第三話 (二)
都市サーランドの南西部。
一般的には低収入の者が住まう地区に建てられた、工房が隣接した一軒家にて。
「今回は思ったよりも……いろいろとあったかな」
背に伝わる柔らかさを感じながら独語したのはカイト。
独り言を呟く癖はないけれど、一度に複数の事を経験したために頭の中で整理出来なくて、それが言葉となって漏れ出てしまったのだ。
そんなカイトの現在の様子はというと。自室にあるベッドの横側へと、コートを着たまま仰向けに倒れ込んでおり、今にも睡魔に負けそうだった。
団長の手当てをして、吹雪が止むまで集落で待機していたのは昨日の話。それから夜の雪原を十時間程歩き、ほんの二時間前に都市へと戻ってくる事が出来たのだから、疲労が溜まっているのは当然だ。
間の二時間に何をしていたのかは、カイトが「鍛冶師」である事を思い出せば自ずと分かるだろう。注文を受けたまま放置していた仕事を大急ぎで片づけてきたのだ。
と言っても、八割方の物はすでに完成しており、届けるだけで終わったのだけど。それでも十時間も歩いてから、さらに歩くというのは心底骨が折れる事だったのは言うまでもない。
(このまま……寝ちゃおうかな)
閉じた瞼は貝のように固くて、一向に開いてはくれない。
それに、そっと抱きしめるように包み込んでくれる布団からは離れたくないというのが本音だった。もう少し余力があるならば寝巻に着替えて、布団の中に入りたいのだけど。
(いいや、やっぱり寝よ)
何だか一人で暮らすようになってからだらしなくなった気もするが、その辺りは気にしない。また明日からしっかりすればいいのだから。
しかし、カイト自身は許したけれど、天は許してくれなったらしくて。
「ちゃんと毛布を被らないと……風邪を引くよ?」
突如として咎めるような声がすぐ近くから降ってきた。
すぐ近くと表現したのはカイトが目を閉じていて、正確な位置が分からなかったからだ。だが、頬へと吐息がかかった事を考えると、唇が触れる程に近いのではないだろうか。
そこまで近寄られた事も驚きだが、それよりもカイトを驚かせたのは耳に馴染んだ幼い声だった。
「――ソフィ!」
何年経とうが、どれだけ記憶を失ったとしても忘れ得ない人の言葉を受け取ったカイトは反射的に瞳を開いて、弾かれるように上体を起こす。
すると。
「――急に起き上がらないでよ」
慌てたような声が全方位から聞こえた。
どうやら衝突する事を避けるために、霧へとその体を霧散させたらしい。それを証明するようにカイトを包むようにして、粉雪を思わせる白い霧が漂っていた。
考えもせずに起き上がった事は悪いと思うが、急に霧になるのはどうなのだろうか。さすがに二度見ているために声を出す程に驚きはしないけれど、慣れろという方が無理な話だ。この霧は汚染者には無害だが、人が恐怖する氷雪種を形作るものなのだから。
その正体がソフィだと頭では理解していても、体は正直なもので確認せずとも震えているのが分かる。当然、すぐに言葉を返す事は出来なかった。
「一度、離れるね」
そんなカイトの様子を悟ったのか。
ソフィではない「もう一人」は言葉を届けると共に、白き霧をベッドから一歩開けた距離に集めていく。
(……さっきまでソフィだったのに)
どうやら人の姿になった時はどちらの人格にもなれるらしいが、霧になった際はソフィが前面に出てくる事はないらしい。その理由は分からないが、カイトとしては「ソフィ」と話したいために黙って霧が再び人の姿を形作るのを待つ。
すると、一秒も待たずに集合した霧は、全てを白に統一した、穢れ無き姿を再び顕現させた。その少女が氷色の瞳を開くと同時に――
「おかえり……ソフィ」
カイトは自然と浮かんだ言葉を口に出した。
会話の流れがおかしい事は気づいている。それでも、ソフィが再びこの家に帰って来たというのであれば、まずはこの言葉を掛けるのが自然だと思ったのだ。
それはどうやら間違っていなかったらしく。ソフィは一度大きな瞳を見開いてから、柔らかく笑って。
「ありがとう……カイト」
カイトの言葉を受け取ってくれた。
そんなソフィからは明確な拒絶の意思は伝わってこなくて、カイトの心に微かな希望の光が燈る。しかし、冷静に考えればソフィの言葉が「ただいま」ではない事を思うと、まだ帰ってくるつもりはないらしい。
ならば、おそらく何か伝える事があってここに来たのだろう。
その何かをはっきりとさせるためにカイトは――
「何かあったの?」
一度深呼吸をして心を落ち着かせてから尋ねた。
すると、ソフィは表情をそのままに、視線だけをカイトの左隣へと向けた。どうやら立ち話ではなくて、座って話したいらしい。当然、断る理由のないカイトは頷く事で肯定の意思を伝える。
一年以上も離れていたために躊躇するのかと思ったが、ソフィは気にした様子もなく小柄な体を前方へと押し進めて、ゆっくりと小さな口を開いた。
「何かがあったというよりも……何かが起きようとしているというのが正解かな」
だが、届いた言葉を理解する事は出来なかった。ただの一般人であるカイトは各国の動きには疎いためだ。
それを知っているソフィはカイトの左隣へと腰を降ろすと、小さな体を寄り添うように預けてから再び口を開いた。どうやら分かりやすいように説明してくれるらしい。
「ここフィーメア神国の立場はカイトが思っているよりも……だいぶ悪い。このまま何も対策を打たなければ……短くて数日の間に滅びるよ」
しかし、ソフィの声は今まで聞いた事もないくらいに冷たかった。
内心では本当にカイトの知っているソフィなのかと、そんな疑問が自然と浮かんでしまう程に彼女の様子は変わっていたのだ。
だが、冷静に考えれば一国が滅びると宣告したのだ。声が固くなるのは自然だろう。それは分かるのだが、一年前まではのんびりとしていた彼女がこうも変わってしまうという事実がカイトを不安にさせる。
それでも、その不安に負けずにカイトは――
「北が動くの?」
内に浮かんだ疑問を口に出す。
僅か数日の間に滅ぶ理由など、北の強国が動く以外には有り得ないと思ったからだ。
「うん。防戦しかしないのであれば、確実に。今まではグシオン連合国が動く度に『氷結の歌姫』と呼ばれる……もう一人の私が氷雪種の力を借りて止めていたんだけどね。でも、それも限界がある。私達は人外の力を保有しているけれど……絶対者ではないから」
問いを受け取ったソフィは悔しそうに表情を歪めてから、言葉を返してくれた。
おそらく「血染めの舞姫」を止めるだけでも手一杯なのだろう。それに加えて二、三万の軍勢が派遣されれば手に負えない事は、軍略に疎いカイトでも分かる事だ。
ソフィは「思っているよりも状況が悪い」という控え目な表現をしたが、今思うと状況は最悪と言ってもいいだろう。
そう。
言うならば、死刑宣告をされたようなものだ。カイト達の死はもはや決定事項で、あとは殺される日を待つだけだと言っているのである。おそらくこの事実を知ってしまえば八割方の者は諦めて死を受け入れるか、それとも自棄を起こして最後の抵抗を試みるだろう。それか一か八か他国へと逃げるのかもしれない。
だが、カイトの青い瞳は揺らぐ事はなかった。自身が動く理由も、戦う理由もはっきりとしているからだ。
だからこそ、カイトは――
「僕は何をすればいい?」
迷わず自身に体を預けている少女に確認する事が出来た。
ソフィはただ身の危機を知らせに来た訳ではない事は分かっているからだ。カイトに何かをして欲しくて、いいや、手伝って欲しくてここへと来たのだ。
ならば、何でもやってあげたいと思う。今でも彼女はカイトの唯一の家族で、そして自身の命よりも大切な人なのだから。
「まだ何も言ってないのに……分かってしまうんだね。なら、簡潔に言うよ。カイトには聖王国ルストに向かって欲しい」
カイトの心の内はちゃんと伝わったらしくて、問いを受けたソフィはようやく本題を切り出した。聖王国ルストとはフィーメア神国の南西に位置する国家の名だ。
その国の王に会って、援軍の要請をして欲しいという事だろう。確かに順調に領土を拡張している聖王国が動けば、グシオン連合国の動きも制限されるだろう。幾ら兵力で勝っていようとも二面戦争をする事は危険過ぎるからだ。
そこまでは何とか理解出来たのだけど。
「どうして、僕なの?」
なぜただの一般人であるカイトを指名したのかが分からなかった。
まさか知り合いだから頼みやすいと言う訳でもあるまい。可能性があるとすれば、カイトを通じて団長を動かしたいのだろうか。
「聖王国ルストの王は汚染者なの。だから、カイトの話ならば……一応は聞くと思う。あとは説得に長けた者がいれば可能な筈」
どうやらカイトが考えていた事は間違ってはいなかったらしく、ソフィはどこか言いにくそうに言葉を返した。カイトを通して、団長に依頼する事が気になるのだろう。
(……そういう事を気にする人ではないよね)
カイトが知り得る貴族という存在は横柄で人柄が悪い者ばかりだけれど、団長だけは例外だ。しっかりと筋道を立てて話したならば、二つ返事で了承してくれるだろう。
それに聖王国ルストの王を説得する自信はないが、ここで立ち止まっているよりかは何かをするべきだと思う。自身でも強引に結論付けたと思うが、カイトがやるべき事はしっかりと見えて。
「僕に出来る事をするよ。説得に長けた人も……一人知っているから」
その道を歩むために、あえて明るい声を発する事を選んだ。
これ以上、ソフィが不安にならないように。唯一の家族がもう一度カイトを頼ってくれるように。それはある種の祈りにも似た言葉だったようにも思う。
「ありがとう。私は絶対に戦いを止めるよ。絶対に……絶対に諦めないから」
その祈りは触れ合う体から伝わったようで、ソフィの声に迷いはなかった。
これならば、もう大丈夫だろう。
それを証明するかのように、ソフィはここでの役目を終えたようで再び霧へと姿を変えていく。またどこかへと行って、刃ではなくて言葉を交わす事で戦いを止めにいくのだろう。その小さな体と心がどれだけ切り裂かれようとも、決して止まる事なく。
出来れば笑って見送りたい。しかし、ソフィに触れていたいと願う気持ちは止められなくて。
「まだ一緒に居て。せめて……僕が眠るまで」
カイトは消え行く少女の体を力の限り抱きしめる。
抱きしめた所で霧となって消えてしまうのだから意味がない事は知っている。それでも、伝えた言葉と想いが少しでも、刹那の時間だけでもいいから愛しい人を止めて欲しいと願ったのだ。
その気持ちは確かに伝わったのか――
「しばらく会わない内に立場……変わっちゃったね」
ソフィは柔らかい言葉を返すと共に、再び霧を集合させていく。
どうやらこちらの要望通りに眠るまでは側にいてくれるらしい。カイトはソフィの優しさに感謝しつつ、受け取った言葉を頭の中で反芻する。
以前はソフィが甘える事でカイトを困らせていた。だが、今はカイトがソフィを困らせているように思う。そういう意味では立場が変わってしまったと言ってもいいのかもしれない。
それは年上としては恥ずかしい気がするけれど、今はそんな事は気にしていられなかった。再び二人の家で共に過ごせるならば、それでいいのだ。
「今日だけは……許して」
そう強く願ったカイトは、心の内を素直に伝える事にした。
今日だけは唯一の家族に甘えたい。そうすれば、また前を向いて歩いていけるから。
「うん。分かってる。でも、まずは着替えようか」
そんな事を思っていると、ソフィは抱きしめられながらも、カイトが着用している白いコートを引っ張る。そう言えばコートを着たまま寝ようとしていたのだった。
なんだかこの小さい少女がお姉さんになったようで悔しく思うカイト。しかし、それも悪くはないと思ってしまう自分も確かに存在していて。
「そうだね。でも、いなくなったら駄目だからね!」
ソフィの提案に素直に従うと共に、霧となって逃げないように鋭く警告する。もし逃げようものならば、次は容赦しないと言外に含ませながら。
「今日は逃げないよ。だって、私も昔のように……カイトの温もりに抱かれながら一緒に眠りたいから」
しかし、その警告は必要なかったらしい。頬を赤らめて呟くソフィの言葉は嘘偽りのないものだと思ったからだ。少し大人びたけれど、結局ソフィの根本的な部分は何も変わってなどいなかったのである。
その事実に安堵したカイトは立ち上がりながら、コートを脱ぎ去って。スキップでもしそうな程に上機嫌な足取りで、就寝着が収納してある木製の箪笥を目指して歩いていく。
と言っても、自室の右端に置かれた箪笥へは、三歩で辿り着く事が出来るのだけど。その行程を歩く中で感じたのはソフィの温かな眼差し。まるで見守るような、包み込むような視線は心に溜まった数多の重みを吹き飛ばしてくれる程にカイトの心を強くしてくれる。
その瞬間にはっきりと分かった事は、やはりカイトはソフィがいないと駄目なのだ。団長や皆はカイトに良くしてくれる。だが、心を元気にしてくれる事も、日向ぼっこをしている時のように「ぽかぽか」した気持ちにさせてくれる事もないのだから。
それがはっきりと分かったカイトは――
「絶対に取り戻すから」
淡い黄色の就寝着を箪笥の一段目から取り出すと共に、強い言葉をソフィに送る。
正確に言うならば、ソフィと共にある「氷結の歌姫」へと。
そう言えば、彼女がカイトをどう思っているのかを聞いた事がない気もする。この際聞いてみるのもいいかもしれないけれど、果たして出てくるのか。
そんな事を考えていると。
「目的を果たしたら……ソフィに体を返すよ。でも、叶うなら……私も一緒に歩んでいきたいかな」
大人びた声がカイトの背へと届いた。
背中へと届く視線はどこか遠慮がちで、雰囲気も大人びている所を思うと、どうやら「氷結の歌姫」が前面に出てきたらしい。よく顔を見せられたものだと内心では怒りを覚えるが、ソフィが望んで一緒にいるのだから文句は言えないだろう。
「一緒に? つまりはここで暮らしたいの?」
だからこそ、カイトは必要な事だけを問う。
「そう。あなたとソフィと……私で。でも、私は前面には出ないようにするから……それでは、駄目かな?」
すると、彼女は遠慮がちだけれど、強い口調で言葉を返してきた。
どうやら悪気があって言っている訳ではないらしい。彼女もカイト同様に、この世界から居場所を失った存在なのだ。寂しいと思うのは自然なのかもしれない。
それは汚染者として差別をされているカイトにはよく分かる事だ。そして、理解ある者達が側にいれば笑う事が出来る事も確かである。と言っても、後者については最近知った事であるために、そう偉そうに言う事は出来ないのだけれど。
(団長は受け入れてくれた。なら、僕は……どうすればいいのだろうか)
彼女を拒絶して突き放すか、それとも受け入れるのか。
結局、悩んだのは数秒だった。汚染者の一人であるカイトが拒んでしまえば、汚染者と人、そして恐怖の象徴たる氷雪種が分かり合う事は出来ないと思ったからだ。
「分かったよ。でも、僕とソフィの生活を壊したら――追い出すからね!」
しかし、二人の生活をこれ以上崩される訳にはいかないカイトは、一つの条件を投げつける。それだけでなく、就寝着を胸に抱きしめながら、振り向くと共に氷色の瞳をしっかりと見据えた。
彼女の心の内を少しでも理解するために、そしてこちらの気持ちを正確に伝えるために。重なった瞳から伝わってきたのは、喜びと悲しみ。共にいられる事を喜ぶと共に、カイトが無条件に受け入れてくれない事を悲しんでいるのだろう。
「それは分かっているよ。それなら……私は消えるね」
しかし、すぐには距離が縮まない事を知っているのか。彼女は一度柔らかく笑って、ソフィへと変わろうとする。
そんな寂しげな彼女へとカイトは――
「なんて呼べばいい?」
単純な事だけど、最も大切な事な問いを投げた。
赤の他人には不要な事だけど、共に暮らすためには欠かせないものだと思ったからだ。
しかし、問いを受け取った彼女は透き通った瞳を一度見開く。まさか名前で呼んでくれるとは思っていなかったようだ。
「それは嬉しいけれど……困るかな。私は氷雪種の集合体から外れた存在。正直な事を言うなら……名前はないよ。でも、呼ぶのに困るなら『歌姫』と呼んで欲しい」
しばし悩んだ彼女は滑らかな左頬に手を置いて、結局は世界から呼ばれている名前の一つを提示した。それは名前ではない気がするけれど、本人が指定するならば従うのがいいだろう。
「なら……またね、歌姫」
という事で、さっそく名前を口に出してみる。
しかし、口から漏れ出た言葉はやはり違和感があるような気がする。それでも悪い気はしなかった。その理由はベッドに座る歌姫が、まるで花が咲いたような笑顔を浮かべていたからだ。
(……話してみないと分からない事ってあるよね)
数分前までは歌姫に対して怒りの感情があったが、直接話をして笑顔を垣間見る事が出来れば、気持ちも変化するから不思議だ。これは単純にカイト自身が冷徹になれないだけなのかもしれないけれど、こうして対話をする事で人は手を繋げるのかもしれない。
そして、これが彼女達の目指す事なのだろう。今まで頭で理解しようとしても無理だった事も、こうして経験すれば誰にでも分かる事だ。明日には隣国の王に会うだけでなく説得しなければならないカイトにとっては、最も大切な事を教えてもらった気さえする。
「あなたと話が出来て良かった。そろそろ代わるね。さっきからソフィが出たがってるから」
ある意味では感謝をしたい相手である歌姫は、内にいるソフィと会話して苦笑いを浮かべている。一体何を話したのか気にはなるが、カイトにとってはソフィの方が大切なために一つ頷くと共に歌姫を見送る。
すると。
一度瞳を閉じた彼女の雰囲気が一瞬で変化する。今までの触れたら壊れてしまうような儚げな雰囲気から一転して、人懐っこさを感じさせる温かい雰囲気へと。
しかし、その温かさを感じさせる少女は頬を膨らませてご立腹な様子。
「どうしたの?」
何か怒らせるような事をしただろうか。
もしかしたら歌姫と仲良くなった事が原因なのかもしれないけれど、それはソフィに聞いてみないと分からない。
「知らない」
しかし、ソフィは風船のように膨らませた頬を背けてしまった。
彼女は確かに怒っている。けれども、その姿すら可愛らしく見えてしまうカイトは、彼女の事をどこまでも愛おしく思っている証拠だろう。
「機嫌を直して。僕は……ずっとソフィの事を想っているから」
その気持ちを伝えるために、手早く着替えたカイトは脱いだ服を畳む事もしないで早足に彼女の正面に立つ。
その瞬間にソフィは窺う様な瞳を一度向けてきたが、背けた頬はこちらを向いてはくれなかった。
(……ソフィも子供なんだから)
そんな彼女に内心で苦笑しながらも、カイトは壊れ物を扱うように愛しい人をそっと抱きしめる。拒絶されるかと思ったが、ソフィは無言のまま抱き返してくれた。
その温もりをずっと覚えていられますように。そう祈ったカイトは一度ソフィを解放して、久しぶりに二人揃って一つのベッドに潜り込んだのだった。




