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マイアーモンドクリーム----コーヒー好きな剣聖は今日も弟子を鍛えます---  作者: イサクララツカ


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50話 晴れ時々ネクロマンサー


 赤い満月の下。

 グラスの港町は、今日も平常運転――ではない。

 骨の洪水。

 レイスの雨。

 ゾンビの地鳴り。

 そして墓地の中心で、恋に拗らせた魔将がくるくる踊っている。

「……晴れ時々、ネクロマンサー」

 クリームが泣きそうな顔で、天気予報みたいに呟いた。

 晴れの日に出てくるな。雨でも出てくるな。せめて引っ込め。

「天気予報って、こういう時に使う単語じゃないと思うんだが」

 アーモンドが言いながら、目の前のゾンビを真っ二つにした。

 腐臭がぶわっと広がる。

「くっさ! 先生! これ絶対、洗濯落ちないやつ!」

「落ちないのは人生だけだ」

「先生、今いいこと言った風にしないでください!」

 マイはもう笑っていた。

 笑うというより、テンションが壊れてる。

「骨、軽い! でも数、重い! でも楽しい!」

「楽しむな! 慣れるな! 才能を変な方向に伸ばすな!」

 しかし、マイは止まらない。

 魔神の戦槌――三回に一回、必ず会心(改心じゃない)を叩き出す凶器を、ぶん、と振り抜いた。

 ゴォン――!

 骨の群れが、波しぶきみたいに吹き飛んだ。

 スケルトンが砕け、ゾンビが転がり、レイスが嫌な声で霧散する。

「道、できた!」

「道ってレベルじゃない! 舗装した! 骨で!」

 マイが走る。

 “ボーンまでの道”を切り開く――その言葉が、そのまま現実になっていた。

 アーモンドは、マイの背中を守るように横に並ぶ。

 ロングソードを振り、斬って、斬って、斬り刻む。

「……騎士団で習ったのは、行進と礼儀と、王族を守ることだったんだけどな」

「今、町を守ってる! 偉い! 臭いけど偉い!」

 クリームは遅れない。

 エンシェントハイエルフの血を引く者として、ここで“雑魚処理”に埋もれるわけにはいかない。

 杖を握り、胸の奥の魔力を引き上げる。

「――聖なる光よ、迷える魂を還せ……ホーリー!」

 白い光が広がり、レイスの雨が、ふっと消えた。

 浄化の光は優しいのに、効果は容赦がない。

「効く! 効くけど! 詠唱、長い!」

「それ修行! 修行だから!」

 マイが叫ぶ。

「クリーム! 詠唱長いのは才能じゃない! 努力だよ努力!」

「分かってる! 分かってるけど今は短くしたいの!」

 死者の群れが、また密度を増した。

 墓地の中心――ボーンが、楽しそうに指を鳴らしている。

「もっと! もっとよ! 彼がどこかにいるなら――数で当てるの!」

「だからガチャやめろって!」

 アーモンドが叫んだ瞬間、地面が裂け、骨が噴水みたいに湧いた。

「湧くなぁぁぁ!」

 だが、レイは淡々としていた。

 この光景を、どこか遠い目で眺めながら――前に出る。

 手には、世界樹の棒(先生いわく“硬い木”)。

 淡い青白い光が、棒の表面をなぞるように揺れている。

「……先生! その棒、光り方が神話なんですけど!」

「棒だ」

「棒の主張が弱い!」

 レイは、死者の群れを避けるでもなく、切り開くでもなく――“通る”。

 棒を軽く払うたび、死霊が霧散していく。

 道は、弟子が作った。

 最後の“間合い”だけは、剣聖が奪う。

 そして、レイが――ボーンに届く距離へ入った。

 墓地の中心。

 赤月に照らされるネクロマンサーは、生前の姿で微笑む。

「剣聖レイ……来たのね。あなた、恋が分かる?」

「分からない」

「そこ、昨日も聞いた!」

「分からないから、止める。町の迷惑だ」

 ボーンは頬を膨らませ、くるりと回った。

 その動きに合わせて、死者の群れがざわめく。

「迷惑? 恋は迷惑じゃないわ。恋は――世界を動かすの」

「世界は動かしていいが、墓は掘るな」

「墓は掘ってない! 掘り返してるだけ!」

「もっとダメだろ!」

 後ろから、マイが叫ぶ。

「先生! ツッコミのキレがいつもより良い! 恋の相手が骨だから!?」

「余計な分析するな!」

 クリームはホーリーを撃ちながら、必死に距離を詰める。

 アーモンドはゾンビの波を裂き、マイの背中を守る。

 ――弟子たちが戦線を維持している。

 だからこそ、剣聖は“首”に手が届く。

 レイは棒を構えた。

 剣ではない。聖剣でもない。

 ただの棒――のはず。

 でも、棒が光る。

 光は、死霊だけを嫌うように澄んでいる。

「ボーン。最後に言う。帰れ」

 ボーンの目が、貪欲にきらめいた。

「嫌。私は今日こそ叶える。赤月は、私の味方だもの」

「赤月は、単に魔素が濃いだけだ」

「ロマンがない!」

「ロマンで町を埋めるな!」

 ボーンが手を振ると、骨の壁が立ち上がった。

 レイの前に、スケルトンが何十体も“盾”のように並ぶ。

「ほら、彼に会うまで、誰も通さない」

「盾にするな、他人の骨を」

 レイは、棒を――軽く、叩いた。

 パァン。

 乾いた音。

 骨の壁が、まとめて霧散した。

 ボーンの笑顔が、一瞬止まる。

「……え?」

「棒だ」

「棒の圧が強い!」

 その隙を逃さず、レイは一歩踏み込む。

 間合いの中。

 ネクロマンサーにとっては、最悪の距離。

 ボーンは笑みを戻し、指を鳴らす。

「なら、私も――近接よ。恋の貪欲は、しぶといの!」

 空気が冷えた。

 死霊の気配が、ボーンの周囲に凝縮する。

 レイは、棒を下げたまま言った。

「弟子たち。次で終わらせる」

「先生、だいたい“次で終わる”って言う時、終わらないんですよ!」

「終わらせる」

 言い切った瞬間、棒の光が強くなった。

 青白い光が、月光とぶつかり合うみたいに揺れる。

 ボーンは目を細め、笑った。

「……いいわ。あなたが“恋”を知らないなら――教えてあげる。骨で」

「教え方が物騒すぎる」

 弟子三人が同時に叫ぶ。

「先生ぇぇ! 早くぅぅ!」

 レイは、静かに息を吐く。

 そして、棒を――構え直した。

 次の瞬間。

 墓地の中心で、光と死霊がぶつかる。

 ――恋の貪欲を、叩き折るために。

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