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マイアーモンドクリーム----コーヒー好きな剣聖は今日も弟子を鍛えます---  作者: イサクララツカ


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52話 サルコジに帰る舟


 骨はすべて片づいた。

 教会墓地も、町の路地も、昨夜の赤い月の名残は綺麗に消え、

 グラスの町は、何事もなかったかのように“日常”へ戻っていた。

 ギルド本部。

 木製のカウンターの向こうで、グラスのギルドマスターがため息をつきながら、分厚い帳簿に印を押す。

「……はい、討伐証明書。

 数は……まあ、数えない方が幸せでしょう」

「ですね」

 レイは静かに受け取り、懐にしまった。

「C級って書いていいんですか?」

 クリームが小声で聞く。

「書類上はC級です」

「書類上“は”!」

 アーモンドが即ツッコむ。

「魔将が関与してる時点でおかしいだろ」

「そこは空気を読むのが大人です」

 マイが真顔で言った。

「大人って便利な言葉ですね」

 レイはコーヒーを一口飲み、うなずいた。

「便利だ」

 ギルドを出ると、港はすでに賑わっていた。

 魚の匂い、潮の香り、荷下ろしの掛け声。

 定期船オーサル号は、いつも通り、少し年季の入った船体で待っている。

「帰るぞ」

「はーい」

「やっとサルコジだ」

「暑いけど、家はいい」

 四人はタラップを上り、甲板へ。

 船が離岸すると、港町グラスはゆっくりと遠ざかっていった。

 レイは船尾に立ち、いつもの場所でコーヒーを淹れる。

 剣聖特製ブレンド。

 豆はサルコジ産、焙煎は自己流、精神安定効果は抜群。

「……終わったな」

 誰に言うでもなく、そう呟く。

「終わりましたね」

 クリームが横に来た。

「でも、またすぐ何か起きますよね」

「起きる」

「即答!?」

「世界だからな」

 アーモンドが腕を組んで、海を見ながら言う。

「でも、悪くない冒険だった」

「骨まみれだったけどな」

 マイが笑う。

「盾、持ってきてよかった」

「次は何作るんだ?」

「……まだ秘密」

「不安しかない」

 船尾から見えるグラスの町は、陽光を受けて静かに輝いていた。

 その港町を――

 一人の女性が、じっと見つめていた。

 丘の上。

 カレー公爵領の高台。

 風になびく赤金の髪。

 鍛え抜かれた肢体を包む、ジャンヌバルキリー騎士団の装束。

 その背中には、槍。

「……いた」

 ミレインド=ジャンヌ。

 通称、弾丸突撃のミレイ。

 ジャンヌ帝国最強の女騎士団、バルキリー騎士団団長。

 突撃を愛し、正義を貫き、恋愛は禁止。

 ――の、はずだった。

「見つけた……」

 ミレイは、船尾に立つ男をはっきりと捉えていた。

 長身。

 無駄のない動き。

 コーヒーを飲んでいるのに、剣の気配が消えていない。

「剣聖……レイ……」

 騎士団の中で密かに囁かれる名前。

 勇者ウォーレン派と剣聖レイ派に分かれた時、

 ミレイは、迷いなく“レイ派”だった。

「……ふふ」

 自分でも驚くほど、自然に笑みがこぼれる。

「恋愛禁止、ね……」

 誰に言うでもなく、呟く。

 オーサル号は、水平線へ向かって進んでいく。

 その背中を、ミレイはしっかりと目に焼き付けた。

「次は……ジャンヌで会いましょう」

 その声は、風に溶けた。

 船尾で。

 レイは、なぜか一瞬だけ背筋に走る気配を感じ、振り返る。

「……?」

「どうしました、先生?」

「いや……」

 遠ざかる港町には、もう誰の姿も見えない。

「気のせいだ」

 レイはそう言って、コーヒーを飲み干した。

 サルコジに帰る舟は、穏やかな波を切り、

 次の“日常”へと進んでいく。

 そして、物語は――

 静かに、次の再会へ向かっていた。

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