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マイアーモンドクリーム----コーヒー好きな剣聖は今日も弟子を鍛えます---  作者: イサクララツカ


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79話 イベルの朝と、拾ってはいけないもの


 イベル港町――宿屋《子豚亭》。

 朝の食堂は、焼けた脂の香りで満ちていた。

 イベル豚の粗挽きソーセージ。  厚切りベーコン。  骨付きハム。  豚骨スープ仕立ての野菜煮込み。  焼き立て黒パン。

「……やはり、イベルは豚だな」

 違いのわかる剣聖は、真顔でうなずいた。

 その向かい。

 アクア。

 浅黒い肌。  長い黒髪。  深い青の瞳。  均整のとれた体躯。

 弟子三人が見ても、明らかに美しい。

 マイがパンをちぎりながら小声で言う。

「……ニベア様、マリア様クラスじゃね?」

 アーモンドが淡々と頷く。

「客観的に見て、同格です」

 クリームはフォークを止め、レイを見る。

 レイを見る。

 アクアを見る。

 またレイを見る。

(師匠……動揺してる)

 アクアは、静かにレイを見つめている。

 あかんやつやな。

 三人は女の勘で理解した。

 当のレイは必死だった。

「た、助けたのは他意はないぞ? 命が大事だからだ。うん、命は尊い」

 ソーセージを食べながら弁明する五十八歳。

「ええ。感謝しています」

 アクアは穏やかに言う。

「ですが」

 ですが、きた。

 三人の視線が刺さる。

「身寄りがありません。砂漠の民は壊滅しました。私は一人です」

 静かな重さ。

 レイ、視線を逸らす。

「……だから?」

「私も、貴方のパーティーに入れてくれませんか」

 マイ、口に入れたベーコンを吹きそうになる。

 アーモンド、目を細める。

 クリーム、内心で確信する。

(やっぱり)

 マナが深い。

 暗く、濃い。

 普通のダークエルフではない。

(エンシェント……)

 だが。

 気づいていないのは――

「うーん……」

 違いのわかる剣聖、ただいま絶賛迷走中。

「まあ……なんだ」

 レイが頭をかく。

「ついてくるだけなら、自由だからな。可哀想だし、な? マイ」

 マイ、即座にツッコミ。

「猫拾うみたいに言わないでください」

 アーモンド。

「そうですよ。責任が伴います」

 クリーム、冷静に刺す。

「母、いまごろキレてますよ?」

 レイ、完全停止。

「……え?」

「感知してますよ、絶対」

 クリームは真顔だった。

 アクアは静かに紅茶を飲む。

「正妻がいるのですね」

「い、いる」

「強いのですね」

「……強い」

「では、問題ありません」

「いや、ある!」

 三人同時。

「あります!」

 アクアは微笑む。

「私は戦えます。足手まといにはなりません」

 その瞬間。

 空気が僅かに歪む。

 重い。

 マイが小さく呟く。

「……ヤバくね?」

 アーモンド。

「魔力量が異常です」

 クリームは確信する。

(エンシェントダークエルフ)

 しかし。

 レイは気づかない。

「まあ……修行だと思えば」

 三人が同時に叫ぶ。

「軽い!」

 レイは頭を抱えた。

 イベル。

 ここは、ニベアとの思い出の地。

 喧嘩もした。  笑いもした。  何度殺されかけたかわからない。

 そんな場所で。

 まさかの砂漠姫。

「……やらかしたな」

 マイがぽつり。

「完全にやらかしましたね」

 アーモンド。

「師匠、覚悟は?」

 クリーム。

 レイは、遠い目でソーセージを噛んだ。

「……違いが、わかってしまった」

「何がですか」

「女の怖さだ」

 三人、ため息。

 アクアは、レイを見つめたまま言う。

「私は離れません」

 静かで、強い宣言。

 子豚亭の朝。

 豚料理の香りの中で。

 違いのわかる剣聖は――

 本当の意味で、違いがわかってしまったのだった。

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