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マイアーモンドクリーム----コーヒー好きな剣聖は今日も弟子を鍛えます---  作者: イサクララツカ


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37話 オリハルコンの漬け物石


 最近、マイの様子が少しおかしい。

 いや、正確に言うと――

 いつもおかしいが、今回は方向性が違う。

 午前の修行が終わり、弟子三人が汗だくで倒れ込み、アーモンドとクリームが地面に大の字になって「し、死ぬ……」と呻いている横で、マイだけが妙にそわそわしていた。

 視線が、ちら、ちら、と一点に向かっている。

 そこだ。

 庭の隅。

 いつもの場所。

 剣聖特製ぬか床の横。

 そして――

 どーん、と鎮座する

 漬け物石。

 何の変哲もない……と、思っているのは人間だけだ。

 マイは、じっとそれを見つめ、腕を組み、うんうんと頷いていた。

「……やっぱり、気のせいじゃない」

 ぽつり。

 レイは縁側で、いつものようにコーヒーを飲んでいた。

 違いがわかる剣聖、五十八歳。

 人生の重要な決断の八割は、コーヒーで決める男である。

「どうした、マイ。昼飯前に哲学か?」

「先生」

 マイは真剣な顔で、ずいっと近づいてきた。

「漬け物石、ください」

「……は?」

 レイは一口、コーヒーを飲んだ。

 吹き出さなかっただけ、成長している。

「いや、あれ石だぞ?」

「はい!」

 元気な返事。

「しかも漬け物用だ」

「はい!」

「大根がうまく漬かるやつだ」

「はい!!」

 全肯定である。

 アーモンドが半目で起き上がった。

「……先生、これ止めたほうがいい気がする」

 クリームも続く。

「嫌な予感しかしません……」

 だがマイは、完全に別の世界にいた。

「だって、あれ……オリハルコンです」

 空気が止まった。

 レイのコーヒーカップが、ぴたり、と止まる。

「……何?」

「オリハルコン鉱石です」

 マイは、さも当然のように言った。

「高純度。混じりっけなし。しかも、鍛錬で歪みが入ってない。あれ、盾にしたら泣きますよ」

「誰が?」

「敵が」

 アーモンドが叫んだ。

「なんで漬け物石にしてるんですか!!」

 レイは顎に手を当て、思い出していた。

 ――そういえば。

 昔、どこかの遺跡で拾った石。

 やたら重くて、やたら硬くて、やたら割れない。

 叩いても刃が欠けるだけ。

 置いといたら、ちょうど漬け物に便利だった。

「……いや、石は石だろ」

「違います」

 マイの目が、きらりと光る。

「金色の金槌が、そう言ってます」

 レイは理解を放棄した。

 ――ドワーフだ。

 ――天才だ。

 ――しかも親子で“金色の金槌”持ちだ。

 ドワーフ王国で二人しかいない、最高位の職人。

 称号じゃない。

 実力のみで与えられる、完全実力主義の証。

 ゴヘイは秀才。

 マイは――天才。

 ニベア並みの天才。

 ただし、天然。

 意味不明なことを言いながら、世界の理を掴んでいるタイプだ。

「……オリハルコンが、盾になりたいと?」

「はい!」

「漬け物石が?」

「はい!!」

 レイは、コーヒーをもう一口飲んだ。

 苦味。

 香り。

 ……まあ、いいか。

「……わかった」

 うなずいた。

 その瞬間、マイの表情がぱぁっと輝いた。

「ありがとうございます!先生!!」

 アーモンドが頭を抱える。

「終わった……」

 クリームも呆然。

「……エルフ史上、初めてです。漬け物石を盾にする人」

 レイは立ち上がり、庭の隅へ向かう。

 巨大な漬け物石。

 オリハルコン。

 世界最高硬度。

 ――大根が、よく漬かる。

「じゃあ、好きに使え」

「はい!!」

 マイは全力で抱きついた。

「この子、喜んでます!!」

「……そうか」

 違いがわかる剣聖は、それ以上考えなかった。

 人生、理解できないことは多い。

 だが、コーヒーがうまければ、大抵のことは流せる。

 今日も平和だ。

 漬け物は、少し軽くなるが。

 ――まあ、盾が一つ増えただけだ。

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