリス「ダメッたらダメ!!皆に迷惑かかるわ!!これは皆の命の問題なのよ!!」

ライラ「・・・、了解。ここで、逃亡に移る。」

そう言うとクリスを抱きかかえ、ライラは地を蹴って駆け出した。

ハイア「逃がすなツバメ!!追え!!」

ツバメの背に乗ってクリス達を追うハイア。ライラは曲がりくねった路地を駆け抜けていく。ツバメはライラにさっきの塊を投げ続けている。それをひらりひらりとかわし続けるライラ。だが、「飛び道具」というのは非常に面倒だ。使えるほうと使えないほうでは決定的に違いが出る。

ライラ「クッ。回避行動変更。」

回避の仕方を読まれないようにライラは何度も回避方法を変えていた。移動能力であればライラのほうが早いはずなのに、一向に差が開かないのはこの回避方法の変更が枷になっていた。そして、もう1つの問題が細い路地だ。曲がりくねり、逃げるのにうってつけのように見えても、どうしても直線になる場面がある。逃げ場のなくなった場合ライラたちは圧倒的に不利だ。

ハイア「どうしたぁ!!ツバメ!!全力で追い詰めろ!!」

その命令にもう1段階、ツバメの最高ランクにまで力を引き上げる。

ツバメ「第二段階、解除。」

そして、またあのゴミの発射を始める。

ライラ「回避。」

ライラが今まで同様回避する。特に変わった様子のないゴミがライラを通り過ぎ、近くの壁に当たる。するとそのゴミが内部から爆裂。あたり一帯に破片を撒き散らす!!

迫る無数の刃!!逃げ道がなくなったと判断したライラはクリスを守るようにくるまり地に突っ伏す。

ライラ「防御体制維持。」

ザクザクザクッ!!破片がライラの体に何十と突き刺さる。

クリス「ライラ寮長!!」

ライラ「問題ありません。」

ハイア「もう一丁!!畳み掛けろツバメぇ!!」

ツバメ「了解。射出。」

ブシャーッ!!ツバメは凄まじい量の蒸気を後ろに発しながらもう1度ゴミを集める。

ライラ「この好機、お待ちしておりました。」

そう言うとライラはツバメめがけ走りこむ。

ハイア「撃てっ!!」

ツバメはライラにゴミを投げつける。だが、それに動じずライラはその塊に向けて手刀を打ち込む。手刀がゴミにめり込み、そしてゴミの塊を・・・、スッパ斬った。綺麗に2つに分かれるゴミの山。

ハイア「何!?」

しかし、その代償として右腕をライラは失ってしまう。だが、眉1つ動かさずライラは一直線にツバメに向かっていく。

ガキィイイ!!

狭い道で逃げ場がないのはお互い様だった。走りこむライラにツバメは捕らえられてしまう。今度はライラが力比べを申し込んだ。ありえないことに腕を1本失いながらもライラのほうがツバメを押しこんでいる。握られた部分が紙の様にしわを寄せていく。この信じられない光景にハイアの声が上ずる。

ハイア「なっ、コイツ!!一体どれ程の出力だと言うんだ!?ええいっ、なんとしても止めろ!!ツバメぇ!!」

ツバメ「命令、了解。」

ツバメの体が下に沈み、ライラを体格差を生かし押しつぶそうとする。硬いはずの地面にライラの華奢な足が刺さりこむ。上からの力に地面にめり込んでいくライラの体。

ライラ「・・・。フ・・・ル・・・パワー!!」

ライラがそう叫んだ瞬間にツバメの体が少し揺れ、止まる。そして徐々に・・・、徐々にツバメが上がっていく。

ハイア「馬鹿なっ!?馬鹿な馬鹿な馬鹿なぁ!?ありえない!?」

ツバメの体の上に必死に登っていくハイア。“背”に上らないとどうしようもないのだ。さもないと落ちてしまう。

ライラ「うおおおぉおお!!」

もうすぐツバメが完全に持ち上がろうかというその時。

ツバメ「・・・、行動阻止。」

ツバメのライラの肩を握っていた腕が光りだす。するとその手にゴミが大量に集まっていく。

ライラ「ぐっ。」

ゴボゴボゴボ!!音を立てながら集まるゴミはライラを押しつぶし始める。ゴミがライラに当たり、潰れ、細かく鋭くなったゴミがまたツバメの腕に還り、ライラを苦しめる。

ライラ「ぐぅ、ううう。」

ハイア「いいぞ!!そのまま押しつぶせ!!」

クリス「がんばってぇ!!ライラ寮長!!」

ツバメの全身から蒸気があふれ出す。

ハイア「あちゃあ!?あちっあちっ!!」

ハイアがツバメの体から降りる。ツバメとライラの戦いは今、人間が割って入れない領域に入った。

ライラ「くっ、腕が・・・。」

ツバメにめり込んだ腕が限界がきている。もう、指の形が先端から変わり始めているのだ。

ツバメ「エンジン過熱。各部耐久臨界点。警告発布。使用者にエンジンの再起動を求めます。」

ハイア「ふざけるな!!そのままいけぇ!!」

クリス「ライラ寮長!!負けないで!!寮長~!!」

ライラ「クリ・・・ス。淑女らしく・・・、じょうひ・・・・。」

バシュー!!

その場にいた全員のエンドルフィンが頂点に達した瞬間。両機から霧のような蒸気が噴出し、辺りを包んだ。臨界点に達したらしい。霧の中お互いがそのままぴたりと停まり、あたりは静まり返った。

クリス「寮長?寮長!?」

痛めた足を引きずりながらクリスはライラを探しに行く。霧を進むと・・・。

ハイア「立て!!早く立てッ!!」

ガンガン寝そべったツバメを蹴り飛ばしているハイアの姿があった。その瞬間クリスを後ろから指が捉える。

ライラ「しっ。静かに。」

思わず声を出そうとしたクリスの口をライラが押さえる。

クリス「寮長。良かった、大丈夫だったんですね。」

ライラ「ええ、ですが、今の私はセーフモード状態です。ほとんど人間と変わりません。ですので霧があるうちに逃げましょう。」

そう言うと2人は駆け出した。まずはハイアの視界から消え、道なき道を行く。

ライラ「今日は特別ですからね。決して淑女はこのようなことをしてはいけません。」

クリス「分かってますよぅ。」

大人の足には窮屈な塀の上を歩きながらクリスはぷぅっと顔を膨らませる。

ライラ「きゃっ!!」

ライラが悲鳴を上げる。体制を崩し、よろめくライラをクリスが咄嗟に抱えた。

クリス「もう、寮長ったら、気をつけてくださいね。でも、寮長って案外女の子なんですね。」

ライラ「私はマリオネットです。感情や女の子などとは・・・。」

少しライラの顔が紅い。

クリス「あら可愛い。セーフモードって良いですね。ずっとそのままで居れば良いのに。」

ライラ「・・・。」

夕暮れを過ぎ、闇夜に染まった暗い道を2人は当て所なく逃げて行った。

そして、一方こちらの2人も回復したようだ。

ハイア「やっとか、ふん。次は勝てよツバメ。まあどうせ奴らには限界があるがな・・・。決定的な限界が。」

闇に輝くブラックボディが再起動完了を知らせた。

ツバメ「・・・。」


クリス「ハァハァ。」

ライラ「クリス。大丈夫ですか?痛みますか?」

クリスは立ち止まる。

クリス「ライラ寮長・・・、もう良いですよ。目的地に来ました。」

ライラ「どういう意味ですか?」

クリス「だって・・・。」

ハイア「君には帰る場所などない!!どこにもな!!」

ライラ「ツバメ・・・。」

後ろからハイアとツバメが現れる。

ハイア「君には帰る場所などない!!違うか!?どこに行こうというのか?世界で貴様を匿う国家などあるまいて!!貴様は1人ぼっちだ!!そこに居る愚者と同じくな!!」

指をさすその先には、ベルシステムが居た。

ライラ「我が校の生徒の侮辱は許しません。」

ライラが戦闘態勢をとる。

ハイア「ふん。このままどうしようと言うのか?そうだろう?今やUPoGSの天地平定技術はどこもが恩恵を受ける最高の人道行為だ!!彼らが地球を管理し!!自由に自然を制御してからこそ、飢えも!!気候変動も!!自然災害も!!疫病の発生すらも!!ほとんどなくなった!!逆らえる国家があると思っているのか!!」

ライラ「それと彼女が生きたいと思うことは関係がありません。」

ハイア「それに君も限界だろう?なあオリジナルよ。貴様、契約者不在だろう!!」

ライラ「・・・。」

ハイア「おかしいと思ったんだ。君はオリジナルなのにこちらに能力で応戦してこないのが。オリジナルの最大の能力ってのは、限界突破にある。人間の英知の突破・・・、それが如何に強いか知っているはずだ!!まあ、逆に契約者不在でここまでやれるなんて、不可思議ではあるが・・・。だが、契約者が居なければ、如何に“単に”強かろうとも勝てまい。」

ライラ「戦闘態勢。」

なおも戦おうとするライラの服をクリスが引っ張る。

クリス「もう・・・、良いよ。」

ライラ「・・・。」

クリス「本当に・・・、楽しかった。ここまでこれて嬉しいんだ。」

ライラ「生きたいのでしょう?」

クリス「生きたいさ・・・。でも、ダメなんだよ。私は生きれないんだよ。・・・カ。お父さんのバカァ!!

クリスは自分の財布をベルシステムに向かって投げる。

クリス「あんたが勝ってれば!!私は生きれたんだ!!世界の敵なんかじゃなかったんだ。」

闇に食われながらもベルに娘の声だけはは聞こえていた。

【その通りだ。俺があの時、勝っていれば・・・。】

クリス「負け犬の子は負け犬よ!!」

【ユリ・・・、クリス・・・、もう一度だけ!!もう一度だけチャンスをくれ!!世界を変える・・・チャンスを!!】

そう強く願う。勝利を手に入れたい!!その欲求がほとばしるが、決して感情だけではどうしようもない闇が彼を阻む。

ハイア「気は済んだろう?さあ、父親と同じ人生の終焉の地で、君も終わらせてあげよう。」

クリス「そう・・・ね。」

クリスは1歩進みだす。

ライラ[待ち・・・な・・・さ・・・い、クリス。どう・・・した?神経が・・・遮断していく!?」

クリス「ごめんね、寮長。最後にお父さんの顔が見れてよかったよ。」

ライラ「・・・。グッ、待ちなさい、クリ・・・ス。」

ライラの目がかすみ、クリスを見送る。クリスはライラが分かってくれたと思い、歩き出した。


ライラ「あなたは!?」

声を上げるライラ。目が覚めた場所は知らない世界、闇に覆われた世界だった。ライラはミニチュアのような頭身になっている。

ベル「貴様!!誰だ?」

ライラ「私はライラ。私立ミズカミ学園・・・、いえ、クリスの管理人です。それより外見から察するに、あなたはベルシステム?あなたは停まったはずでは?」

闇の中でも張り付けになっている男に聞く。

ベル「ああ、そうだ!!だが、停まってはいるが死んじゃいない!!」

ライラ「死ぬと停まるは同じですが・・・。」

ベル「いいや違う!!それより、お前がここに来れたってことは外とつながっているってことだよな?」

ライラ「えっ!?ええ、まあ。」

確かにその通りだ。だが、ベルシステムにアクセスした、なんて聞いたことがない。

ベル「じゃあ俺を外に出してくれ!!今ならクリスを助けられる!!」

彼は唯一動く頭をぶんぶん振ってアピールしてくる。

ライラ「しかし・・・。」

相手は世界を、平和を壊そうとした相手だ。そんなに簡単にうんと言えるはずがない。マリオネットのライラでも温情を理解するのは難しいことではないが、それより危険察知がはるかに簡単だ。

ベル「頼む!!お願いだ!!この通りだ!!」

ベルシステムが泣きそうな顔で懇願する。とてもじゃないがマリオネットとは思えない顔をする。

ライラ「どうしても?」

ベル「どうしてもだ!!なんでもする!!」

ライラ「・・・でしたら。」


クリス「・・・。」

ハイア「手間取らせやがって。ふんっ!!」

クリス「きゃつ!!」

顔面を張り倒されたクリスが気を失いそうになる。だが、髪を引っ張られる痛みが彼女の頭の覚醒状態を続けさせる。

ハイア「おいっ!!そっちのオリジナルを壊せ、ツバメ。」

クリス「ライラ寮長には手を出すな!!」

ハイア「うるさいっ!!この無様を世間には晒せんからな・・・。すべての記録を消してやる。まずは貴様の口を・・・、いや、手もか。」

そう言いハイアは剣を抜く。

クリス「くっ。」

くろがねの殺意を前にしても、クリスは目を閉じない。最後まで、見届けようとした。銀色の軌跡を。人生の終わりを。

ツバメ「危険!!危険!!」

何故かツバメがこちらに走ってくる。

ハイア「何をしてる!!早くそいつ・・・を!?」

大きな大きな『指』が眼前に迫っていた。

ベル「おおおおおおお!!」

ベルの指が娘を地面ごと削りながらかっさらい、抱きしめる。

クリス「きゃっ!?いたっ!!ちょっ!!一体何よ!?」

ベル「これが、男の力強さだ!!クリスゥ!!会いたかったぜぇ!!」


ブライト「・・・、来たか。」

「これは!?」

「ベルマトリクス!?」

「馬鹿な!!」

「理解不能。」

その場に集まった者達が口々に動揺を吐露する。その動揺に割ってはいるように声を上げる女。

「沈まれ!!今、ここに第2次統合戦争を始める。」

ここに今、戦争が始まる。


この小説はピクシブの→ ttp://www.pixiv.net/member_illust.php?mode=medium&illust_id=30249119(一番初めにhをつけてください)からイメージされたものです。

このイメージイラストを書いたのは私ではありません。

なので、是非ご覧いただければ更に楽しめると思います。

一応短編の予定です。

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