洗濯
昨夜、入浴のときに浴室の洗濯籠に入れておいた衣類を種類ごとに洗濯ネットに纏めて、順番に洗濯機に入れていく。お気に入りの爽やかな香りのする洗剤を所定の場所に投入して、洗濯ボタンを押した。これまでずっと茶室の図書館の資料を探求してきて、ついにここまで来たかと思った。
そう、大型連休の初日の朝、いよいよ最後の段ボール箱を開ける日になった。今日新たな発見があり、ついに暗証番号のヒントが見つかるかも知れない。もちろん、ヒントが見つからない可能性の方が高いことも理解している。期待と不安が入り混じった感情は、まるで宝くじの当選番号を確認するときの感情のようだった。
リビングに戻り、浴室から自動洗濯の水音が聞こえる中、少しドキドキしながら、最後の段ボール箱のガムテープを剥がした。箱を開けると、一番上に『饗宴』という本があった。著者はプラトン。この本にはたくさんの書き込みがあった。その内容を見て、これがいっちゃんが何度も言っていた人間球体説を唱えている本だとわかった。
人間は独りでは不完全。残りの片方となる相手を見つけることで完全になれる。人生は、その残りの片方を見つけるための旅路。プラトンの『饗宴』の中では、その内容を相手に問いかけるような形式で記載されている。こんな昔によくそういうことを考えついたものだと思う。今でもその考え方は実際に人に影響を与えている。偉大な哲学者は凄い。
他にも、哲学者のフロイトやエーリッヒ・フロムが書いた本が入っていた。ここは哲学研究所FI/7だ。なかでも、ユング心理学という本は、その表紙が可愛いイラストで記載されていて、学校の教科書のような表紙の他の本とは違って、ひと際、目を引いた。中を開くと、夢には意味があるとか、無意識の世界が大切だとか興味深い項目の頁が列挙されている。この間の変な夢も気になるし、あまり書き込みはないけれど、後で読んでみようと思った。
更に、段ボール箱から本を取り出していくと、旧約聖書の創世記や般若心境の宇宙などという宗教に関する本があった。創世記を開くと、最初の見出しは天地創造となっており、『はじめに神は天と地を創造した。』と書いてあり、なるほど、これはまるで神話だなと思った。そうか、多分、いっちゃんの中では、宗教の世界観も神話の一部なんだ、だからこういう書籍も研究対象にしているのだなと思った。そう、ここは宗教学研究所FI/8だ。哲学研究所と合わせて、そのパスワードはポルックスだ。
ここで、芽依ちゃんの言葉を想い出した。神様の子ポルックス、天界と冥界を行き来し、不死の命を分け合って人間の命を持つ兄弟と一緒に過ごしたという神話上の存在だ。この最後の箱には、貸金庫に繋がる何かがあることを期待させる。
学問としての哲学書以外にもこの箱には、人間がこの世界をどう捉えているのかという思想に関する本が入っていた。中には、占星学などの占いの本もある。朝のテレビニュースで、今日の何座は何位とかいうランキングを発表しているのも星占いだ。
そういえば、いっちゃんは、朝の星占いをこまめにチェックしていた。自分の星座だけでなくて、私の星座の占いの内容も毎朝チェックしてくれていて、私の星座がその日の一位のときは、朝から「詩ちゃん一位だよ☆」とメールをくれた。
反対にランキングが思わしくないときは、「今日も頑張ろうね」とか気遣うメールをくれた。どんなときも、私をいつも前向きにしてくれる。そんな心遣いが嬉しかった。




