表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
マイアーモンドクリーム----コーヒー好きな剣聖は今日も弟子を鍛えます---  作者: イサクララツカ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

42/82

42話 カレーとパンケーキの無限地獄


サルコジ島、剣聖の家。

今日も朝から、良い香りがしていた。

否――良すぎる香りである。

「……うん、今日はクミンを少し抑えて、コリアンダーを前に出した配合だな」

違いのわかる剣聖レイは、満足そうに頷きながら鍋をかき混ぜていた。

鍋の中では、艶のあるカレーが静かに泡立っている。

スパイスは二十種以上。

毎日配合を変え、火入れを変え、肉も野菜も変える。

――結果。

毎日カレーなのに、毎日違う。

「……師匠、今日もカレーなんですね」

アーモンドが、悟りきった声で言った。

「当たり前だろ。今日は“爽やか中辛・島野菜仕立て”だ」

「昨日は?」

「“深煎りスパイス・コカトリス濃厚”」

「一昨日は?」

「“魚介の旨味全振り・シーフード”」

「……一週間前は?」

「覚えてないが、旨かった」

レイは、コーヒーを一口飲んでから、当然のように言い切った。

剣聖特製ブレンド。

精神安定用。

現実逃避にも効く。

「師匠、カレー以外の選択肢は……」

クリームが、か細い声で尋ねる。

「あるぞ」

三人の目が一斉に輝いた。

「ニベアのパンケーキだ」

――沈黙。

「……あの、師匠」

マイが、恐る恐る手を挙げる。

「パンケーキも、毎日ですよね?」

「違う」

レイは真顔で否定した。

「味が毎日違う」

そこへ。

「お待たせ〜」

軽やかな声と共に、ニベアがキッチンから現れた。

今日も化粧はいらない美しさ。

なのにエプロン姿。反則である。

手には、大皿。

そこに乗っているのは――

・ベリーソースのパンケーキ

・はちみつとナッツ

・なぜかチョコ

・なぜか抹茶

・なぜかチーズ

「今日は“多重味覚刺激型”よ」

「毎日、研究成果が更新されていく……」

アーモンドが遠い目をした。

「ニベア様、あの……パンケーキ以外は……?」

クリームが、最後の希望を込めて聞く。

ニベアは、きょとんと首を傾げた。

「え? カレーがあるじゃない」

「それはもう食べてます!」

「なら安心ね」

満面の笑みだった。

マイは、フォークを握りしめながら呟く。

「……ドワーフ的に言うと、

 これは“無限供給による精神摩耗”です」

「鍛錬だ」

レイが即答した。

「食事も修行だ」

「師匠、なんでも修行にするのやめてください!」

三人の叫びが重なった。

だが――。

一口食べる。

「……」

「……あ」

「……うま……」

沈黙の後、三人は黙々と食べ始めた。

悔しい。

だが、旨い。

カレーは今日も完璧。

パンケーキは今日も異常。

ニベアは紅茶を飲みながら、三人を眺めていた。

どこか楽しそうに。

「ふふ。慣れって、怖いわね」

「人は、贅沢に慣れる生き物です……」

アーモンドは哲学者の顔になっていた。

レイは、コーヒーを啜りながら思う。

(平和だな……)

世界では、魔将が動き、国々が軋み、戦争の影が忍び寄っている。

それでもこの家では――

・毎日カレー

・毎日パンケーキ

・弟子の精神が削られている

「……よし」

レイは、静かに立ち上がった。

「明日は――」

三人が身構える。

「シチューにするか」

「「「救世主!!!」」」

ニベアは首を傾げた。

「シチューも、カレーの親戚よ?」

「違います!」

三人の叫びが、サルコジ島の青空に響いた。

その日も、剣聖の家は平和だった。

胃袋以外は。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ