約束
芽依ちゃんは、いつも私が欲しい言葉をかけてくれる。そのとき、手元に置いていた青いバラのブローチがこちらを見上げているような気がした。
「他に何か書いてあった?」
感傷的な気分を切り替えるかのように、芽依ちゃんが続きを聞いてきた。
詩はテーブルの上の便箋を眺めながら、メッセージの続きを伝えた。会いに行ける状況になるまで少し待って欲しいということと、可愛い使者がコンタクトしてくれることを伝えた。
ここまで話し終えたとき、芽依ちゃんは何かを悟ったように切り出した。
「詩ちゃん、私ね。ずっと思っていることがあるの。」
「何?芽依ちゃん…」
彼のメッセージに混乱していた詩は、芽依ちゃんの意見を聞きたかった。
「変に思わないで聞いてね。」
「うん、何?」
少し間をおいて、芽依ちゃんはこう話してくれた。
「私ね、いっちゃんが本当に生きて戻ってくるような気がするの。」
詩が思っていた言葉だった。ただ、そんなことはあり得ないとわかっていたので、口に出したことはない言葉だった。
「詩ちゃん、聞いてる?」
詩が沈黙していたので、芽依ちゃんが不安になって尋ねてきた。
「うん、聞いているよ。」
「これは、いっちゃんの一世一代の魔法の予告よ。」
「ありがとう…」
そう答えた途端に涙が溢れてきた。これまで気丈に振舞ってきたが、心の中では、ずっと誰かに支えて貰いたかった。芽依ちゃんの寄り添う言葉を聞いて、その感情が噴き出した。
「詩ちゃん、大丈夫?」
答えることも出来ず、ひとしきり泣いた。電話口の芽依ちゃんはその声をずっと優しく聞いてくれていた。
「ごめん、嬉しくて泣けてきた。芽依ちゃん、ありがとう。」
少し落ち着いてから、こう答えた。
「私もね、いっちゃんとこの世界でまた会える気がしているの。でも、そんなことを言ったら頭がおかしくなったって言われる気がして、誰にも言えなかったの。」
こんな話、親にも出来ないし、会社の人や診療内科の先生に言ったら、また休職になってしまうかも知れないと思っていた。
「詩ちゃんは、私の親友だからね。気持ちはよくわかるよ。」
「本当にありがとう。」
芽依ちゃんという親友がいて本当に良かったと思った。
「この話は誰にも言わないでね。」
「当たり前よ。言う訳ないじゃない。」
「それにしても、その可愛い使者って誰のことなんだろうね。」
芽依ちゃんは、話題を手紙の内容の話しに戻した。
「私もそれが気になっていた。誰なんだろうって。私が知っている人なのか、それともこれから出会う人なんだろうか。」
「その答えは、その2冊のファイルにあるみたいだね。」
芽依ちゃんがそういうので、私はファイルのことについても芽依ちゃんに話してみた。
ファイルのタイトルは、「Wahrheit」と「Bericht für die Wahrheit」で、ドイツ語で「真理」と「真理のためのレポート」を意味していることを芽依ちゃんに伝えた。だけど、詩がファイルの中身については、急な展開だったので、まだ確認出来ていないことを話した。
すると、電話口でもわかるほど、芽依ちゃんが興味深々の様子で、少し興奮したような吐息混じりの声で、こう提案してくれた。
「ねえ、詩ちゃん。もし良かったら今度会う時に、その内容を私に教えてくれると嬉しいな。」
「もちろんよ。芽依ちゃんにも一緒に魔法の謎を解いて欲しいからね。では、ファイルの内容が確認出来次第、連絡するね。」
「詩ちゃん、ありがとう!私もこの結末が知りたい。約束ね!」
二人はこう約束をして、詩はこの日、芽依ちゃんとの電話を切った。
まだ見たことのない世界への新しい扉。その扉って、このファイルの表紙なのかも知れない。このファイルは、もしかすると魔法の世界に繋がる秘密の文書なのかも知れないと詩は思った。




