4話 「コーヒー三杯分の本音」
朝のサルトリ村は、今日も鶏がうるさい。
レイは縁側に小さな丸テーブルを出し、コーヒー豆を挽いていた。香りが立つ。気持ちは落ち着く。――落ち着くはずだった。
「面談をする」
レイがそう言うと、正座の二人が同時に背筋を伸ばした。
「はい、師匠!」
「承知しました、レイ師匠」
ドワーフ娘マイ・ジョンソンと、騎士アーモンド・ハイネ。
いきなり住み着いた弟子が二人。状況が雑すぎる。
「……勘違いするな。試験でも詰問でもない。ただ、聞く」
レイはコーヒーを注ぎ、手帳を開いた。簡単なメモ用だ。
「何を?」
「どうしたいか。どうなりたいか。装備。生活。あと……私生活」
「私生活!?」
マイが目を輝かせ、アーモンドは一瞬だけ目を逸らした。
「順番にいく。まず――マイ」
「はい!」
マイは元気よく返事をし、椅子に座り直した。背は低いが、存在感は妙に大きい。
「目的」
「最高の武器を作れる鍛冶師になることです!」
「鍛冶師?」
「はい! でも――」
マイは一瞬だけ言葉を切り、レイを見た。
「剣を振る人の気持ちが分からない鍛冶師は、二流です」
レイはペンを止めた。
「……続けろ」
「だから、剣を学びたい。師匠みたいに、“折れない剣”を振る人の隣で、武器を作りたい」
鶏が鳴いた。間が空いた。
「……動機は?」
「父です」
「ゴヘイか」
「はい。父は、剣を作るために人生を使いました。
でも……壊れたんです。心も、剣も」
マイは笑った。無理に、でも真っ直ぐに。
「だから、私は壊れない武器を作る。壊れない剣士のそばで」
レイは短く頷いた。
「装備は?」
「今は、父の工房の道具と、魔神の戦槌……の系譜です!」
「“系譜”って便利な言葉だな」
「はい!」
「生活」
「朝は鍛冶、昼は鍛冶、夜は鍛冶!」
「休め」
「休みは……考えます!」
「考えるな。取れ」
レイはメモを書いた。
――マイ:過労注意。
「私生活」
「師匠の家に住めて最高です!」
「それは私生活じゃない」
「じゃあ、料理は苦手です!」
「正直でよろしい」
次、とレイは顔を上げた。
「アーモンド」
「はい」
アーモンドは、姿勢を正したまま、静かに息を整えた。
騎士の癖だ。面談でも戦場でも変わらない。
「目的」
「強くなることです」
即答だった。
「具体的に」
「誰かを守れる強さ。
剣だけではなく、判断と責任を含めて」
レイは頷いた。
「動機」
「父です」
「……ああ」
「父は、剣では勝ちました。
ですが、守れなかった。だから、私は……」
言葉が途切れた。アーモンドは拳を握り、すぐにほどいた。
「勝つためではなく、守るために強くなりたい」
「装備」
「現在はロングソードと大盾。重装鎧。
……正直に言えば、機動戦は苦手です」
「自覚があるのは良い」
「師匠の動きを見て、世界が違うと知りました」
「生活」
「規律があれば問題ありません。早寝早起き、掃除当番、警備――」
「村民、鶏と牛だぞ」
「……鶏の警備も、任せてください」
「頼もしいのか微妙だな」
「私生活」
一瞬、アーモンドは詰まった。
「……剣以外、あまり」
「趣味は?」
「……地図を描くことです」
レイのペンが止まった。
「ほう」
「移動、補給、地形。考えるのが……好きです」
「それは趣味としては有能すぎる」
面談は、コーヒー三杯分続いた。
レイは手帳を閉じ、二人を見た。
「結論」
二人が息を呑む。
「弟子として、受ける」
「「はい!」」
「ただし――」
レイは指を一本立てた。
「ここは前線じゃない。
剣も鍛冶も、命を削るが……生活を壊すな」
マイは頷き、アーモンドは深く頭を下げた。
「まずは――家を増築する」
「やっぱりですか!」
「設計、今日中に出します!」
「俺はコーヒーを飲む」
剣聖は静かに立ち上がり、縁側から空を見た。
弟子が増えた。
騒がしくなった。
――悪くない。
「……さて」
レイは呟いた。
「本当に、忙しくなるな」




