不思議な夢
次の日の夜、不思議な夢をみた。少し離れたところに、彼がいた。思わず「いっちゃん!」と呼びかけたが、なぜかこちらの声は聞こえず、顔を合わせることもなく、彼は何かの書類を確認している。
ここはどこだろう。辺りを見渡すと、彼以外にも忙しく書類を確認している何人かの人の姿が見えた。ここは何かの職場だろうか、ときどき、彼もその同僚と思われる人と、何かを話しながら書類に何かを記入している。ただし、向こうの声は何も聞こえない。
見えないガラスで隔てられた世界に彼はいるようだ。その世界のところどころには、四方を腰の辺りまでの高さの枠で囲まれた場所があり、作業をしている人達が、その枠で囲まれた場所を上から覗いている。彼もときどきその場所を覗いて、何かを確認している。
周囲の空気が違う、直感的にここは違う世界なんだと理解した。なぜかここは私には入れない世界なんだと納得した。環境が変わっても、彼はこの世界の仲間と楽しく過ごしていることがわかった瞬間、何となく落ち着いた。ただ、彼の姿を見ることが出来て嬉しかった。彼がまだ存在していると思えたことが幸せだった。
彼が放った言葉で、未だに意味がわからない言葉がある。「実は、生と死に境界なんてないんだよ。」彼が真面目な顔をして言ったことがある。
そのときは理解できなかったので、「ふーん」と興味なさそうな相槌でやり過ごした私に、彼は意味深な笑顔で「いずれ、わかる日が来るよ。」と言った。
そのときの彼の表情を想い出した瞬間、突然、目が覚めた。枕元にあるデジタル表示の時計の日付をあらためて確認した。
今日は亡くなった彼の誕生日…。今はもう毎年恒例のプレゼントを渡す相手もいない普通の日。日付が変わるまで起きていたとしてもメールは絶対に届かないので、昨夜はいつもより早く寝た。
だけど、もはや想い出のなかにしか存在しないと思っていたいっちゃんに夢で会えた。ずっと抑え込んでいた想いが、頬をつたった。例え遠く離れていても、いっちゃんはまだ存在している。そうリアルに実感した朝になった。




