表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
マイアーモンドクリーム----コーヒー好きな剣聖は今日も弟子を鍛えます---  作者: イサクララツカ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

38/82

38話 火を使う者たち


 午後。

 サルトリ村の鍛冶工房から、一切マイが出てこなくなった。

 昼飯の呼び声にも反応なし。

 おやつの気配にも反応なし。

 アーモンドが扉を叩いても、返事は「今いいとこ!」の一言だけ。

「……先生」

 アーモンドが、若干引きつった顔でレイを見る。

「マイ、朝からずっと中ですよね?」

「そうだな」

 レイは縁側で、いつものようにコーヒーを飲んでいた。

 違いがわかる剣聖、五十八歳。

 午後のコーヒーは、精神安定剤である。

「鍛冶、楽しいんだろ」

「いや、それは分かるんですけど……

 今、工房の中、音が物騒すぎません?」

 ――ゴォン。

 ――ゴォンッ!

 ――ゴギャァン!!

 空気が震える。

 普通の鍛冶の音じゃない。

 明らかに、「何かを殴り殺そうとしている音」だ。

「……盾を作ってるんだろ」

「盾?」

「漬け物石の」

「まだ言ってる!?」

 レイは立ち上がり、工房の前まで歩いた。

 中は――

 灼熱。

 赤く燃える炉。

 飛び散る火花。

 汗だくのマイ。

 そして中央には、例のオリハルコン製・元漬け物石。

 マイは魔神の戦槌を構え、真剣そのものの表情でそれを見下ろしていた。

「……やっぱり、普通の槌じゃダメ」

 独り言。

「この子、すごく頑固」

 そして――

「だから」

 ゴォン!!

 魔神の戦槌が振り下ろされる。

 オリハルコンが、鈍い金色の光を放った。

 レイは一瞬で理解した。

「……ああ」

 違いがわかる剣聖は、静かに頷いた。

「あれは、魔神の戦槌じゃないと相手してくれないな」

 アーモンドが頭を抱える。

「先生、それどういう基準ですか……」

「職人の世界だ」

 そのときだった。

「レイ!」

 背後から、明るい声。

 振り返ると、転位から戻ったばかりのニベアが立っていた。

 旅装を脱ぎ捨て、すでに袖をまくっている。

「甘いもの食べたい!」

「……はい?」

「パンケーキ!」

 即断。

「今すぐ!」

 ニベアは台所へ直行した。

 ――ドワーフは、鍛冶で火を使う。

 ――エルフは、ケーキで火を使う。

 種族あるあるである。

 台所から、ふわっと甘い匂いが立ち上る。

 バター。

 砂糖。

 小麦。

 魔力。

 料理は壊滅的に下手だが、スイーツだけは神。

 それがニベア。

 アーモンドとクリームが、そっと鼻を動かす。

「……いい匂い」

「修行より、精神ダメージがきますね」

 レイは縁側に戻り、コーヒーを注ぎ直した。

 鍛冶の火。

 ケーキの火。

 それぞれが、それぞれの「生き方」だ。

 工房からは、相変わらず重低音が響く。

 ――ゴォン!

 ――ゴォン!!

「先生!」

 マイの声が飛んできた。

「盾、喜んでます!!」

「……そうか」

 意味は分からない。

 だが、分かろうともしなかった。

 ニベアが、焼き上がったパンケーキを持ってくる。

「はい、コーヒーのお供」

「ありがとう」

 違いがわかる剣聖は、一口食べ、一口飲んだ。

 ……うまい。

「種族って、不思議だな」

 ぽつりと呟く。

 ドワーフは叩き。

 エルフは焼き。

 剣聖は飲む。

 今日も、サルトリ村は平和だった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ