魔法の杖
「詩ちゃん、こっち!」ゴールデンウイークで混み合うパーク内のレストランで菜美ちゃんが席を取ってくれていた。詩はトレイ一杯に乗せたサンドイッチとポテト、オレンジジュースなどのドリンクを持ったまま、菜美ちゃんのところまで歩いていった。今日は、会社の同僚の菜美ちゃんとテーマパークで遊ぶと約束をした日だ。今日は、朝から天気も良くて、絶好の行楽日和だ。
誰かのために何かをするって、やっぱり楽しい。フードを運んでいるだけだったが、仲良しの菜美ちゃんのためになっているのは嬉しかった。今日は一日とことん楽しもうと心に決めて、開演前からゲートに並んで人気のアトラクションを巡ったら、もうお昼になっていた。
「次はここに行こうよ!」
ポテトを咥えた菜美ちゃんが指し示したのは、著名な映画の世界を再現したエリアだった。そう、人間界と魔法界が共存する世界感を再現した世界だ。
「私、魔法の杖を買いたい!」
「私も!」
行動力が旺盛な菜美ちゃんに、間髪を入れずに賛同した。本人が意識しているかどうかは知らないが、菜美ちゃんが私を励ましてくれる気持ちが伝わってくる。本当に感謝の気持ちしかない。
しかも、魔法の杖は以前から欲しかったアイテムだ。私もいっちゃんみたいな魔法を使いたい。
「さあ、次にいこうか!」
食べ終えた途端、菜美ちゃんがトレイを片手で持ち上げて催促した。ショートヘアの後ろ姿が可愛い。今日は菜美ちゃんといっぱい遊ぼう。
結局、一日中アトラクションを楽しんだ後、くたくたになったのでパークの出口付近のカフェで休憩した。このままだと、電車に乗るのもしんどいので、最寄り駅に向かう前に二人ともどこかに座りたかった。
メニューをみて選んだアップルティーの香りを楽しみながら、詩はずっと気になっていたことを聞いてみた。
「菜美ちゃんさあ、あの遠距離恋愛していた彼氏とは最近どうなっているの?」
「え!」
いきなりの私からの恋バナの質問に、菜美ちゃんはチョコアイスが付いた口元を覆い、少し戸惑った表情を浮かべた。
そして、少し間を置いて、菜美ちゃんは私の眼をみつめながら聞いてきた。
「私の話しを聞いてくれる?」
「もちろんよ、何か進展はあった?」
これまで、菜美ちゃんから彼氏の話しは散々聞いてきた。きっと、話したいことはたくさんあるはずだ。ただ、あのとき以来恋愛の話は、お互いに全くしなくなった。私がずっと落ち込んでいたので、菜美ちゃんの方から彼氏の話しはしづらかったのだろうと思い、この機会に私から聞いてみようと思っていた。
そんな風に思えたのは、暗証番号が判明して、きっと私の気持ちに余裕が出てきたからだ。これからは、お世話になっている菜美ちゃんのために何かをしたい気持ちが、パークに入園したときから湧いていた。




