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いつもの丘で、輝く星々

 ――パシャリ。

 自然の音、光、そしてカメラのシャッター音。僕は、この時間が大好きだ。誰にも邪魔されない。何も文句を言われない。――僕にとって、友達と言えるのは、このカメラだけだ。誰にも、この時間の――邪魔なんか、させない。


「うん。やっぱりこの場所は最高だ」


 僕の目の前に、広がるのは赤、赤、赤、赤、……時々、黄色に、緑。そして、すべての色が闇と手をつないでいる。ここは――秋の、真夜中の森の中にある丘だった。

 僕は、毎日写真を撮って過ごしている。……え? 仕事はどうしたのかって? してるよ。こう見えて、お金には困っていないんだ。


 23歳、独身男性、仕事は居酒屋をこの丘の近くで開いてる。名前は――夜神 舞代(やがみ ましろ)。今、この一瞬一瞬を必死に生きている、何の変哲もない人間だ。


 ――パシャリ。パシャ、パシャ

 ここへは毎日来る。そして、ここの写真を撮るのが、今の僕のルーティーンだ。朝日が出てくるくらいの朝早く、月が堂々としている、夜。雨の日も、雪の日も、世界が真っ白に染まっている日も、小さな光が世界を照らして飛んでいるときも。――必ず、一日に一回はこの丘の写真を撮る。


 ……本当は、もっとたくさんの場所に行って、たくさんの景色と、一瞬と出会ってみたい。もっと、たくさん輝く時を記録して、店の壁に飾るんだ。きっと、その一枚の時から、音も、光も、風も、匂いも、あふれ出てくるんだろうな。


「坊や、一人?」


 急に声が聞こえてきて、僕はビクッと体を震わせる。


「坊や……って、僕の事ですか?」

「そうに決まってるじゃない。だいたい、こんなところに来る人はほとんどいないし。今だって、ここにいるの、私達だけよ?」

「……確かに!」


 きれいな、女性だった。白く、透き通った肌に、輝く黒い髪。白いワンピース姿で、帽子をかぶっていた。手には……大きなスケッチブックと小さな箱。きっと、この箱には画材がたくさん入っているのだろう。


「私、玉響 犀良(たまゆら せいら)。貴方の名前は?」

「せ、犀良、さん。いい名前ですね。僕は、夜神 舞代って言います。年齢は、23です。……なので僕、坊やじゃ、ないです」

「ホントだ。っていうか、年齢も一緒だし。敬語じゃなくっていっか。ところで、舞代君。君は何の仕事してるの?」

「この辺にある、夜露亭(よつゆてい)っていう、居酒屋、知ってる?」

「あぁ、あそこ。今からいこっかなーって思ってた居酒屋なんだよね」

「僕、あそこの店長やってます。まだ大学卒業したばっかりで、未熟者だけど、親父の後を継ぐようにこの居酒屋をやってるんだ」


 そう。僕の親父――夜神 桃里(やがみ とうり)は、この居酒屋、夜露亭を始めた張本人だった。こじんまりとした店で、決して広いとは言い切れないが、地元の人から愛され、この街に、なくてはならない場所になっていた。でも、ここしばらくはやっていなかった。


「え⁉ そうなの⁉ よく行っていたんだけど、急にあかなくなっちゃったから、心配してたんだよ。今日は、早めに仕事を上がれたから、行ってみようかと。あいてたら、いいなって、軽い気持ちで。」

「そうだったんですねぇ。……今日はあと、約一時間後に開店する予定だから、よかったら一緒に行かない? ……まあ、僕はもうちょっとここの写真を撮っていこうと思ってるから、どっちにしろもうちょっと待ってもらうことになっちゃうけど。」

「もちろん! 私ももうちょっとここにいたいから。…………舞代君、さ」

「ん?何」

「写真、好きなんだね。」


 僕は、この丘の写真を店の壁に飾っている。しかも、毎日変えているため、『今日の丘コーナー』と、常連さんに言われるほどだ。それだけ、僕は、写真が好きなんだ。


「うん、大好き。今、この瞬間しかない時間を、この紙一枚に収めることができる。この風景の、光も、匂いも、音も、この時の思い出も、全部閉じ込めておける。そして、見た時に一気にその感触がよみがえる。これって、とっても素敵で、繊細で。…………すごいことだと思うんだ」

「ふふっ。語るねぇ。でも、私は、舞代君の写真愛と同じくらいの愛情を、絵に持ってるよ。」


 確かに、スケッチブックを持っているから、絵は好きなんだろうな、とは思っていたが、これほどとは。僕の写真への愛情が異常なほど高いことは自覚していたため、少し――いや、かなり驚いた。


「そういう犀良さんこそ、僕と同じくらいの愛情を持っているなら、これ以上に語れるでしょう?」

「まあね。……そうだ。舞代君、君の写真、見せてよ。」

「いいけど……たくさんの場所に行ってないから、全部この丘の写真だよ? それでもいいならいいけど。」

「もちろん! 見せて、見せて!」


 見せて、と言われたので、カメラを渡そうと思ったが、まずは自分のバックの中身をあさる。


「絶対に、ここで写真を撮る時は、一回は必ず、チェキとかでとって、形として残すようにしてるんだ。まあ、カメラで撮った写真も印刷するつもりではあるけど……。やっぱり、こうした方が趣があるっていうか、なんだかうれしいというか」

「それ、めちゃくちゃわかる。いいカメラで撮るのもいいけど、チェキとかでとると、なんというか、味があって、それはそれでいいものになる」

「そうそう! うっわ~。めっちゃ嬉しい。こんなに話が合う人とまさか、自分のお気に入りの場所で出会えるなんて。」


 話をしながら、バックの中からフォトアルバムを取り出す。


「家にあと、10冊くらいあるんだけど、ここにはこの2冊しか持ってきてないなぁ」

「十分すぎます……っ! …………うっわぁ!すごい! すごいよ、舞代君! 全部、同じ場所の写真とは思えない。色合いも、雰囲気も、何もかもがその時の一瞬を物語ってる……!」

「そういってもらるなら、撮ったかいがあったよ。」

「ほんっとに、すごい! ねえ、今日の写真、一枚多めにとって、私にもくれない? 私、本当に感動しちゃった。」


 そういって笑う彼女の笑顔は、宝石みたいに輝いて、アマリリスのように華やかだった。


「いいよ。撮ってあげる。」

「本当? やった! ありがとう、舞代君。」


 ――パシャリ。

 今日の空はいつもより星が輝いて見えた。

 舞う落ち葉、光る星。今までで一番好きな夜TOP3に入るレベルの、心地よさと美しさだった。犀良さんにあげる用と、自分用で、いつもより多めに写真を撮る。


「はい、できたよ。気に入ってもらえたらいいんだけど……」

「ありがとう! わぁ~。さっき見させてもらったけど、この写真が、一番好きかも。宝物にするね!」


 そういってはにかむ彼女が、かわいくて、綺麗で……

 ――――パシャリ


「え? 舞代君、今何撮ったの?」

「あーー。…………犀良さん。」

「え? わ、私? 私なんか撮っても何も出ないよ。ていうか、なんで」


 なんで。

 なんでだろう。きれいだったから?かわいかったから?――――違う。


「なんで、か。それは――なんだか、嬉しそうに、大切なものを抱えるように写真を持って喜ぶ姿になんだか……懐かしさを感じたから、かな」

「なつかしさ……? 懐かしさ、か。そっか。――――思い出して、くれるかな?」

「え?」

「何でもない!」


 最後だけ、聞こえなかった。なんて言っていたんだろう。……まあ、いいか。


「……あっ。そろそろ行かなきゃまずいな……。そろそろ行こうか。」

「えっ。もうそんな時間? 分かった。……そうだ、舞代君。Line、交換しようよ。また、暇なときにでも、お互いに好きな事、語ろ? 次は、私の絵、見せたげる。」

「もちろん! 犀良さんの、絵かぁ。めちゃくちゃ気になる。楽しみにしてる。」

「任せなさい! とびっきりの記憶、見せてあげるから。」


 そういって顔を見合わせ、二人で笑った。十分に笑ったあと、静かに歩き出した。僕たちの秘密基地、『居酒屋 夜露亭』へ。今日も新しい出会いと、刹那の記憶を求めて。

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