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マイアーモンドクリーム----コーヒー好きな剣聖は今日も弟子を鍛えます---  作者: イサクララツカ


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15話 レイとニベア

庭の空気が、張りつめていた。

 さっきまで月に照らされて穏やかだったサルコジ島の夜は、いまや壊れる寸前の沈黙に包まれている。

 マイとアーモンドは、庭の端で息を殺していた。

「……ねえ」

「なに」

「これ、もう“稽古”じゃないよね」

「うん。“災害予告”」

 二人の視線の先。

 そこに立つのは――

 剣聖レイ。

 エルフ女王にして大魔道士、ニベア。

 そして、その二人に稽古をつける側として悠然と立つ、禁欲のマリア。

 構図がおかしい。

 どう考えてもおかしい。

 マリアは、目を閉じたまま、穏やかに言った。

「いい? 二人とも」

 声は柔らかい。だが、逃げ道はない。

「全力で来なさい。遠慮は不要。

 魔法も剣も、切り札も全部ありでいいわ」

 マイが小さく呟く。

「……全部、って言った」

「言ったね……」

 マリアは、にこりと微笑んだ。

「私の目を開かせたら、あなたたちの勝ちよ」

 レイが、思わず苦笑する。

「……母さん、それ条件が無理すぎません?」

「無理じゃないわ」

 即答だった。

「だって昔――」

 マリアは、少しだけ首を傾けた。

「勇者パーティーになる前の二人、

 カップルで組んでた頃は、もう少しマシだったもの」

 ニベアの耳が、ぴくりと動いた。

「……ちょっと」

「なに?」

「その言い方、誤解を生むのだけれど」

「事実でしょう?」

「事実だけれど!」

 マリアは楽しそうに続ける。

「ほら、あったでしょう。

 二人で付けた中二病みたいなパーティー名」

 レイが視線を逸らす。

「……言わなくていいです」

「えー? 思い出したいわ」

「忘れてください」

 ニベアは、顔を赤くしながら叫んだ。

「《蒼剣と翠星の円舞》!

 そ、それがどうしたというの!」

 マイとアーモンドが、同時に振り返った。

「……今、なんて?」

「聞かなかったことにしよ」

 マリアは、満足そうに頷いた。

「そうそう。それ」

 そして、一歩踏み出す。

「まあ、いいわ。

 ――行きましょう」

 その一言で、世界が切り替わった。

 レイは、一瞬で構えを変えた。

 盾を捨て、二刀流。

 左右の剣が、月光を弾く。

 ニベアは、深く息を吸い――

 魔道フル装備へ移行する。

 賢者の杖が、彼女の手に収まる。

 宝石が輝き、魔力回路が開く。

(……逃げない)

 ニベアは、心の奥で誓った。

(この人の隣に立つと決めた。

 なら、背中は預けない。並ぶ)

 杖を振る。

 無詠唱。

 まずはレイへ。

「強化、加速、反応補正、筋力増幅――全部重ねるわよ!」

「了解!」

 レイの身体に、淡い光が幾重にも絡みつく。

 同時に、ニベア自身にも同系統のバフが重なる。

 ――そして。

 火球。

 いや、火球というには多すぎる。

 小さな太陽のような火の塊が、連続でマリアへ放たれた。

「っ……!」

 マイとアーモンドが、思わず後ずさる。

「ちょ、数!」

「数が多い! 雨みたい!」

 マリアは、動かない。

 ただ――半歩。

 火球の隙間を、信じられない精度で抜けてくる。

「いいわね、ニベア」

 目を閉じたまま、マリアは言う。

「怒りと覚悟が、ちゃんと魔力に乗ってる」

 レイが、踏み込んだ。

 二刀が、同時に閃く。

 斬撃が、重なる。

 マリアの目前。

 ――だが。

「甘い」

 次の瞬間、レイの視界からマリアが消えた。

 背後。

「!?」

 レイが振り返るより早く、

 モーニングスターの鉄球が、地面を叩いた。

 ドンッ!!

 衝撃波が走る。

 ニベアは即座に反応した。

「障壁――!」

 透明な魔法壁が、二人を包む。

 それでも、衝撃は貫通してくる。

 マリアは、少しだけ楽しそうだった。

「いい連携ね」

 ニベアは歯を食いしばる。

(この人……強すぎる)

 それでも。

 それでも――目を逸らさない。

 レイが前に出る。

 ニベアが横に並ぶ。

 剣と魔法。

 昔と同じ――でも、今は違う。

「行くわよ、レイ」

「ああ」

 二人の声が、重なった。

 マリアは、その気配を感じ取り、

 ほんの一瞬だけ、口元を緩めた。

「……成長したわね」

 そして、静かに構え直す。

 目は、まだ閉じたまま。

 世界が、軋み始めていた。

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